【日朝関係の未来】拉致問題解決の突破口はどこに?(前)~鳥取発・日朝関係の可能性~
国際未来科学研究所
代表 浜田和幸 氏
鳥取県という国際関係が交差する地方の現場に焦点を当て、地方から北朝鮮との対話の糸口を見いだす可能性を探る。石破首相の地元・鳥取を起点とする独自の外交戦略が、拉致問題解決に向けた新たな突破口となるのか──。
鳥取県と北朝鮮
石破首相の選挙区である鳥取県は、日本海を隔てて朝鮮半島やロシア、中国とも歴史的、地理的、文化的に近い位置にあるため、近隣のアジア諸国との経済的つながりは深いものがあります。
なかでも、日本海側では漁港として最大の規模を誇る境港市は日本では唯一、北朝鮮の元山(ウォンサン)市と1992年から2006年まで友好姉妹都市関係を結び交流を深めていました。しかし、06年10月に北朝鮮が核実験を行ったため、友好関係は破棄されてしまい、今日に至っています。
とはいえ、石破首相は「北朝鮮による拉致問題の解決には一刻も時間的余裕はない」と明言しています。トランプ大統領と面談した際にも、この問題の解決に向けて、アメリカの支援を要請したとのこと。また、「平壌と東京に連絡事務所を設置し、拉致被害者の情報収集を加速させたい」とも述べてきました。
拉致被害者家族と北朝鮮への視線の違い
しかし、北朝鮮から色よい返事はありません。それどころか、肝心の「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」からも「賛成できない。連絡事務所を設置しても、北朝鮮は情報提供を拒み、時間稼ぎを図るだけ。北朝鮮にだまされないようにしてほしい」と、石破氏の勝手な思い込みに水を差すばかりです。
日本人拉致被害者の情報は北朝鮮政府が握っていることは間違いありません。国民の一挙手一投足を把握するため、監視体制を徹底しているのが北朝鮮ですから。そうした北朝鮮を動かすには、同国が経済、軍事の両面で依存を深めているロシアや中国から圧力をかけることが欠かせません。
さらにいえば、北朝鮮が最も恐れているアメリカの力を活用することも重要です。実は、トランプ大統領は1期目には3度の金正恩総書記との面談を行いました。2期目においても、「北朝鮮との関係を重視している。金正恩とは良好な個人的関係を維持しているので、近く再会をはたしたい」と前向きな姿勢を述べているほどです。そうした重層的外交努力のうえで、日本独自の切り札を行使すれば、金正恩総書記の弱みを突くことも可能になります。
安倍外交と北との独自パイプ
故・安倍首相は「国際社会の秩序が崩れ、複雑化している。日米同盟は重要だが、アメリカが世界の警察官の役割をはたすことはもはや期待できない。ゆえに、パワーバランスを計算しつつ、各国との関係を強化し、国益を追求しなければならない」と持論を展開。要は、独自の対中、対ロ、対北朝鮮外交を追求しようと目論んでいたのです。
いうまでもなく、アメリカの対外戦略の中心には「戦争ほどもうかるビジネスはない」という軍産複合体の意向が強く投影されています。かつてアイゼンハワー大統領が退任演説で警鐘を鳴らした通りです。現在進行中のウクライナ戦争でも、それ以前のアフガニスタン侵攻やベトナム戦争、はたまた朝鮮戦争のいずれにおいても、外交努力よりも「力による支配」を優先し、結果的に失敗を重ねてきたのがアメリカといえます。
安倍氏は生前、北朝鮮による日本人拉致問題の解決のために、旧統一教会との人脈づくりにも精力的に取り組みました。創始者の文鮮明総裁が北朝鮮の出身であり、金日成王朝とのパイプ役を期待したからです。残念ながら、故・安倍首相に限らず、北朝鮮との独自のパイプづくりに動いた日本の政治家はことごとく闇に葬り去られてしまいました。
石破氏は1992年、金丸訪朝団の一員として北朝鮮を訪問し、大歓待を受けた経験をもっています。曰く「北朝鮮は恐ろしい国だ。追い詰めるのは、窮鼠猫を嚙むではないが、危ない」。そのうえで、「相手が何を考えているのかしっかり理解することが交渉の第一歩となる」と主張するのが常でした。
とはいえ、石破氏が初めて平壌を訪問した際には、同行の議員仲間からは「北朝鮮からはおいしい餌をぶら下げられたようだ。値踏みをされたことは間違いない。おねだりもしていたようで、帰国の機内では何やらうれしそうで自慢たらたらだった」とひんしゅくを買っていました。「北朝鮮を知り、理解するため」とは言いながら、相手の術中にはまってしまったのではないか、と当時から大いに懸念されたものです。
資源と情報の“切り札”を生かせ
日本は過去に朝鮮半島を35年以上、支配していましたが、その間、資源の豊かな北朝鮮側でその開発に必要なインフラ整備や人材育成に取り組んだのは三菱グループなど日本企業でした。現在も北朝鮮が継続する地下核実験やミサイル発射に欠かせないレアメタル等の資源に関する情報は日本に多く残されています。
さらにいえば、日本統治が終わった後も、アメリカ政府の要請を受け、日本の公安組織は水産業支援や環境調査の名目で、北朝鮮の核、ミサイル技術の精度を確認するデータの収集にまい進してきたものです。朝鮮半島周辺の海域や河川から汚染水を回収し、北朝鮮の軍事力の隠された実態を究明しようとしてきました。この分野での日米協力は今日まで継続されています。
(つづく)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。