福島自然環境研究室 千葉茂樹
福島県在住で自然環境問題を中心に情報発信をしている千葉茂樹氏から、岩手県大船渡市で発生した林野火災のその後についてレポートが届いたので紹介する。
大船渡林野火災後の現状がIBC岩手放送で報道されました。それを見てはっきりと分かることは、林野火災後の状態のまま、土砂災害を防ぐための対策が十分に講じられていないということです。
実施されたのは、谷部に貧弱な砂防堤を設けたことだけです。しかし、こうした砂防堤は、土石流には無力です。岩手県の職員および大船渡市の職員の対応は、お粗末としか言いようがありません。
まず、燃え残った「焼けぼっくい」の樹木をそのまま放置しています。土石流が発生した場合、これらの木は「弾丸状」になって下流部を直撃し、物理的破壊を引き起こします。こんなものが残っていたら、土石流発生の際に大被害をもたらすことを知らないのでしょうか。
鎮火後の最初の対応として、これらの木をすべて撤去しなればなりません(私なら、燃え残った樹木の伐採後に、草の種やら幼木を植えて緑地化し、土砂の流失を防止します)。人家の火災なら、鎮火後に片づけを行うのは当然のことです。
また、県職員が灰(木の灰)だらけの斜面に測量棒を突き刺していました。これで、灰がどのくらい堆積しているのか(厚いか)がわかります。それなのに、対策を何もしないで、傍観ですか(私なら、県なり市に緊急対策を要求します)。職務怠慢も甚だしく、あぜんとさせられます。こんな状態で、豪雨になったら甚大な被害を招くおそれがあります。
灰(木の灰)は、「水をほとんど通しません」。ですから、降雨があると水がまず灰のある地表を流れ、次いで灰と水が泥状に混じって斜面を流れ下ります。
局部的には、斜面をえぐり取ります。豪雨ならば、必ずと言っていいほど、起きるでしょう。斜面崩壊が大規模になれば、土石流発生です。ここに燃え残りの樹木が混じれば、破壊の威力がすさまじくなります。こんなことは、少し考えれば想像できることです。
しかし、インタビューに応じた岩手県の職員は「危機感をまったく感じさせない」平然とした話し方をしていました。あたかも他人事のようです。
私の懸念、提案は以下に書いています。
大船渡の山火事に見る里山の重篤な問題(前)
大船渡の山火事に見る里山の重篤な問題(後)
「座して災害を待つ」──県職員の鈍感さには、あきれました。
なお、私の実家付近でも、県の工事に関連して以下のような問題がありました。
シラス様台地で行われた杜撰な国道工事~朝ドラ『おかえりモネ』の舞台近くで起きた道路工事問題(前)
シラス様台地で行われた杜撰な国道工事~朝ドラ『おかえりモネ』の舞台近くで起きた道路工事問題(後)
<プロフィール>
千葉茂樹(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ、岩手県一関市出身、福島県猪苗代町在住。専門は火山地質学。2011年の福島原発事故発生により放射性物質汚染の調査を開始。11年、原子力災害現地対策本部アドバイザー。23年、環境放射能除染学会功労賞。論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
原発事故関係の論⽂
磐梯⼭関係の論⽂
ほか、「富士山、可視北端の福島県からの姿」など論文多数。