【連載9】ウクライナ戦争とトランプ関税戦争の行方:漁夫の利を目論むのは誰?(後)
国際未来科学研究所
代表 浜田和幸
シリーズ『ドナルド・トランプとは何者か』の第8回
未来学者の浜田和幸氏による連載「未来トレンド分析シリーズ」。今回の記事はトランプシリーズとしてもお届けする。
トランプ大統領の関税戦争は、同盟国をも敵視する強硬姿勢を鮮明にし、日本政府を翻弄(ほんろう)した。加えて、ウクライナ戦争に乗じた資源争奪戦も表面化し、ゼレンスキー政権や欧米投資ファンドとの癒着が浮かび上がる。利権をめぐる米英対立が深まるなか、漁夫の利を狙うロシアと中国の動向を含めて検討する。
ウクライナ資源を狙うトランプとプーチンの思惑
トランプ大統領からは、ロシアや中国の動きを抑えるためにも、ウクライナを自国領に組み込もうとする狙いが透けて見えます。アメリカの支援がなければ生き残れないウクライナの弱みにつけ込み、アメリカの黄金時代に欠かせないレアアースをそっくり手に入れようという魂胆に他なりません。しかも、トランプ氏はプーチン氏ともウクライナの鉱物資源を山分けする裏取引も密かに進めている模様です。
先にワシントンのホワイトハウスで行われた首脳会談は「けんか別れ」に終わりましたが、その後、ゼレンスキー大統領がわびを入れたため、トランプ大統領も資源をめぐる交渉を再開させる意向を示しました。何しろ、ウクライナには欧州最大の鉱物資源が眠っています。石炭、石油、天然ガスに加えて、50万トンと見られるリチウムをはじめマンガン、チタニウム、グラファイトなど枚挙の暇がないほどで、地下鉱物資源の宝庫といわれる所以です。
ゼレンスキー大統領と欧米投資ファンドの癒着
当然でしょうが、ゼレンスキー大統領もトランプ大統領の思惑を十分すぎる程、理解しています。そのため、仲介役をはたしているアメリカのブラックロックやバンガードなどの巨大投資ファンドとの間で密かに契約を結ぶ手回しの良さを見せてきました。
多くのウクライナの国民が住む場所を失い、ロシアとの戦闘で命を失っているにもかかわらず、ゼレンスキー大統領とその家族や取り巻きは国外で豪遊を続け、「この世の春」を謳歌(おうか)しているため、ウクライナではゼレンスキー大統領への信頼は地に落ちていると言っても過言ではありません。すでに昨年5月に任期が切れているゼレンスキー大統領ですが、戦時下という理由で選挙を先延ばししています。今、選挙となれば、ウクライナ国民からは信頼が失墜しているため、恐らく当選することはなさそうです。
日本では報道されていませんが、ゼレンスキー大統領の動きはすさまじい限りです。具体的には、21年の時点で、国内法を改め、ウクライナ国内の土地や資源を外国に売却できるようにしました。これは明らかにアメリカやイギリスからの圧力を見越してのことです。
というのも、ヨーロッパ最大の穀物資源やレアアースなどの鉱物資源を有するウクライナに対して、ブラックロックやバンガードなど欧米の投資ファンドはすでに触手を伸ばしていたからです。イラク戦争を仕掛けたアメリカの動きを国連の立場から検証したリッター氏がゼレンスキー氏をめぐる金銭疑惑を調査したところ、同大統領に関する「不都合な真実」が次々と明るみに出てきました。
具体的には、欧米の投資ファンドはゼレンスキー氏を篭絡するため、第1段階として4,100万ドルの賄賂を提供したとのこと。この資金を使って、ゼレンスキー氏はマイアミに3,400万ドルの豪華な別荘を購入しています。その後も、イスラエル、イタリア、イギリス、ジョージア、ギリシャ、エジプト、そしてクリミアにも不動産物件を入手してきたことが明らかにされました。もちろんクリミアの物件はロシアに収奪されてしまったのですが…。また、ケイマン諸島には莫大な隠し財産を保持していることも指摘されています。
日本がはたすべき役割と独自外交のチャンス
では、日本はウクライナとどのような関係を築こうとしているのでしょうか。岸田前首相のときには、ご本人はもちろん上川外務大臣もウクライナを訪問し、戦後復興に全面的に協力する意向を示してきました。あまり知られていませんが、ウクライナは大の親日国です。横綱・大鵬の生まれ故郷でもあり、日本がロシアと領土問題で膠着(こうちゃく)状態を続けている「北方領土」にしても住民の大半はスターリン時代にウクライナから強制的に移住させられたウクライナ人です。
経済的にもつながりは深く、日本たばこ産業にとってウクライナは最大の原料供給国に他なりません。楽天の三木谷社長は、ウクライナをたびたび訪問し、戦争終結を見越して、新たな投資案件を協議中とのことです。
アメリカやロシアが狙う鉱物資源の開発にしても、地雷除去が先決となります。カンボジアで自衛隊が大きく貢献したように、地雷除去や戦後復興のインフラ整備の分野では日本の持つ経験や技術は大きな期待を集めているところです。日本にはこうした交渉カードがあるわけですから、単にアメリカの肩代わりで資金提供に関わるだけではなく、独自の平和外交に舵を切るべきチャンス到来ではないかと思います。
ウクライナ政府は「戦後復興に際しては日本から経験、技術、資金の提供をお願いしたい」と要望していますが、復興計画はブラックロック主導の下ですでに動き始めているのです。しかも、そうした投資ファンドはプロ集団であるロスチャイルド家が操っている面が否定できません。
ロスチャイルド家はイギリス政府を動かし、2025年1月にはウクライナ政府と100年間におよぶ資源開発計画を締結させたばかりです。いずれにしても、ゼレンスキー氏は「投資ファンドに従う強欲なピエロ」であり、トランプ氏は「弱い相手を骨の髄まで喰い漁るサメ」のような存在だと言っても過言ではなさそうです。
そのトランプ大統領ですが、ウクライナを含め、全世界を相手に関税戦争をぶっ放す一方で、「ゼレンスキーは自分の立場を分かっていない。アメリカを捨ててイギリスと手を組もうとしている。これ以上、アメリカからお金を無心しようとしても、受けつけない。まずは鉱物資源を差し出せ」と念を押すかのような最後通牒を繰り出しました。相互関税問題に加えて、ウクライナの資源をめぐってのアメリカとイギリスの利権争いで、西側諸国の分裂はますます激化する雲行きです。ロシアと中国が漁夫の利を得ようと、水面下で画策していることは間違いありません。
(了)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。