【企業研究】西友買収で1兆円企業の仲間入りをはたすものれん償却負担重く

(株)トライアルホールディングス

(株)トライアルホールディングス    ディスカウントストア(DS)運営の(株)トライアルホールディングスは7月1日付で老舗スーパーである(株)西友の全株式を取得し完全子会社化。売上高約1兆3,000億円(トライアルは2025年6月期、西友は24年12月期の数字)となり、九州の小売業者では(株)コスモス薬品に次いで売上高1兆円企業の仲間入りをはたした。両社は地域や店舗形態の面で重複が少ないことから補完性が高く、西友店舗取得はトライアルの東京進出、全国展開を加速させると見られる。しかし、一方で26年6月期連結決算では当期純利益が激減するとの予想が示され、のれん償却がトライアルの今後に重くのしかかる。

補完性高い西友買収

 (株)トライアルホールディングスの時価総額は、西友子会社化発表(2025年3月5日)前の同1日時点で約2,900億円、同7月1日時点で約3,000億円。25年6月末時点での総資産は3,070億2,900万円、純資産は1,290億2,800万円。西友の買収額3,800億円より低く、小が大を飲むともいわれた今回の子会社化だ。

 新興で急成長中のトライアルと、長い歴史をもつ西友とでは一見大きく異なるように見えるが、地域、店舗形態の面で重複が少なく、事業の補完性は高いと見られる。トライアルは福岡発祥で郊外の大型店を中心に展開、近年は全国に展開し、また都市部で小型店の開発も進めているものの、首都圏では店舗は少なく、東京には未進出であった。一方の西友はかつて全国規模で展開(昨年の九州・北海道の店舗の譲渡前)してきたが、首都圏を中心に関西圏、中京圏の市街地で主に展開しており、駅近くの好立地の店舗を多くもつ。またトライアルは約4,000m2のスーパーセンターが中心、西友はそれより小さいが小型店より大きい約2,000m2の店舗が中心だ。

 トライアルHD にとってのメリットはいくつも考えられる。首都圏の西友店舗を拠点にトライアルGOの出店を年内の行うとしており、今後積極的に進めると見られる。トライアルGOは自前の厨房設備をもたないが、西友店舗で惣菜などを調理し、配達することで、周囲にトライアルの大型店舗がなくても店舗展開が可能になる。PB(プライベートブランド)比率を高めることを中期目標に掲げており、高い評価を得ている西友のPB「みなさまのお墨付き」を手に入れることは、粗利率を向上させるうえでも魅力的だ。西友は業界でいち早くネットスーパー事業を始め、楽天が株式を所有していた時期もあり、その経験を取り入れることもできる。なによりも、祖業がITでリテールテックを標榜するトライアルにとって、ITを積極的に駆使するウォルマートの傘下にあった西友はほかの企業よりも親和性が高いといえる。

TRIAL GO 福岡別府3丁目店
TRIAL GO 福岡別府3丁目店

    一方の西友はこれまでウォルマート傘下で生き残りを図ってきたがうまくいかず、事業は縮小の一途をたどってきた。トライアルHDの傘下に入ることが、競争力を取り戻すきっかけとなるかもしれない。トライアルHDのDXを積極的に活用することができるほか、規模拡大により価格交渉力を強化できる。

経営はトライアル主導で

 西友は1963年に設立。(株)西武百貨店(当時)と強く関わりをもち、セゾングループの中核をなすスーパーチェーンとして発展した。78年にファミリーマート事業を開始し、80年に「無印良品」を開発、2000年からネットスーパー事業にも早期参入するなど、流通・小売業界において先進的な取り組みを行ってきた歴史をもつ。しかしセゾングループが経営破綻によりファミリーマート、無印良品などを手放し、西友も02年に小売世界最大手の米ウォルマートとの業務提携という道を歩むこととなる。05年にはウォルマートの子会社となった。西友はウォルマートのEDLP(Everyday Low Price)戦略を採用したほか、同社のPBや店舗運営・物流管理システムなども導入した。

 しかし、業績の長期低迷は続き、21年3月、ウォルマートは西友株の15%を残して米投資ファンドKKR(65%)および楽天子会社(20%)に売却。西友の運営から撤退した。西友は楽天との協業によりネットスーパーへの注力などを進めるが、楽天は23年5月に保有していた西友株をKKRにすべて売却した。そのKKRは24年4月、西友の九州および北海道の店舗をそれぞれ8月に㈱イズミ子会社((株)ゆめマート熊本)、10月にイオン北海道(株)に譲渡することを発表。本州から離れた地域の店舗を抱えていては物流コストが嵩むため、切り離して首都圏などに注力するとのことであったが、譲渡後には西友本体の売却説も浮上する。

 スーパー最大手のイオン(株)、「ドン・キホーテ」などを運営する(株)パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が有力視されるなか、トライアルHDが3,800億円の買収額を提示、競り落とした。7月1日にKKRとウォルマートから全株式を取得した。

 トライアルHDは西友店舗の今後について、当面名称は変更しないとしている。トライアルのPB商品についてはすでに「三元豚ロースかつ重」などの総菜を実験的に展開しており、今秋以降、販売を拡充していくほか、トライアルのスキップカート、リテールメディアなどの導入も検討していくと見られる。

 西友の経営体制については、7月2日付でトライアルHD社長・永田洋幸氏が会長を兼任、社長にはトライアルカンパニー元社長・楢木野仁司氏が就任した。西友前社長でKKRのもと経営改善に貢献した大久保恒夫前社長CEOは副会長に就任したが、7月31日付で取締役からも退任した。

24年度は大幅な増収増益

 トライアルHDは8月13日、25年6月期決算(連結)を発表。西友が傘下に入る前の業績であるが、売上高は8,038億2,900万円(前期比12.0増)、営業利益は211億600万円(同10.2%増)、経常利益は222億円(同12.2%増)、当期純利益は117億5,200万円(同2.7%増)と増収増益を達成した。売上高・営業利益ともに大幅増の過去最高額を記録したほか、25期連続増収を達成した。

 セグメント別では主力事業である流通小売事業が売上高7,998億2,500万円(同11.9%増)、セグメント利益が237億2,600万円(同8.4%増)。リテールAI(スキップカート、リテールメディア)事業が売上高51億9,900万円(同12.6%増)となり、セグメント利益については長年赤字続きだったが5,500万円とわずかながら黒字転換をはたした。

 新規出店は当初計画の通り35店で、閉店が1店で34店増。出店は24年6月期の41店(閉店8店)より若干減少した。店舗形態別に見ると、全体の約6割を占めるスーパーセンターが最も多く20店を出店。24年6月期に30店と多く出店した小型店は4店にとどまった。7月にはスーパーセンターを鹿児島・宮城・香川・福岡・静岡で5店出店しており、8月13日時点でメガセンター28店、スーパーセンター212店、スマート70店、小型店47店の計357店となっている。26年6月期の出店予定はすでに出店済みの5店を含め、メガセンター1店、スーパーセンター22店、smart2店の計25店。小型店については実験段階であるとしてこちらの数字には織り込んでないが、首都圏での出店を積極的に行うとしている。西友との統合効果を検証し、示すうえでも重要となる。

 売上高の12.0%増に対し、販管費は16.6%増と増収率を上回る結果となった。販管費の内訳は、人件費が15.4%増、水道光熱費が26.9%増、その他が20.0%増となった。人件費増は出店加速による店舗数増加とパート・アルバイトの時給上昇が要因。その他には西友子会社化に係るアドバイザリー費用の一部も含む。最低賃金については、今年の引き上げ目安が過去最高の63円(全国加重平均額1,118円)となっており、今後も人件費の上昇が見込まれる。

 流通小売事業の商品カテゴリー別売上高構成比を見ると、食品比率が74.1%から75.1%へ上昇。惣菜を含む生鮮などフレッシュ分野の伸びが大きく、加工食品などのグロサリーを上回り、増収を牽引した。PBの流通小売事業に占める売上比率は、22年6月期の9.2%から25年6月期には18.4%へ急拡大。中期目標として25%を掲げており、製造工場や飲料水工場への設備投資を強化している。

価格適正化で粗利率改善

 第3四半期終了時点では利益が目標に大幅に未達で、通期での目標到達を危ぶむ見方もあったが、最終的には営業損益段階からいずれも通期業績予想を上回った。第4四半期で営業利益が76億4,100万円(前年同期比103.1%増)、経常利益が77億700万円(同111.2%増)、四半期純利益が33億7,700万円(同73.7%増)となった。要因についてトライアルが挙げるのが「粗利上昇戦略」。価格適正化やPBなど粗利率の高い商品の拡大によるものだ。

 価格表示を税込表記のみから税抜価格と税込価格の併記へ切り替え、今年2月から一部店舗で実験を開始。6月からは福岡県の店舗で展開し、全店で切り替えを完了した。税抜価格表記で一見低価格に見せ、実際には値上げを行った商品が数多くあるが、客単価上昇、利益率向上に寄与した。

 なお、既存店の売上に関しては25年7月まで50カ月連続で前年同月比プラスを達成した。計画では通期で103.4%のところ、実績は103.6%とわずかに上回った。6月・7月は客単価の上昇により増収を維持したものの、価格表記変更の影響もあってか客数は前年同月比割れした。

統合効果検証はこれから

 26年6月期決算の予想は、売上高1兆3,225億円(同 64.5%増)、営業利益254億円(同20.3%増)、経常利益139億円(同37.4%減)、当期純利益5億円(同95.7%)。売上高は西友が加わることで大幅増となり、既存店の売上高も増収を見込むも、営業利益、経常利益は人件費や原材料費の高騰を見据えたものとなる。

 トライアルHDはトライアルと西友それぞれの予想も発表している。トライアルについては売上高8,698億円(同8.2%増)、営業利益315億円(同49.2%増)、経常利益322億円(同45.0%増)、当期純利益187億円(同59.1%増)と強気の姿勢を示す。

 一方で西友は、24年12月期が売上高4,835億円、営業利益235億円であったが、26年6月期の予想については、売上高4,527億円、営業利益と経常利益は114億円、当期純利益は68億円としている。

 統合により双方へのシナジー効果が見込まれるが、詳細は第2四半期決算発表(26年2月中旬)で公表する予定としている。

のれん償却の負担大

 当期純利益が117億円から5億円に激減するとの発表を受け、翌8月14日の東証グロース市場ではトライアルHDの株価が反落。一時は前日比319円安(12.5%安)の2,231円まで下がった。

 純利益を大幅に押し下げるのは西友の買収にともなうのれん償却およびアドバイザリー費用などだ。トライアルHDは西友株取得のための費用のほぼ全額の3,700億円を銀行からの借入で賄うとしており、今後の利子負担も小さくない。西友買収による26年6月期の純利益押し下げについて、250億円としている。販管費として計上するのは150億円としている。

 トライアルの買収額3,800億円から西友の純資産約1,176億円(23年12月時点)を引いた約2,624億円がのれん代として償却の対象となる。西友買収発表以降、トライアルHDがこれをどのくらいの期間(10年あるいは20年)で償却する腹積もりなのか注視されてきたが、いずれにしても単純計算で毎年100億円以上の負担であり、純利益をほぼ損なってしまうのではとの懸念があった。株価の反落は純利益が5億円に削られる見通しであることへの不安の表出といえる。

 この約1年半で上場、西友買収と東京進出、売上高1兆円達成とステップアップし、全国的な知名度を高めたトライアルHD。福岡県宮若市でのメーカーとの協業や東芝、NECなどテック企業との連携も注目されるが、まずはのれん償却を着実にこなしつつ、西友との統合効果でさらなる利益を生み出し、懸念を払しょくすることが求められる。

【茅野雅弘】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:永田洋幸
所在地:福岡市東区多の津1-12-2
設 立:2015年9月
資本金:198億1,200万円
売上高:(25/6連結)8,038億2,900万円

関連キーワード

関連記事