旧統一教会・韓鶴子総裁、韓国検察へ出頭と今後の教団の行方

 尹錫悦前韓国大統領夫妻の疑惑を捜査する特別検察官は17日午前、出頭した旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の韓鶴子総裁を事情聴取した。今回の捜査は、韓国の尹錫悦前大統領による昨年12月の戒厳令宣布と公務執行妨害を捜査していることに関連して、尹氏の妻、金建希(キム・ゴンヒ)夫人をめぐる疑惑や当時の与党・国民の力との関係が焦点となっている。

韓国政界へのロビー活動を元幹部が証言

※世界平和統一家庭連合本部 今年1月撮影
※世界平和統一家庭連合本部 今年1月撮影

    異例ともいえる教団トップの検察への出頭に至った経緯を説明したい。旧統一教会側が2022年に「乾真(コンジン)法師」と呼ばれる宗教者を通じて、金建希夫人側に6,000万ウォン(約600万円)相当のダイヤモンドネックレスとシャネルのバッグをプレゼントしたとの疑惑が取りざたされている。金氏に対しては、旧統一教会関連のカンボジア・メコン川開発事業やニュース専門テレビ局の買収、大統領就任式への招待などに便宜を図るよう働きかけたとされる。

 教団側は、元幹部による個人的な逸脱行為であり、教団の組織的関与はなかったと主張している。この問題の捜査で韓氏はこれまで3回、検察から出頭を求められたが、心臓手術後の回復が思わしくないことを理由に応じず、17・18日いずれかに出頭すると回答していた。

 一方、尹前大統領の妻・金建希氏は先月初旬の検察への出頭時に「国民の皆さんに心配をかけて心から申し訳ない」と述べており、元幹部に責任を帰そうとする教団側の姿勢とは対照的であった。

 教団側がいう元幹部とは、前教団世界本部長の尹永浩(ユン・ヨンホ)氏で、韓氏の側近として一時期教団内で権勢を誇った。尹氏が教団上層部の承認を得て違法な政治資金を渡したという趣旨の供述を行っているが、旧統一教会のトップは韓鶴子氏であり、組織上、勝手に尹政権への一連の働きかけを行うのは考えにくい。

 日本の元信者や元教団職員によると、「韓国本部の指示が絶対であり、日本の教団幹部は、会社でいうなら課長クラス。文鮮明・韓鶴子夫妻の言葉は絶対だった」という。「1から10まですべてを掌握していたのか」は別にしても、13年に文氏が逝去して以降、教団は「まことのお母様」「ホーリーマザー・ハン」と崇められる韓氏の絶対権力のもとに動いてきた。

日本では過去に霊感商法摘発

 日本においても与党自民党をはじめ保守系政治家に広くロビー活動を行い、選挙運動の手伝いから秘書・スタッフの派遣、友好団体を通じての政治への関与を行ってきた。22年の安倍晋三元首相の銃撃事件で教団と政界の関係が取りざたされ、同年9月の自民党の点検調査で、179人(当時の同党議員は379人)に及ぶ衆参両院議員がなんらかの接点を有していたことが明らかとなった。ただし日本の場合、メディアの報道と自民党などの自主申告による調査で、警察や検察の捜査で明らかになったわけではなかった。

 今回の韓国での捜査は日韓のみならず米国政府筋も注目する事態となっており、先月25日、トランプ大統領が韓国の李在明大統領との会談時に教団への捜査に圧力ともとれる発言を行っている。旧統一教会は、アメリカ政界に強いネットワークを築き、共和党を支援してきた。日本の保守政治家が教団とつながる理由に「反共産主義」「反左翼」を掲げてきたことがあり、安倍元首相とトランプ大統領を繋いだのも旧統一教会だったとの話もある。

 今回の捜査や日本で進む解散命令手続きなどを通じて、日米韓での教団と政界の蜜月関係が明らかになることが期待される。教団側は、韓氏の出頭に合わせ数千人の信者を動員して抗議集会を行っており、日本人の信徒も含まれているとみられる。

 韓国当局は、前政権の様々な問題を調べる中で教団との接点、金銭的なものを含めた関与を重視している。教団にとって大きなダメージになるのは間違いなく、仮に韓鶴子氏が逮捕・拘束された場合、信徒に与える心理的影響、動揺は計り知れない。

 日本での献金の多くは韓国へ流れているといわれ、巨大な宮殿の建設費などに充てられているとされる。07年~10年にかけての福岡や東京などでの教会関連企業への捜査は、警察庁がその実態を明らかにして、霊感商法の被害をなくすことを狙ったといわれる。15日に福岡市内で開催された集会でも話が出ていた「09年にコンプライアンス宣言を行い被害は激減した」というのは、民事上のトラブルというより公安警察の捜査に危機感を抱いたことが大きい。安倍氏を含めた政治家への接近も、警察の捜査から教団を守ってもらう狙いがあったとされる。

 当然、韓国の捜査当局も日本からの資金の流れに注目しているだろう。今後の捜査の行方に注目される。

【近藤将勝】

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