旧統一教会・韓鶴子総裁逮捕を受けての元2世信徒などの声

 旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の韓鶴子(ハンハクチャ)総裁が、尹錫悦(ユンソンニョル)前韓国大統領の妻・金建希(キム・ゴンヒ)氏や側近に金品を渡した容疑で特別検察官に逮捕された。この報道は日本でも速報され、関係者からさまざまな声が上がった。

日本の政治への介入を指示

※世界平和統一家庭連合本部 今年1月撮影

 ソウル中央地裁は22日、韓氏の出席のもと逮捕状発付の可否を判断する審査し、「証拠隠滅の恐れがある」と判断して逮捕を決定した。韓氏は3度の出頭要請に応じず、捜査に非協力的な態度をとったことも判断材料となった。特別検察官は20日以内に起訴するかどうかを決定する。

 韓氏は5時間におよんだ令状審査で「政治には関心がない、政治について知らない」と容疑を否認した。しかし、教団の活動を発信する動画ニュースなどにおいて「日本が責任を果たせるようにその最高指導者からひっくり返さなければいけない。(日本の)政治家や知識人などに一番最初に『世界日報』(教団関連新聞)を読む新聞につくり上げる必要がある」(2018年)と発言する映像などが配信されており、日本の政治への介入を幹部に指示したことがうかがえる。このため「政治に関心がない」という主張は矛盾している。

 この問題は、旧統一教会側が2022年に「乾真(コンジン)法師」と呼ばれる宗教者を通じて、金建希夫人側に6,000万ウォン(約600万円)相当のダイヤモンドネックレスとシャネルのバッグを贈ったとされる疑惑に端を発する。金氏に対しては、旧統一教会関連のカンボジア・メコン川開発事業やニュース専門テレビ局の買収、大統領就任式への招待などに便宜を図るよう働きかけたとされる。

 韓氏は世界本部長を務めた元側近と共謀し、旧統一教会の事業に便宜を図るよう働きかけたとされ、さらに尹前大統領の最側近で保守系政党「国民の力」の国会議員・権性東(クォンソンドン)氏に多額の金銭を渡し、旧統一教会への支援を要請した疑いもある。

米コリアゲート事件への関与

 旧統一教会と政界の関係は、日本でも安倍晋三元首相の事件後に注目されたが、韓国では、1968年1月に国際勝共連合が結成(日本では同年4月)され、当時の朴正煕(パクチョンヒ)政権と結びつき、韓国中央情報部(KCIA)と緊密な関係にあった。反共を掲げ、韓国においても教団と政権の関係は密接であった。

 韓国政府が米国政界への影響力強化を狙って同国議員を買収したとされるコリアゲート事件(76年)にも関わりがあった。共和党との関係はニクソン、レーガン、ブッシュ各政権を経て、現在のトランプ政権に至るまで密接にある。その後、冷戦終結などの情勢変化を受け、直接政治家を出そうと「平和統一家庭党」という政党を結成し、2008年の選挙では全選挙区と比例区に候補者を擁立したこともある。

 12年に教団創始者の文鮮明氏が亡くなると身内での後継者争いが勃発し、韓氏が実権を掌握した。韓国での動きは目立たなくなったが、不動産や兵器産業、メディアなど教団関連企業の豊富な資金力を背景に、教団による政治への働きかけは継続していた。教団の活動の基盤は、関連企業だけでなく、日本人信者からの多額の献金が支えた。

 その献金を行わせるために教義に基づいて「日本は韓国を植民地支配したサタンの国」「まことの父母さまの韓国に献金(賠償)を行わなければ天国に行けない」と信者は教え込まれた。日本の勝共連合の活動は保守勢力の主張と同一線上にあったが、思想的には「反日」とも指摘されている。

被害者「逮捕は妥当」の声

シンポジウムで語る田中富広会長

    教団側は15日の福岡市内での集会でも「反日ではない」(田中富広会長)と否定したが、脱会した信者は「『自虐史観』といってよいことをいわれ、献金を求められた」と語る。

 今回の韓鶴子氏の逮捕を受け、元信徒の2世や教団の問題に取り組む人々はどのように受け止めているのだろうか。

 両親が信徒であった2世の女性は「逮捕は妥当だと思っています」と述べ、「(韓鶴子氏の)カジノ賭博の件がうやむやになっており、そこも調べてもらって、日本からの献金がどれだけ宗教といえない活動に使われたのかはっきりさせてもらいたいなと期待しています」と語った。

 「統一教会から福岡を守る会」の山下大輔氏は「逮捕は当然」と語り、「これまで安倍元首相を擁護するため統一教会を擁護してきた人たちはどう説明するのか」「日本でも政界との関係など実態解明する必要があると思います」と日本でも韓国同様の調査を進めるべきとの認識を示した。

 統一教会の被害者救済に取り組む全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)は20日に東京で集会を開き声明を発表した。「日韓双方の政府において、日本における高額献金、霊感商法を通じて集金された金銭が、韓国の統一教会本部に流れ、どのようにして韓国の政界工作に使われたのか、そして日本の政界において統一教会がどのような役割をはたしてきたかなどにつき、改めて徹底解明するとともに、被害者の救済につながる施策の検討を改めてお願いしたい」としている。

 なお、韓国統一教会は23日に声明を発表し、「謙虚に受け入れる」と述べ、「国民の皆さんに心配をおかけしており、心からお詫びしたい」と表明した。一方で日本の教団は広報渉外局のX(旧・Twitter)において「特別検察に自ら出頭するなど、捜査に真摯に協力」していると述べたうえで「逃亡や証拠隠滅の恐れがまったくないことを訴えてきました」「その主張が認められず、このような事態になったことは誠に遺憾」と韓国本部の対応とは対照的な見解を発表した。

 日韓の教団の姿勢の違いを見ても、日本の教団組織が韓国に従属している体制にあることがうかがわれた。被害者救済のためにも、日本からの献金がどのように韓国政界に流れたのか、今後の捜査での解明が期待される。

【近藤将勝】

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