イラン戦争で露呈した日本の資源依存
現在の日本の政治情勢は不可解なものだ。とりわけ、イランとの戦争や、石油・天然ガスの輸入が間もなく途絶えるという事態に関してはなおさらである。まるで日本国民全員が夢のなかにいるかのようで、スマートフォンでゲームをしながら、歴史のなかを夢遊病者のように歩みを進めているかのようだ。
米国とイスラエルが仕掛けた、見通しの立たないイランとの戦争により、日本経済の運営に不可欠な中東産原材料の供給が大幅に減少した。
具体的には、日本国内の輸送や、海外からの食料・製品の輸入に必要な船舶、さらには漁業に要する石油のコストが急騰しており、キューバが経験したような石油供給の完全な断絶が生じる恐れがある。
世界中で石油が生産されているとはいえ、石油輸出国は将来的な紛争の激化を予想して、輸出を停止し、備蓄を開始する可能性が高い。
日本は、半導体や自動車といった高付加価値製品を製造して輸出に回し、その収益で海外から食料やその他の生活必需品を購入するという、脆弱でリスクの高い経済モデルを採用している。この仕組みでは、わずかな混乱が生じただけで、日本人が自給自足できなくなる恐れがある。
ナフサ・天然ガス不足が
産業と生活を直撃する
ホルムズ海峡が封鎖されれば、石油から精製される重要な製品であり、プラスチック製造に不可欠なナフサも不足することになる。プラスチックは日本の経済のあらゆる分野で使用されており、日本人が収入源としている多くの輸出品にも大量に使用されている。日本国内のナフサの備蓄は1カ月分にも満たない状況にあるにもかかわらず、店頭で販売されているあらゆる商品は、依然としてリサイクル不可能なプラスチックで不必要に何重にも包まれている。
日本は、環境に甚大な被害をもたらす使い捨てプラスチックの使用を制限するための対策を何一つ講じていない。しかも多くの日本人は、プラスチックが石油と関係があることさえ理解していない。
日本では、天然ガスは産業用や暖房用として利用されている。その急激な不足は、現代の日本人にとって未曾有の危機を招くだろう。ほとんどの人が自宅を暖めることができなくなるだろう。
ヘリウムは天然ガスの生産過程で生じる副産物であり、日本へ輸送するには特別に設計された船舶を使用しなければならない。ヘリウムがなければ、半導体産業は劇的に停滞することになる。メディアによって、将来の成長への希望をもたらすものとして日本人に信じ込まされてきた経済分野、すなわち半導体とAIは、もはや役割を果たさなくなるだろう。
問われる石油依存型社会からの転換
石油や天然ガスの価格が急騰したことで、短期的には汚染の原因となる石炭や原子力発電の利用が増えることになるだろうが、エネルギー危機に対するこうした危険な解決策でさえ、十分とはいえないだろう。
スマートフォン、アプリ、AI、クラウドサービスに支えられた「スマート」経済──その象徴が「マイナンバー」政策だが──は崩壊するだろう。企業とメディアは、まるで電気がタダであるかのように、またAIを何のコストもかけずに利用できるかのように、私たちに信じ込ませてきた。しかし、これほど事実とかけ離れたことはない。
同様に重要なのは、世界中の現代農業において、石油を消費する機械が使用されていること、そして大量の作物を生産するために、硫黄、硫酸(リン酸塩化学肥料)、窒素系肥料、尿素から作られた化学肥料への依存がある。こうした化学肥料を入手できなくなれば、1990年代のソ連崩壊後に北朝鮮で起きたのと同じような大規模な飢餓に、日本も直面することになりかねない。
日本政府が農業生産を政策として縮小し、有機農業を排除し、輸入された遺伝子組み換え作物や、さまざまな危険な除草剤、殺虫剤、肥料の使用を強制してきたため、この状況は食料危機をさらに悪化するだろう。
なぜ日本政府やメディアは、節電やスマートフォンなどの電気製品の使用削減、プラスチックの使用廃止、そして石油依存型経済からの早期脱却を推奨しないのだろうか?
まるで日本経済の劇的な崩壊が、意図的に引き起こされているかのようだ。日本が生き残るための最も明白な提案すら、政府や多くの知識人が提示できていないという事実は、深く憂慮すべき事態である。
石油備蓄の放出は最も危険な対策である。石油備蓄は石油がまったくない場合に活用するもので、石油価格を調整するために使うものではない。どうみても最初から石油備蓄を完全に使ってしまうことは、もっと深刻な問題をわざと起こすことだとしか思われない。
石油の配給制を導入せざるを得ない場合、それは石油の生産と流通を国有化し、誰にも利益をもたらさない非営利の公的独占機関(行政)によって運営されていなければ実現できない。短期的な利益を追求する企業、あるいはそれらが資金提供しているシンクタンクは、エネルギー政策の在り方を決定するうえで、いかなる役割も果たしてはならないからだ。
唯一の解決方法は石油中毒に気づいて、高度成長の悪夢から一刻も早く目覚めることである。
勤勉な市民に犠牲を強いる前に、プライベートジェットや高級車、広大な邸宅など、富裕層によるエネルギーの浪費をなくさなければならない。
日本が直ちに取り組むべき対策
エネルギーと食料の自立を目指す運動の一環として、政府レベルだけでなく市民の間でも、日本が直ちに実施すべき政策についていくつか提案させていただきたいと思います。
①エネルギーの浪費をやめよう!
電気に頼るデジタル化教育もメディアも、中毒性の高いスマホ文化、豪華な自動車や非人間的でエネルギーをどんどん使う大げさな建築も、もはや恥である。勇気をもってその危険性を指摘した上、自動化やデジタル化やAIのエネルギー浪費をやめて、何千年も続いてきた本、手紙、手作りを復活させよう。
②有機農業で食料自給率を高めよう!
今の農業は中東の石油やガスで作る化学肥料で支えられているので、石油危機になると餓死の危険が高まるに決まっている。同時に日本人が生き残るためには、経済や消費のための人口増加政策ではなく、現実的に国内生産で賄えるくらいの人口を維持することが大切だ。社会における老人の割合が問題になっているが、人口が減ること自体は戦略的に有利である。
③労働を尊敬せよ!
労働者を軽視する文化があちこちで拡散されている。投資や株などの寄生虫経済でボロ儲けした大金持ちが本当に素晴らしいと思わせる漫画とテレビドラマが多い。労働者がみんなでまじめに物を作ったり、部屋を掃除したり、レジでお金を受け取ったり、どれも輸入エネルギーからの自立にとても重要なことなのである。
④成長と消費という宗教から目覚めよ!
人間社会において、経済成長が必要だという科学的な根拠はない。日本では古代から自然を敬い、つつましい生活が模範であった。必要最低限の消費で社会を運営していたことを思い起こすべきである。
⑤石油を浪費するだけで再利用もできないプラスチックから卒業しよう!
医学など絶対必要な分野にだけプラスチック(ナフサ)を使うべきである。
⑥100%のエネルギー自立で市民の生存を最優先させよ!
安全保障というなら、政府は安い再生エネルギーに必要な設備を早く市民に提供すべきである。それは高い武器よりはるかに効果がある。半導体や自動車やAIで株主・海外投資家・銀行の利益を増やすよりも、私たちのために再生エネルギーで自立を目指すべきである。
危機の根底にある
気候変動と化石燃料依存
多くの日本人は、この危機をイラン戦争によって引き起こされた一時的な問題だと捉えており、ホルムズ海峡が再開され石油や天然ガスの供給が回復すれば、すべてがうまくいくと想定している。
しかし実のところ、日本は輸入石油、天然ガス、石炭への依存からできるだけ早く脱却しなければならない。その理由は、輸入への依存がもたらす危険性だけでなく、これらの資源が環境や気候に壊滅的な影響を与えているからでもある。
多くの日本の知識人は、アメリカのメディアが気候変動について報じなくなったからといって、どういうわけか、気候変動はもはや問題ではないと考えている。悲しいことに、気候変動はますます壊滅的な問題となりつつある。
この混乱は、科学の変化によるものではなく、米国の道徳的・知的崩壊に起因するものである。地球の温暖化は予測どおりに進行している。
中東の危機は、気候変動の結果である。同地域、とくにイラン、イスラエル、サウジアラビア、カタールなどの国々における砂漠化により、これらの国々は生き残るために海水の淡水化に頼らざるを得なくなっている。これは、資金とエネルギーを必要とし、最終的には持続不可能な、危険かつ破壊的なプロセスである。これらの国々は、気候変動の影響を乗り切るために、気候変動の原因となる石油や天然ガスからの利益を必要としている。
石油、石炭、天然ガスの使用を終わらせることが、人類にとって唯一の真の解決策であり、それは市場のインセンティブに依存して実現できるものではない。これを安全保障上の最優先課題とし、この消費文化に終止符を打たなければならない。
石油依存からの脱却は、そもそも技術や政策の問題ではない。日本は、浪費や近視眼的な思考、株式市場や大型車への崇拝が宗教と化してしまった、自己愛と利己主義に満ちた商業主義の文化によって、その文化そのものを破壊されてしまったのだ。もし私たちがその悪夢から抜け出すことができれば、今すぐ何をすべきかは誰の目にも明らかになるだろう。
<PROFILE>
エマニュエル・パストリッチ
1964年生まれ。アメリカ合衆国テネシー州ナッシュビル出身。イェール大学卒業、東京大学大学院修士課程修了(比較文学比較文化専攻)、ハーバード大学博士。イリノイ大学、ジョージワシントン大学、韓国・慶熙大学などで勤務。韓国で2007年にアジア・インスティチュートを創立(現・理事長)。20年の米大統領選に無所属での立候補を宣言したほか、24年の選挙でも緑の党から立候補を試みた。23年に活動の拠点を東京に移し、アメリカ政治体制の変革や日米同盟の改革を訴えている。英語、日本語、韓国語、中国語での著書多数。『沈没してゆくアメリカ号を彼岸から見て』(論創社、25年)、『USAを盗んだ男—トランプ、そして腐敗を極める輩たち』(論創社、26年)。








