一風堂&一蘭、世界に打って出る博多発体験型ラーメン

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 博多発祥のラーメンチェーン「一風堂」と「一蘭」は、単なる飲食店を超えた“体験型ラーメン”として、世界中の食文化に新たな価値を提供することで、旋風を巻き起こしている。両社はともに博多豚骨ラーメンをルーツにもちながら、異なる戦略でグローバル展開を進めているが、その成功の共通点は「食の体験価値」にある。

一風堂:洗練された“ラーメンダイニング”の創出

 一風堂は、創業当初から従来のラーメン店のイメージを刷新することに注力し、女性1人でも入りやすいスタイリッシュな店舗デザインやジャズのBGMなどを取り入れて新しいラーメン像の構築の最前線を走ってきた。海外進出にあたっては、ニューヨークやロンドンなどの大都市に直営店舗を出店し、ブランドイメージを拡大する戦略を採用している。アジア各地の店舗は現地企業とのライセンス契約を結び、店舗数を増やす戦略をとっている。さらに、メディア露出を活用し海外での知名度を高めている。

 一風堂は、海外進出にあたり、現地の食文化や嗜好(しこう)に合わせたメニュー開発や店舗展開を行う「ローカライズ戦略」を採用している。たとえば、アメリカではベジタリアン向けのラーメンを提供するなど、現地のニーズに合わせたメニュー展開が功を奏している 。また、減塩ラーメンの開発やプラントベース、グルテンフリーのラーメンを提供するなど、健康志向の顧客にも対応している。

一蘭:個人主義的な“味集中体験”の輸出

 一蘭の最大の特徴は、「味集中カウンター」と呼ばれる仕切り付きの個別ブースだ。英語ではICHIRAN's Original Private Ramen Boothsと名付けられている。客は他人と視線を交わすことなく、オーダー用紙で細かく味の好みを指定し、自分だけの一杯に集中できる。日本の同店でもおなじみのシステムだが、この独自の食体験は、SNSを通じて世界中に拡散され、とくにアジア圏や欧米の観光客から「日本でしか味わえない体験」として高い評価を受けている 。

 一蘭は、糸島市にある製造拠点「一蘭の森」で、麺やスープ、チャーシューを一貫して自社製造し、品質の均一性を保っている 。また、地域特性や顧客ニーズに合わせた柔軟なメニュー開発も行っており、たとえば太宰府参道店の「合格ラーメン」や、インバウンド向けの「100%とんこつ不使用ラーメン」などがその例として挙げられる 。

世界が求める“体験型ラーメン”の魅力

 一蘭と一風堂の成功は、単に本場の博多ラーメンを提供したにとどまらない。食事そのものを「体験」として再定義した点にある。一蘭の「味集中カウンター」は、個人主義的な食文化を持つ欧米の顧客に新鮮な驚きを与え、一風堂の「ラーメンダイニング」は、洗練された空間での食事を求める都市部の顧客に支持されている。このような“体験型ラーメン”は、世界中で新たな食文化として受け入れられ、日本のラーメンが単なる料理から文化的な体験へと進化していることを示している。

 両社のように独自の体験価値を提供する外食ビジネスが、世界の食文化に新たな風を吹き込むことが期待される。

【寺村朋輝】

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