10月4日投開票の自民党総裁選も終盤に入った。5人の候補者のうち、小泉進次郎農林水産相と高市早苗元経済安保相が有力候補とみられる。2人を軸に進むものと思われたが、このところ林芳正官房長官が急激に追い上げを見せている。
岸田政権を酷評
この急変について永田町関係者は「林官房長官の急伸の後ろには古賀誠さんがいる」と語る。古賀氏は全国道路利用者会議最高顧問を務めているが、永田町の隣・平河町の砂防会館に事務所を構え、政界ににらみを利かせている。同会館は田中角栄元首相(旧・田中派)や中曽根康弘元首相(旧・中曽根派)の派閥事務所がおかれたことでも知られ、自民党本部とは目と鼻の先にある。
古賀氏は30年ぶりに誕生した宏池会の岸田政権について「あれはだめだ」と語っていたとされる。昨年、岸田前首相の地元・広島での講演では、自民党県議らを前に岸田政権を痛烈に批判している。古賀氏にとって思い入れが強い派閥・宏池会を岸田首相(党総裁)が解散することを決めたとき、公には沈黙したものの、心中は穏やかでなかったことは想像できる。
しかも、福岡で対立してきた麻生太郎氏に岸田氏が接近し、麻生氏から「古賀を切れ」と言われて距離を置いたとなれば、なおさらだろう。
福岡県は太田誠一・古賀誠両氏を輩出した地域で、従来から旧岸田派(宏池会)の勢力が強い。また自民党県連常任相談役で、全国都道府県議会議長を務めた蔵内勇夫氏が提唱してきたワンヘルスの自民党議連の会長を林氏が務めていることもあり、県連役員の大部分を占める県議団も林氏支持とみられる。
岸田氏への失望の一方で、「宏池会元会長・古賀誠氏が期待する林芳正元外相を官房長官起用へ」でも紹介したとおり、古賀氏はたびたび「宏池会の次のリーダーは林氏である」と言及してきた。裏金問題で旧安倍派の松野博一氏が官房長官を辞任し、後任に林氏が就任したことを喜んでいたという。
古賀氏との関係が垣間見えたことが最近あった。28日のフジテレビの討論番組で、靖国神社に合祀されている極東国際軍事裁判(東京裁判)で「A級戦犯」として処刑された人々の分祀論に言及したことだ。番組のなかで林氏は「皇室を含めて、わだかまりなく手を合わせることができる環境をつくるのが政治の責任だ」と述べた。
林氏の主張は、日本遺族会の元会長で分祀論を唱える古賀氏の主張とほぼ同じである。古賀氏が日教組(日本教職員組合)の大会で講演した際にも分祀論に言及していた。
これまで靖国神社や保守系団体「日本会議」などは「分祀はできない」と反対してきた。議論を呼びかねないテーマではあるが、高市早苗氏らの右寄り路線を警戒する議員を取り込むことができる。
先を見通した強かな布石
もっとも古賀氏は、小泉進次郎氏の後ろ盾である菅義偉元首相を「菅ちゃん」と呼ぶなど、近しい関係にもある。
実は菅氏も一時期、宏池会に所属していたことがある。加藤の乱(2000年11月)の時期で、乱の鎮圧に動いた古賀氏とは対照的に、岸田文雄氏、谷垣禎一氏らとともに反乱軍に加わり、加藤紘一・山崎拓両氏グループの一員として森喜朗政権打倒に動き回っていた。
若手の面倒見がよい古賀氏は、元派閥会長・宮沢喜一元首相と交渉し、菅氏や岸田氏らが不利にならないよう水面下で動いている。菅氏が派閥から離れてからも関係は良好であったようだ。菅政権を支持し、佐賀県から福岡県大牟田市まで伸びる有明海沿岸道路の熊本延伸を構想し、菅氏の協力で元財務官僚の西野太亮氏(衆議院議員・熊本2区)を国政に送り込んだ。
小泉陣営には、旧岸田派からは2人の推薦人のほか、木原誠二選挙対策委員長も陣営の要となっている。仮に決選投票で小泉氏と高市氏が残った場合、旧宏池会議員の多くは小泉氏につくのではないかとみられる。旧岸田派は現在も結束を保っているとされ「非主流派」になって冷や飯を食うことは避けられる。先を読んで強かに布石を打つ古賀氏の執念は、はたして実現するだろうか。
【近藤将勝】