箱崎、アイランドシティ、千早──開発旺盛な福岡市東区(前)

住商らグループの提案する
箱崎CP跡地の未来図

 昨年4月に九州大学(九大)・箱崎キャンパス跡地の再開発事業者としての優先交渉権を、住友商事(株)(東京都千代田区)を代表とし、九州旅客鉄道(株)(JR九州)や西日本鉄道(株)(西鉄)、西部瓦斯(株)(西部ガス)らで構成される企業グループが獲得した。

 それから、1年以上が経過──。まだ本格的な再開発は始まっていないものの、再開発着工に向けての計画の練り直しや、道路インフラをはじめとする基盤整備など、徐々に様相も変わりつつある。今回、九大・箱崎キャンパス跡地再開発に関する動きを中心に、そこから連なる千早やアイランドシティなど、福岡市東区における再開発の動向を見ていきたい。

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 まず、昨年4月時点での住商らグループによる九大・箱崎キャンパス再開発の提案内容について、おさらいしておこう(参照:本誌vol.72/2024年5月末発刊)。

 昨年4月18日に「九州大学箱崎キャンパス跡地地区土地利用事業者募集」の優先交渉権者となった同グループには、住友商事、JR九州、西鉄、西部ガスのほか、清水建設(株)、大和ハウス工業(株)、東急不動産(株)、(株)西日本新聞社も参加している。対象エリアは、全体で約50haとされる箱崎キャンパス跡地のうち、約5分の3に該当する南側エリアの約28.5ha。譲渡価格は371億7,800万円、定期借地用地3.5haの土地賃貸料は月額1,260万円で、借地期間は60年となっている。土地の引渡しに係る協定とまちづくりに係る協定などは25年度に締結される予定で、25年度以降に土地の引き渡しが行われる予定となっている。

 同グループの提案では、まちづくりのコンセプトを「HAKOZAKI Green Innovation Campus」とし、箱崎キャンパス跡地および九州大学の歴史を継承したうえで、高質でみどり豊かなまちづくりを進めて新たな価値を提案し、新産業を創造・発信していくとともに、環境先進都市として世界を牽引する、未来のまちづくりを実現するとしていた。また、コンセプトの6つの方針を「九州大学100年の歴史の継承」「新しいライフスタイルの創出」「新産業の創造と成長」「福岡の文化・千年の歴史の継承」「みどりあふれる空間の創出」「環境先進都市の創造と成長」と提示。加えて、IOWN(アイオン)構想(※)に基づいた新たな価値創造により、提案コンセプト実現に向けて取り組んでいく方針だ。

※IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)は省電力・低遅延・大容量に関する革新的な通信技術。IOWN構想はまち全体のデジタルツインを実現したうえで、すべてのスマートサービスを統合・連携することで未来のスマートシティを実現する考え方。

 公募で提案が求められていたスマートサービスの各種提案については、「スマートサービス×都市空間・都市機能」として、さまざまな案を提示。エリア全体を見守るスマートマネジメントセンターなどによる「安全」や、健康情報を一元管理するPHR基盤やスマートクリニックサービスによる「健康」、多様なシェア型パーソナルモビリティによる「移動」、相互協調する分散型インフラ(eight-grids)構築による「防災」、ZEB・ZEH化による最大限の省エネなどの「エネルギー・環境」などが挙げられた。

九大・箱崎キャンパス跡地/イノベーションコア風景

 都市空間での提案では、特徴的な「イノベーションコア」を中心として、ゾーン特性に応じた交流・発信・実証を促すスマートステージの整備や、街の骨格を形成する5つのメインストリートなどを整備。また、「箱崎創造の森」と題して緑化率約40%・樹木1万本以上による圧倒的な緑量の緑空間の確保を進めていくほか、九州大学時代の街割りグリッドや街並み高さなどを継承し、近代建築遺産と調和するスカイラインの形成などを行っていくとしていた。

 都市機能の提案では、グローバル創業都市福岡の新しいイノベーション拠点を確立していくほか、今後の都市の在り方の先行事例となるような筥崎宮門前町の賑わいを取り戻す地域に開かれたミクストユースなまちを実現していくとしている。具体的には、業務・研究機能としてイノベーション拠点「BOX FUKUOKA」やライフサイエンス研究拠点「ライフサイエンスパーク」、新たな駅前ビジネス街区「North gate Hakozaki」などのほか、交流・にぎわい機能として福岡・九州の豊かな食をテーマにした日本最大級の食のエンターテイメント交流拠点「フクオカサスティナブルフードパーク」や「ブック&カフェ」「交流広場」などを盛り込んでいる。ほかに、「箱崎版地域包括ケアシステム」を構築した医療・福祉機能や、九州大学100年のレガシーを継承した教育機能、各ゾーンの立地特性や利用シーンに合わせた生活支援機能などが盛り込まれているほか、多様な人たちが安心して暮らし、交流やコミュニティが生まれる多種多様な居住機能なども整備していく方針。具体的な居住機能としては、2,000戸の分譲住宅や単身者向け賃貸住宅、高齢者向け住宅、共同社員寮、学生寮などが例示されていた。

 同グループの提案内容を俯瞰すると、全体を一言で象徴するような明確な“核”となる施設が見当たらないことに気づかされる。いくつかの特徴的な施設は存在するし、強いていうなら「イノベーションコア」が核と呼べる施設に当たるのかもしれないが、「箱崎キャンパス跡地にコレができる」と端的に言い表すことが困難なのだ。一方で、今回の提案内容からは、「大きな箱モノを配置すればOK」のような、安直な再開発の思惑は感じられない。「交流・にぎわい・業務・研究」機能を担うイノベーションコアを中心として、エリア内に「居住」「生活支援」「教育」「医療・福祉」「物流」などの機能を分散配置することで、人々の生活や活動の営みが感じられる場としての新たなまちをつくっていこうというような意気込みが感じられ、個人的には好感がもてる。また、当初計画ですべてを埋めてしまうのではなく、将来の変化に備えた拡張性を考えて、「将来活用ゾーン」として開発の余白を設けている点も面白い。

 なお、代表企業となる住友商事では、九大・箱崎キャンパス跡地において国内最大級のスマートシティ開発に取り組む組織として、20年10月に「箱崎プロジェクト推進室」を発足。同地におけるスマート要素を盛り込んだ大型不動産開発を住商グループの総力を挙げたプロジェクトとして取り組んでおり、24年4月に再開発事業者としての優先交渉権を獲得するに至った。同推進室では今後も箱崎キャンパス跡地再開発において、「新産業を創造・発信していくと共に、環境先進都市として世界を牽引する、未来の街づくりを実現して」いくとしている。

計画実現に向けての
ブラッシュアップ進む

 さて、こうした住商らグループの提案内容だが、事業者決定から約1年が経過し、細かな部分での修正などが加えられた模様だ。

 今年6月3日、第1回目の「九州大学箱崎キャンパス跡地地区における事業基本計画書に係る審議委員会」が開催された。同審議委員会は、事業基本計画書が、事業企画提案に基づいて適切に作成されているかを審議し、その結果を九州大学、UR都市機構および福岡市に報告することを目的として設置されたもの。第1回目委員会では、「居住ゾーンにおける広場・歩行者空間・みどり空間の整備など」「ノースゲートゾーン(C-1街区)における歩行者空間の整備など」「ナレッジゾーンなどにおける都市機能の配置」における計画案等の見直しなどについて、住商らグループより説明。その計画案等の見直しや説明に対して参加委員らからの質問や指摘が行われたほか、グランドデザインなどに関しての意見なども上がった。

 「居住ゾーンにおける広場・歩行者空間・みどり空間の整備など」では、「A-1街区」「A-3街区」「C-2街区」について、居住機能を担う街区として、建物の高さや形状、配置の検討を実施。検討にあたっては、豊かな緑を身近に感じられる広場空間や歩行者空間の創出、歩行者の安全性および回遊性の向上、周辺地域との調和や圧迫感軽減に資する計画となるよう配慮された。

 このうち「A-1街区」では、住宅供給計画を提案時の約360戸から約350戸へと10戸減らした。一方で、豊かな緑を身近に感じられる歩行者空間の創出や、周辺地域との調和や圧迫感軽減への配慮、歩行者の回遊性向上への配慮、周辺地域とのつながりや調和に配慮したスカイラインの形成などが、より一層図られている。「A-3街区」では、提案時の敷地面積3万9,680m2を約4万2,740m2へと拡張するとともに、住宅供給計画を提案時の960戸から1,000戸へと40戸増加。また、歩の軸(サウスリビングストリート)では、天候に左右されない快適なアンブレラフリー動線と、緑に囲われた安らぎ空間を備えた歩行空間を整備し、賑わいと交流が溢れる広場と一体となったストリートとするほか、街区全体でスマートステージや、緑地と連携した休憩・交流可能なフォリーやベンチ等のファニチャーを整備することで、賑わいと緑が交互に現れる空間としていく。

 「C-2街区」では、住宅供給計画を提案時の約670戸から約650戸へと20戸減少。一方で、ノースリビングストリートでは、生活支援施設(飲食、カフェ等)が連続した空間に併せて、歩道にファニチャー等の設置可能な溜まり場・ミーティングスポットを整備し、賑わいを創出。また、屋根のある生活支援施設前の通路を半外部空間として来訪者の憩いの場としていくほか、歩道走行型ロボットの走行を想定して、公共交通利用促進を行っていくとしている。

 「ノースゲートゾーン(C-1街区)における歩行者空間の整備など」については、貝塚駅やJR新駅に近接する「C-1街区」を業務・研究、交流・にぎわい、居住の各機能を担う街区として、オフィスや賃貸住宅などの検討を実施。検討にあたっては、同街区周辺における歩行者の安全性および回遊性の向上に資するよう、とくにJR新駅との連続性創出に配慮されている。また、提案時には建物1階部分に配置するとしていた駐車場を、独立棟として整備するよう変更。また、駐車場への車両出入口を集約することで、歩行者動線との交錯箇所を2カ所から1カ所へと減少させ、歩行者の安全性および回遊性の向上へ配慮がなされている。

 「ナレッジゾーンなどにおける都市機能の配置」については、事業企画提案にて提示していた土地利用ゾーニングのうち、箱崎中学校の教育機能との親和性の観点から、ナレッジゾーンにおける教育施設(複合型教育施設と外語専門学校)の位置を、同中学校への通学安全性の向上を企図して、イノベーションコアにおける物流施設の位置をそれぞれ変更。また、企業寮と学生寮についてはそれぞれ独立して計画していたものを、両者の相乗効果の創出を企図して統合させる変更が行われている。

 第1回目委員会ではこうした計画変更に対して、委員らから「景観として駐車場が目立たなくなったことは非常に評価できる」「豊かな緑空間やスカイラインの形成については非常に評価でき、あるいは回遊性、安全性の面でも評価できる」「街並み・景観の観点では、九州大学の面影の継承に関してはしっかりと建物デザインについて配慮することが望ましい」「緑に関して、量的には確保されているが、きちんと見えるようにすべき」「学生寮と企業寮が統合されることになり非常に良いが、企業側のメリットや従業員の意見も確認する必要がある」「箱崎中学校の安全性に配慮して物流施設を移転するという点は評価できるが、物流施設の移転先については、安全面なども慎重に検討してほしい」「全体としては基本的な方向性に関しては問題ないが、今回の意見を付帯意見というかたちにしてはどうか」──といった意見が述べられた。第2回目委員会の開催については未定だが、今後は今回の委員会で寄せられた意見などを踏まえて、計画案のさらなるブラッシュアップが図られると見られる。

幹線道路開通と新駅設置
跡地で進む基盤整備

 こうして計画案の一部見直しや検討など、これから再開発による本格的なまちづくりを行っていくための下準備が進んでいるのと並行して、基盤となる道路インフラなどの整備は順次進んでいる。

 まず今年5月21日には、箱崎キャンパス跡地の中央部を東西に横断する都市計画道路「堅粕箱崎線」が供用を開始した。同道路は、箱崎6丁目地内の国道3号・九大前交差点から東方向に伸びる長さ約300m、幅員28mの4車線の幹線道路。これまでは九大・箱崎キャンパスの存在によって市街地が分断され、同エリアにおける東西方向の移動には難があったが、今回の堅粕箱崎線の開通により、それが解消されたかたちだ。また、箱崎地区と博多方面を結ぶ交通の流動性が高まることで、将来的な都市機能の集積や住環境の改善にも寄与する見込みとされている。なお、箱崎キャンパス跡地内ではほかにも、南北方向に延びる都市計画道路などの整備が進んでおり、現在工事中の道路も今年度中に完成する見通し。これから同跡地で再開発によるまちづくりが進もうとしているなか、都市基盤としての道路インフラは、一足先にできあがる模様だ。

堅粕箱崎線/JR新駅設置予定地

 インフラ整備では、JR新駅の存在も忘れてはならない。箱崎キャンパス跡地のすぐ近くを通るJR鹿児島本線の千早~箱崎駅間においては、今後の再開発を見込んで新駅が設置される予定となっている。新駅は西鉄貝塚線および福岡市地下鉄の貝塚駅の東側付近で、既存のJR箱崎駅から約1.7km、JR千早駅からは約2.3kmの距離となる場所で、現在はJR線路の踏切があるところに、踏切を廃止するかたちで設置を行う予定。新駅の東西を歩行者などが行き来できるよう市が自由通路を整備する方針で、事業費は概算で約13億円を見込んでおり、うち半額をJR九州が、残りを九大とURとが負担する。新駅の開業時期については、当初25年を目標としていたが、27年目標へと延期された。

 その新駅について、JR九州では今年4月25日から6月末までの期間で、新駅の駅名募集を行った。新駅は「光とあたたかみのあふれる空中広場の駅」をデザインテーマとし、「開放的」「明るい空間」「あふれる光」をコンセプトに掲げており、それにふさわしい駅名を付けたい意向だ。

 なお、今回の住商らグループによって再開発が進められる南側エリア約28.5ha以外の、北側エリア約20haについては、福岡市立箱崎中学校の移転を含めた公共施設の再配置および移転跡地の活用などが、福岡市が主体となって行われる予定となっている。JR新駅および貝塚駅(福岡市地下鉄/西鉄)の駅前広場のほか、エリア内の道路・公園・緑地などの再配置を行う「貝塚駅周辺土地区画整理事業」がそれだ。同区画整理事業では、貝塚駅の西側に設けられた駅前広場から国道3号に向けて幅員14mの新たな区画道路を整備し、その道路によって既存の貝塚公園を南北に分割するほか、貝塚駅とJR新駅との間を広場等でつなぐことで、交通結節機能の強化を図っていくとしている。事業施行期間は、事業計画の決定を公告した21年3月29日から、29年3月末(清算期間を除く)までの予定だ。

(つづく)

【坂田憲治】

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