(株)日本住宅保証検査機構
技術本部本部長 小久保正義 氏
販売促進部部長 藤田真 氏

中大規模木造建築物(木造非住宅)の普及が進もうとしている。ただ、より本格的な普及を目指すうえでネックとなっているのは、その資産価値などについて懸念が払拭されておらず、建築主はもちろん、建設資金を融資する金融機関関係者などが建設に前向きになりづらいことだ。国は「木造建築物の耐久性評価ガイドライン」を示し、懸念払拭のための動きを見せている。そこで、(株)日本住宅保証検査機構(JIO)の担当者に、ガイドラインに基づく耐久性評価や、それが木造非住宅の普及にどうつながるのかを聞いた。
建物の資産価値を
可視化するガイドライン
──まず御社の事業内容について、教えてください。
藤田 当社は住宅瑕疵(かし)保険の引き受け、住宅審査・評価業務を主要業務としています。いずれも「住宅の品質確保の促進などに関する法律(品確法)」に基づくもので、前者は新築住宅に義務付けられている10年間の瑕疵担保責任を、事業者の経営状況に関わりなく履行するための保険です。後者では第三者機関(住宅性能評価機関)として、構造の安定や温熱環境・省エネ性などといった性能を、主に新築住宅と既存住宅に対して行っています。
後者については、2025年6月から木造建築物の耐久性を評価する新たな評価サービス(以下、新サービス)を開始しました。これは、国の「木造建築物の耐久性評価ガイドライン」(以下、ガイドライン)が昨年12月に公表され、今年4月に評価の申請受付が開始されたことを受けたものです。

小久保 ガイドラインは、木造の非住宅建築物の耐久性を評価するための基準や枠組みを定めたもの。構造躯体の内部への雨水の浸入防止、雨水の浸入があった場合の速やかな排出、雨水が浸入し滞留した場合の防腐・防蟻処理が重要とされています。これらの措置が適切に講じられれば、木造建築物の耐久性(減価償却期間)を一般的な減価償却期間と切り離して50年以上にできることが期待されます。また、建築事業者や建築主と金融、会計、投資分野とが相互に連携しながら、ガイドラインに基づく取り組みを促進することで、資産価値の可視化を行い、木造建築物の普及と市場価値の向上に寄与することを目指すものです。具体的な評価の手法については、平面図や断面図、仕様書(仕上表)などの設計図書を、当社のような第三者機関が審査することが必要となります。
藤田 新サービスは新築の木造(混構造含む)の非住宅建築物を対象としており、通常想定される条件下で大規模な改修工事を必要とする期間が50年以上となる措置が講じられているか評価をします。評価基準は住宅性能表示制度における基準の1つ、劣化対策等級2相当です。まだ新サービスはスタートしたばかりで爆発的に伸びているわけではありませんが、サービス開始以前より多数の問い合わせをいただいており、8月には九州のある事業者さまから、当社としても全国第1号物件となる評価の依頼をいただくことができました。
木造建築物の弱点
減価償却期間の短さ補う
──建築主はもちろん、ゼネコンなど建てる側にも、まだ木造に対する理解が浸透していないように感じられます。

小久保 たしかに、耐震や耐火なども含め建物の性能について、これまで鉄骨造・RC造しか建ててこなかった事業者には不安があると思われます。しかし、ガイドラインが示され適切な対処をすることで、今後は工務店やビルダーなど木造住宅事業者が不安を感じるケースは減るものと考えています。後ほど詳しく述べますが、ガイドラインが示されたことで、木造住宅事業者は大きなチャンスが生じると見られます。これまで木造を扱ってきた事業者には、培ってきた経験やノウハウが、非住宅分野へ進出する際に優位に働くからです。
また、現状では住宅を含む木造建築物の減価償却期間は約20年であり、金融機関は木造非住宅の場合もそれをベースとして融資を実行しています。つまり、減価償却期間が50年以上のRC造、30年前後の鉄骨造と比べると、このことは木造非住宅の弱点であるわけです。今回のガイドラインによる耐久性評価の確立は、その弱点を補うものです。もちろん、非住宅分野における、より高い耐震性などの評価方法は確立されていないためこれからですが、ガイドラインに準拠していれば、木造建築物でも50年以上の耐久性、それに応じた資産価値の評価が得られるという点で、非常に画期的なことです。
藤田 このガイドラインは住宅性能表示制度のガイドラインをベースにするものですが、建築物の性能には耐久性だけでなく、耐震性や省エネ性などさまざまな観点があります。たとえば、省エネ性の評価基準ができるなど、さまざまな観点において一歩ずつ階段を上っているという状況です。現状では、それらについて独自ノウハウをもつスーパーゼネコンなどの事業者が、高層木造ビルを含む大規模建築物を建設するなど木造非住宅で先行しているわけですが、省エネ性の評価基準など制度が整い始め、中小事業者が活躍できる環境が整いつつあります。数年以内には、中小規模の非住宅市場でも適切な評価が一般化し、市場の普及が進むことが期待されます。
金融機関の融資を促す仕組み
──カギとなるプレーヤーの1つは、お話に出てきた金融機関だと思われますが、反応はいかがですか。
藤田 結論からいうと、彼らは「ようやく融資の判断に役立つ制度ができたか」という感じで見ているようです。金融機関の評価プロセスは、住宅と事業用建物(非住宅)とでは大きく異なり、後者についてはその関係上、融資しようにも難しい状況にあったためです。具体的には、住宅への融資は借主の返済能力が判断基準になり、木造・非木造の違いは大きく影響しませんが、事業用建物の場合は事業性の評価に基づく融資が中心となり、耐久性指標の欠如から、融資期間や金利設定で木造は不利でした。しかし、ガイドラインの導入により、その評価のベースとなる根拠の提示が可能となるため、金融機関の対応は以前よりも融資をしやすくなるのです。
たとえば、「全国で店舗を展開している企業がガイドラインに基づく仕様により、すべての事業所を木造で建てていくということであればより融資がしやすくなる」と話す金融機関の関係者もいるくらいです。長く決められた評価プロセスに基づき融資を行ってきた業界ですから、「国がいうからやろう」とは必ずしもなっていないようですが、関係者の間に「自分たちも木造建築物の普及に貢献しなければ」という機運が醸成されつつあるのは、間違いありません。
小久保 何もない状態で今、当社の評価書をもっていったところで、金融機関は対応に苦慮するだけだと予想しています。そういう意味では、木造建築物プロジェクトの推進役である事業主に、木造に対する知識をもっていただく必要があります。そのために建設事業者には、事業主に対して耐久性の面で鉄骨造やRC造に劣らないかを説明できる能力、技術力を身につけることが求められます。ガイドラインに基づく評価を示すことは、その際の一助になるはずです。
木造賃貸住宅と同様の判断指標に
──金融機関はこれまで、同じく事業採算性が求められる低層の木造賃貸アパートには融資を実行してきました。木造非住宅とそれとの違いは、何なのでしょうか。

藤田真 氏
藤田 賃貸とはいえ住宅なので、住宅性能評価制度があり、同制度に基づいて融資の判断が行われてきました。「木造アパートでも劣化対策等級の2や3を取れれば融資を行います」といった具合です。つまり、彼らは住宅性能評価制度という公的な指標があるから、融資実行の判断ができるわけです。木造非住宅の普及においてターゲットの1つとなる高齢者施設、たとえばサービス付きの高齢者向け住宅も同様です。ところが、事務所や店舗、倉庫などの非住宅になると公的な指標がなく、不特定多数の人が出入することもあり、それが要因となって耐久性など安全性に懸念があると見なし、金融機関の方々はおよび腰になってしまうのです。
小久保 今回のガイドラインは、事業主や金融機関など事業計画に関わるすべてのステークホルダーにとって、これまで木造賃貸アパートなどに適用されてきた基準に近い判断指標が、事業用木造建築物においてもできたという側面からも注目に値します。このことは木造非住宅の本格的な拡大を促し、木造住宅事業者にとっては事業機会が増す絶好のチャンスであると見られるからです。少なくとも、これまで木造の欠点とされてきた耐久性、要は長期にわたって資産価値を維持できるのかという点について、事業主や金融機関などに説明しやすくなるのは間違いないでしょう。
──とはいえ、注意すべき点もありそうです。
藤田 木造住宅と木造非住宅は低層なら同じような仕様になりますが、細かい部分には違いがあります。たとえば非住宅では1階部分をすべて土間にするケースがありますが、その際には住宅とは異なる耐久性の評価が必要になります。このようなお困りごとに対して、きめ細やかなアドバイスを提供できるのが、全国にサービス網を展開する当社の強みの1つです。また、全国には130以上の評価機関があり、瑕疵保険を取り扱う法人も5社ありますが、住宅の瑕疵事故(トラブル)の発生要因について専門的に研究する部門「住宅品質研究室」を有しているのは当社のみです。

また、100%子会社の(株)JBサポートからは、非住宅に関する検査・保証サービスを提供させていただいており、新築住宅同様の保証を提供させていただいております。当社では住宅分野で培った知見を非住宅分野に広げ、新たに木造非住宅に参入しようとされている事業者の方々にも、非住宅に向けたこれらのサービスをご利用いただければと考えております。
【田中直輝】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:角直樹
所在地:東京都千代田区神田須田町2-6
ランディック神田ビル4F
設 立:1999年7月
資本金:10億円
TEL:03-6859-4800
URL:https://www.jio-kensa.co.jp/
■九州支店
所在地:福岡市博多区銀天町2-2-28
CROSS福岡銀天町4F
TEL:092-502-4131

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