駅前開発が本格化、西区橋本駅周辺エリア

橋本駅前での複合開発の完成イメージ(大和ハウス工業提供)
橋本駅前での複合開発の完成イメージ(大和ハウス工業提供)

大和ハウスと西鉄共同で駅前に住・商の複合開発

 福岡市西区の福岡市地下鉄七隈線・橋本駅の駅前立地で現在、大和ハウス工業(株)(東証プライム)と西日本鉄道(株)(東証プライム)が共同で、分譲マンションと商業施設で構成される複合開発を進めている。

 同複合開発は、「(仮称)福岡市西区橋本2丁目新築工事」として計画が進められていたもの。敷地面積は約3,300m2、RC造・地上14階建、総戸数130戸の分譲マンションを建てる計画で、設計は(株)大建設計 九州事務所が、施工は(株)松本組がそれぞれ担当。竣工は2027年6月下旬を予定している。また、マンションに隣接して商業施設も計画されているが、商業施設の規模や入居テナントは現時点では未定となっている。

左:(仮称)福岡市西区橋本2丁目-新築工事 右:木の葉モール橋本
左:(仮称)福岡市西区橋本2丁目 新築工事 右:木の葉モール橋本

 開発予定地は、博多駅までの延伸によって沿線の土地需要が高まっている七隈線の橋本駅から徒歩2分の駅前立地。すぐ近くには大型商業施設「木の葉モール橋本」があるほか、国道202号バイパス(福岡外環状道路)にも近く、交通利便性および生活利便性がともに高い場所だ。また同地は、26年3月末までの施行期間で整備が進んでいる「橋本駅前土地区画整理事業」の事業エリアの一角でもある。

 橋本駅の周辺エリアではこれまで、駅開業を契機として開発が進んできたものの、主に木の葉モール橋本をはじめとした、福岡外環状道路沿いでの商業施設等の開発がほとんど。駅の南側および西側については、長らく市街化調整区域として、過度な開発が抑制されてきた経緯がある。それが、橋本駅前土地区画整理事業の事業完了が近づき、いよいよ新たなまちづくりが進んでいく基盤が整ってきたようだ。

駅開業を契機に周辺開発が進行

 福岡市地下鉄七隈線の起点となっている橋本駅の周辺は、まさに2005年2月の七隈線および駅開業を契機として開発が進んできたエリアだ。

 橋本駅周辺を含めた七隈線が通る市の西南部地域は、1970年ごろから住宅地を中心として急速に開発が進んできた。比較的新しい市街地であるものの、鉄軌道がないという制約によって、都市化の進行が一部妨げられていた地域だ。橋本駅周辺も、95年度に福岡外環状道路の野芥~拾六町間の4.1kmが暫定2車線で供用開始となり、幹線道路こそ通っていたものの、田畑などの市街化調整区域が多いエリアだった。

 そのため、効率的で利便性の高い公共交通体系の確立を図ることで、市の西南部地域の均衡あるまちづくりを推進するために計画されたのが、地下鉄七隈線だ。88年4月に策定された福岡市総合計画のなかで「都心部と西南部を結ぶ新しい交通機関の早期導入を図る」旨が記載され、92年4月の第14回福岡都市圏交通対策協議会において、地下鉄3号線(七隈線)計画の福岡市案が基本的に了承されたことで、実現に向けて動き出した。その後、95年6月に運輸省(現・国土交通省)から鉄道事業免許が下りたことで事業が本格的にスタートし、97年1月に地下鉄3号線の起工式を経て、05年2月に七隈線が開業を迎えた。橋本駅周辺エリアを含めた七隈線沿線では、七隈線開業を控えた01年度から03年度にかけて、建築確認申請件数が増加。とくに都心部である天神南駅から薬院大通駅の間で、事務所や店舗などのほか、マンションなどの共同住宅の開発が進んでいった。

左:福岡市地下鉄七隈線・橋本駅 右:ニトリ-福岡西店
左:福岡市地下鉄七隈線・橋本駅 右:ニトリ 福岡西店

 七隈線の起点となる橋本駅周辺エリアにおいても、拠点性をもつ市街地形成を図るため、交通結節機能の強化と合わせて住民と行政の協働による面的まちづくりを推進するべく、土地区画整理事業をはじめとした開発が進行。01年7月には橋本土地区画整理準備組合が設立され、06年7月には橋本土地区画整理組合の設立が認可されて、橋本土地区画整理事業がスタートした。同区画整理事業は、橋本2丁目の約8.3haにおいて総事業費約210億円をかけて行われたもので、10年12月に区画整理事業が完了。その事業地では10年3月に「ニトリ 福岡西店」が開業したほか、11年4月には「木の葉モール橋本」が開業した。

 また、同区画整理事業が進行していた同時期には、10年2月に福岡外環状道路(国道202号)の野芥~拾六町間の4車線化が完成。11年2月には福岡高速5号線(福岡高速環状線)の野芥出入口~福重出入口間も供用開始となるなど、地下鉄だけでなく、地上部の交通インフラ整備も進んでいった。

駅前土地区画整理事業は26年3月末までに造成完了

 10年12月の橋本土地区画整理事業の完了から間もない11年7月には、今度は駅の西南部における土地区画整理事業の準備組合が設立され、新たに「橋本駅前土地区画整理事業」の動きがスタートした。

 同土地区画整理事業は、橋本駅の西側(橋本2丁目、戸切2丁目の各一部)約7.3haで進められているもので、地域拠点にふさわしいまちづくりを行うため、駅に隣接する街区に商業やサービス機能などを誘導し、地区の西側に良好な住環境の形成を図ることを目的としている。また、事業区域内における未整備の都市計画道路の整備を行うとともに、周辺の民間施設を活用したパークアンドライドなどに取り組むことも事業計画には盛り込まれている。

 一方、七隈線では07年度から10年度にかけて延伸区間の検討が行われ、11年度に天神南~博多の延伸についての事業化に向けた検討を開始。12年6月に鉄道事業の許可を取得したことで、七隈線延伸事業がスタートした。13年度には土木本体工事に着手。14年2月に起工式を行い、16年11月に大規模な陥没事故の発生という想定外の事態に見舞われながらも、以降は延伸開業に向けての工事が着々と進行していった。そして23年3月、博多までの延伸開業を迎えた。

 こうして七隈線が乗り換えなしに博多駅までつながったことを受けて、沿線では住宅需要も増加。そうした状況下で、20年3月に都市計画決定と市街化区域編入決定告示となり、橋本駅前土地区画整理組合が設立認可を受けた。同年10月には事業計画が認可され、22年2月の仮換地指定を経て、22年7月から区画整理事業が着工。24年5月には先行して、橋本駅の駅前広場が供用開始となった。そして現在、同土地区画整理事業の造成等工事は、西松建設・アスミオ.JVが施工を担当し、26年3月末までの事業期間で進められている。

市街化調整区域が多く人口は減少傾向

 さてここで、現在の橋本駅周辺エリアについて、福岡市の都市計画による用途地域で見てみよう。

 橋本2丁目の橋本駅や木の葉モール橋本などが含まれるエリアが近隣商業地域(建ぺい率80%/容積率300%)、駅北側の外環状道路沿線の橋本2丁目部分は準住居地域(建ぺい率60%、容積率200%)、前述の駅前土地区画整理事業で整備が進んでいる橋本2丁目および戸切2丁目の一部は第2種住居地域(建ぺい率60%、容積率200%)と第1種中高層住居専用地域(建ぺい率60%、容積率100%)、そして外環状道路西側の橋本2丁目や壱岐団地が第1種低層住居専用地域(建ぺい率50%、容積率80%)となっている。また、戸切1丁目と大字橋本にまたがる橋本車両基地は、準工業地域(建ぺい率60%/容積率200%)。そして、それ以外の橋本1丁目の室見川沿いや戸切1~3丁目の大部分を占めるのが、市街化調整区域(建ぺい率40%、容積率50%)だ。

 こうして用途地域を見る限り、比較的古くからの壱岐団地や外環状道路沿いなどを除けば、橋本駅周辺には市街化調整区域がいまだ多く、これまであまり積極的に開発が進んでこなかった背景が見て取れる。しかし、裏を返せば、市街化区域に編入することで、まだまだ開発余地は十分にあるエリアだともいえる。

 福岡市の住民基本台帳に基づく公称町別の人口および世帯数では、橋本駅周辺エリア(橋本1・2丁目、大字橋本、戸切1~3丁目、壱岐団地)は25年9月末現在で、人口6,186人・3,382世帯となっている。過去のデータから比較すると、10年前の15年9月末時点では、人口7,476人・3,598世帯、20年前の05年9月末時点では、人口8,673人・3,528世帯となっており、福岡市内でも珍しく、エリア内の人口が減少傾向にあることがわかる。

 なかでも、とくに人口減少が顕著なのが「壱岐団地」だ。住居表示の「壱岐団地」内では、1976年から88年にかけて開発が進められた大規模団地である壱岐団地(市営住宅、県営住宅等)が存在感を放つほか、その南側には低層の戸建住宅街も形成。そのうち団地部分では建物の老朽化が顕著となっているほか、エレベーターが設置されていない建物も多く存在しており、開発当初から入居していた住民の高齢化等にともなう減少のほか、新たな住民の入居などもあまり進んでこなかった。そのため、福岡市では2017年度から壱岐団地の建替事業に着手。既存建物の解体を進めるとともに、新たな建物への建替を順次進めている。同建替事業は25年9月時点でも現在進行形で進んでおり、壱岐団地内の市営住宅の範囲全体の建替完了時期は未定となっている。

 今後、壱岐団地の建替事業が進行していくとともに、駅前土地区画整理事業の完了および新たな開発が進んでいけば、地下鉄駅至近の立地を生かして、エリア内の人口が増加に転じていく可能性は十分あるだろう。

新たな土地区画整理も検討 存在感増す西区の地域拠点

 さて、橋本駅前土地区画整理事業の事業地では現在、冒頭に紹介した大和ハウスと西鉄共同の複合開発のほかにも、いくつかの新たな開発の動きが確認できる。

 まず前出の複合開発の予定地から戸切通線を挟んで北側の場所では、大和ハウス工業による「(仮称)福岡市西区橋本2丁目PJ MR新築工事」も進行。設計は(株)ガレックス(東京都墨田区)が担当している。西鉄との複合開発の予定地とも近いことから、複合開発で建てられる分譲マンションのモデルルームなどが建てられる模様だ。

左:(仮称)福岡市西区橋本2丁目PJ-MR新築工事 右:アスミオ.本社建設予定地
左:(仮称)福岡市西区橋本2丁目PJ MR新築工事 右:アスミオ.本社建設予定地

 また橋本駅から戸切通線を挟んで北側、前述のモデルルームから道を挟んで東側の場所では、地場の総合建設会社であるアスミオ.(株)が、新本社ビルを計画している。新本社ビルは14階建となる予定で、同社の本社が入るほか、他企業のオフィスなども入る計画。竣工の暁には、橋本駅前の新たな顔の1つになるだろう。

 なお、26年3月末に造成工事が完了予定の駅前土地区画整理事業の事業地では、これらの開発予定地以外にも、まだ計画が発表されていないエリアが残されている。

● ● ●

 今回見てきた橋本駅周辺エリアは、福岡市の基本計画においては西区の地域拠点の1つに位置付けられている。現在、駅前土地区画整理事業のさらに南側では、「(仮称)橋本駅南土地区画整理事業」として新たな土地区画整理事業の検討も行われている。同土地区画整理事業の事業予定地は、戸切1丁目と大字橋本、羽根戸の一部の計約28haと広大であり、今後、事業が現実のものとして進行していけば、エリアの勢いはますます増していくだろう。地下鉄駅の周辺でありながら未開発地を多く残し、十分なポテンシャルを秘めている橋本駅周辺エリア。今後の開発の進行とともに、西区の地域拠点としての存在感がさらに高まっていくことを期待したい。

新たに「(仮称)橋本駅南土地区画整理事業」の検討も行われている
新たに「(仮称)橋本駅南土地区画整理事業」の検討も行われている

【坂田憲治】

月刊まちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、建設・不動産業界に関すること、再開発に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

記事の企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は別途ご相談。
現在、業界に身を置いている方や趣味で建築、土木、設計、再開発に興味がある方なども大歓迎です。
また、業界経験のある方や研究者の方であれば、例えば下記のような記事企画も募集しております。
・よりよい建物をつくるために不要な法令
・まちの景観を美しくするために必要な規制
・芸術と都市開発の歴史
・日本の土木工事の歴史(連載企画)

ご応募いただける場合は、こちらまで。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。
(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事