現代の日本医療に必要とされるもの(7)
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カマチグループ 会長 蒲池 真澄 氏
九大病院第一内科 教授 赤司 浩一 氏人材を育てることの大切さを知る
─― 原宿リハビリテーション病院を短期間で満床にできた、その秘訣とは。
蒲池 ソフト、つまり人材の差だと思います。回復期リハビリ病棟は一般病院とは違います。主役はドクターではなくセラピストです。そのセラピストの指導の仕方を知らないところが多いですね。
またリハビリ医師にしても専門室で待ち構えて、リハビリしてやろう、というような態度が見えてしまうようなセラピストではいけません。「自分が施術する患者は自分が迎えにいくべき。車椅子に乗せるのもリハビリのうちだろう!」と叱ったこともあります。
回復期リハの医師に必要なのは人格ですよ。患者さんのために、より高みに上りながら妥協する。「Innovation is Tradition、毎日改革することを伝統としようではないか」と、そういう態度で施術しながら良いセラピストは育つのです。
─― 先日、看護師やセラピストを育てる立場にあるカマチグループの学校法人福岡看護専門学校の先生方の懇親会に、弊社の記者が参加させていただきました。皆さん、「学生たちの最高の幸せは看護師やセラピストとして就職できること」と、熱心に指導に当たっている方々ばかりだったと感心していました。親睦会とはいえ、その規模は大きく、福岡県宗像市の保養所を会場とし、佐賀県武雄市の学校が主催し、九州・山口のみならず千葉県八千代市からも参加していました。
蒲池 人材を育てることがいかに大切で大変か。そういう根本的なものがわかっているから、皆、懇親会を大切にするのです。なかなかいい回復リハ病院を運営できないところは、その人材を育てることの大切さと大変さをわかっていない。当病院に追随するように回復期リハ病院を建てるところも増えましたが、ハードはできても、ソフトが追い付かないでしょう。当病院に追い付くには10年ほど掛かるはずです。
当院ではカマチ医院として19床の開院当時から、長い治験や研究に基づく定番の医療のなかから、患者さんの症状にあったものを選んで丁寧に治療する、ということを徹底してきました。今はこれを基本としながら、部分的に最先端医療を取り入れていかねばと思っています。回復期リハ病棟の導入も、時代の変化に応じて求められる新しい視点を取り入れた結果、今があります。それと同じ考えです。
また、先ほども弊社の学校法人のお話が出ましたが、教育についても病院内で力を入れてきました。救急隊員に対しても、講習会を開くなどして医療知識を学んでもらいましたし、医師に対しても専門を越えた医療が施せることを望んでいます。夜間にCT診断が必要な患者が来れば、レントゲン技師であろうとCTを使えるようにしています。また日中でもCT、MRI、エコーともできるだけ待ち時間を少なくして、必要な患者をできるだけ早く利用できるようにと指導しています。PETに関してはサイクロトロンを朝5時から回し、8時に注射し、9時から撮影できるようにしています。一日2回転で、12時には第2回目ができるようになっています。
赤司 普通はなかなかそこまでできませんよ。
蒲池 時間外対応も、シフトと時間勤務枠をきちんと管理すれば、負担なく行えますよ。当院ではレントゲン技師も検査技師も薬剤師も当直ではなく夜勤で行います。当然次の日は休日です。過重労働にならないよう時間管理も厳格に行い、プライベートでゆったりとした時間と組み合わせるようにしています。
どんなに患者さんのためを思っても、患者さん全員が満足することはあり得ません。ただ職員全員が「この病院が私の誇りだ」と思うことはあり得ます。多くの人から世界一と賞賛されているメイヨー・クリニックでさえ、満足度は93%です。完全ではありません。当院は別に知名度があるわけでもなく、近くにあるから仕方なく来るという人もいるわけですから、満足度は70%ぐらいだと思っていますが。しかし、私たちが信念をぶれさせることなく、「標準的な医療を丁寧にやる」ことに務めていれば、大部分の患者さんを満足させることはできるのではないかと思っています。ただ、このような標準的なことも、病院によっては、実践するのが難しいところがあるようですね。医療の研究・開発、教育の場が損なわれない未来を
赤司 大学病院は研究・開発において成果を発揮し、他医療機関に貢献するという使命があるので、標準値を越えたところでの成果も求められています。いろいろなことが要求されますが、人数が多いので、一般病院より余裕があるのは確かです。その分、研究、教育に時間を取り、大学病院にしかできないことをやる一方、臨床では一般の患者様を迎えるわけですから、それこそ標準的な医療を丁寧に施すような診療も求められます。本当に求められることがだんだんと多くなっていきますね。
大学病院も患者さんの満足度を求められますし、収益を上げることも求められます。しかし「大学病院にしかできないこと」である研究、教育に力を入れていくことが、我々大学病院の使命だと思っています。研究開発、そして学生の教育にも力を入れたい。今後医療の在り方については、国策や世論などが様々な論議を展開させていくと思いますが、何があろうとも次世代の医療に貢献する教育や研究開発の場が壊れるようなシステムにはして欲しくありません。
─― 赤司教授の立場であれば、九大病院第一内科を始め、様々な組織の長として、多くの人たちを束ねることも求められるでしょう。
赤司 そうですね。個人主義のアメリカでは考えられない状況ですが、楽しいですよ。日本の方がやりやすいですし、やりがいも感じています。アメリカ留学によって、日本の医療現場とは違う方法論を知ったというのは幸せでしたが、今の仕事量を考えると、日本で人と関わり合い、託し合いながらやれているという状況が好ましい。日本に帰ってきて、日本ならではのチーム体制のなかで医療に携われるのは幸せなことだと思っています。
─― おふたりが力を合わせると、素晴らしい日本医療が生まれそうですね。本日は、長きにわたりお話を聞かせていただき、ありがとうございました。(了)
【聞き手・文:黒岩 理恵子】関連記事
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