福岡城天守の復元的整備を行う意義について~福岡商工会議所会頭の谷川浩道氏が講演

 22日、福岡藩黒田家の顕彰を行う(一社)藤香会と福岡商工会議所の共催による「福岡城天守の復元的整備を考える懇談会──報告と提言」が、福岡市博物館の1階講堂で開催され、福岡商工会議所会頭の谷川浩道氏が講演を行った。

 谷川氏の講演の要点を以下に紹介する。

1、福岡城の「天守実在」はもはや通説

講演する谷川浩道氏
講演する谷川浩道氏

    谷川氏は、昨年福岡商工会議所が設置した「福岡城天守の復元的整備を考える懇談会」における、専門家や有識者による史資料の調査経緯を説明。かつて「天守は存在しなかった」という説が有力だったが、丸山雍成氏(九州大学名誉教授)が2015年に『城郭史研究』34号(日本城郭史学会誌)で示した天守実在説によって、歴史学界ではすでに「福岡城の天守実在」が通説になっていると説明した。また、実在を示す主な証拠として、黒田長政が天守建築を命じた書状や、細川家文書に「福岡城天守を破却したらしい」という文書が残っていることなどを挙げた。天守が破却された理由については、黒田家が幕府に恭順の姿勢を示すためだった、という当時の状況を説明した。

2、天守の復元的整備の意義

 谷川氏は、福岡城跡の現状について、天守がないままでは福岡城跡もその城が街の中心にある福岡という都市も、魅力が十分に活かされていないと指摘。天守の存在は次世代に福岡の歴史や文化を伝えるシンボルであり、住民の誇りとなり、子どもたちが城を訪れる契機になる重要な象徴だと述べた。また、市民に対して行ったアンケート結果についても触れ、現状では福岡城に対する市民の関心が低く、「行ったことがない」「めったに行かない」という人は6割近くに上っていると述べ、その原因として天守のようなシンボルがないことも一因ではないかと指摘した。その一方で、アンケート結果で、天守復元について「賛成」「どちらかといえば賛成」と考える市民の割合が59%と高い水準にあることも紹介した。以上を踏まえて谷川氏は、福岡城天守は図面や写真が残っておらず完全な復元は困難だが、歴史文化を次世代に伝えるために、学術的研究に基づき往時の姿を推定・提示する「復元的整備」を行うべきだと主張した。

3、石垣を守りながらの天守建築は可能

 建築史の専門家である佐藤正彦氏(九州産業大学名誉教授)が動画出演し、図面や写真がない福岡城天守の学術的に推定できる姿として、5重6階地下1階の黒天守を提示した。さらに工法についても言及し、地中の礎石間にコンクリートの梁を渡して石垣を傷つけず天守の構造を支える「地中梁(ちちゅうばり)」工法を提案。これにより石垣保全と天守建築が両立できると説明した。また、谷川氏も大手ゼネコンにヒアリングした結果として、現代工法を慎重に用いることによって、保全と建築は可能という回答を得ていると述べた。

2種類の地中梁を用いるイメージ、左は礎石下、右は礎石中 講演会資料より
2種類の地中梁を用いるイメージ、左は礎石下、右は礎石中 講演会資料より

4、最大の障壁は文化庁の不透明な行政運用

 谷川氏は、福岡城天守の復元的整備に対して、最大の障壁になっているのは文化庁の行政運用の不透明さにあると指摘した。文化庁は20年に、「往時の歴史的建造物の規模、材料、内部・外部の意匠・構造等の一部について、学術的な調査を尽くしても史資料が十分に揃わない場合に、それらを多角的に検証して再現する」方法として、復元的整備という基準を定めた。ところが、実際の文化財取り扱いは不透明な裁量で決められており、文化庁は図面や絵が残っていない古代の平城宮の大極殿などの整備事業を行っているにもかかわらず、一方で福岡城の復元的整備を認めないのは矛盾していると谷川氏は批判した。

 続いて来場者から谷川氏に対する質疑応答が行われた。

5、資金調達と経済効果

 質問者:熊本は熊本城があることによって都市の格が上がっていると感じられる。福岡城の天守が再建されれば、福岡ばかりでなく九州全体のランドマークとして機能し、大きな費用対効果が期待できるのではないか。そのことを分かりやすくするために、具体的に集客効果や経済効果といったものを示してはどうか。

 谷川氏:建設資金はできるだけ税金に頼らず、個人の寄付や企業版ふるさと納税制度を最大限活用する方法などが考えられる。ただし、企業版ふるさと納税は最大で寄付額の9割が軽減される仕組みとなっているが、現行では福岡市に本社を置く企業が福岡市が行うプロジェクトへ納税することはできないため、政府への働きかけを検討している。

 また、経済効果についてだが、天守再建の意義として経済や観光を前面に出すことは福岡商工会議所としては控えている。というのも、「金儲けのために天守建築を企てている」という批判が起こり得るためだ。経済効果などについてはほかの団体などの発表に任せるとして、福岡商工会議所としては、まず、次の世代に何を残すかという論点を中心に訴えていきたい。

6、若者の関心喚起について

 質問者(九州大学学生):福岡城の天守について、メディアで取り上げられても、この問題が若者世代に届いていない現状がある。SNSを活用するなどして若者の関心を喚起し、若者の力が推進力となるような工夫が必要ではないか。

 谷川氏:若者の関心が低いことはアンケート結果で明らかであり、重要な課題だと考えている。先日も福岡市内の大学で講演を行ったところ、福岡城跡を訪れたことがあると答えた学生はほんのわずかだった。しかし、講演を通して若者が福岡城に興味をもつこともわかった。今後は繰り返し啓発活動を行い、SNSの活用や、大学の先生方の協力を得ながら、若い世代が天守の再建問題を「福岡の未来をどうあるべきか」という一環として考えてもらえるように、力を入れていきたい。

【寺村朋輝】

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