【特別対談】知財戦略で地場企業を支える両事務所が統合 知財を経営の武器にできるよう支援

明倫国際法律事務所
代表 弁護士・弁理士 田中雅敏 氏
加藤合同国際特許事務所
会長 弁理士 加藤久 氏
(現・Provia国際特許商標事務所 共同代表)

Provia国際特許商標事務所 共同代表

 明倫国際法律事務所(田中雅敏代表 弁護士・弁理士)と加藤合同国際特許事務所(加藤久会長 弁理士)は7月までに事業を統合することを、4月1日付で発表した。明倫グループ新設のProvia国際特許商標事務所が加藤合同国際特許事務所の全事業を承継する。知的財産を含め幅広い分野で顧客の経営課題解決および付加価値創造を支えてきた明倫国際法律事務所と知的財産権の創出・活用におけるリーディングファームである加藤合同国際特許事務所の統合により、知財に基づいた支援をさらに強化する。知財活用による経営強化といった理念の一致を感じていたという田中雅敏氏と加藤久氏に統合を決めた理由と今後の展望について対談してもらった。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 緒方克美)

理念の共有により統合へ

 ──統合に至ったお考えと経緯を教えてください。

 田中雅敏氏(以下、田中) 加藤先生のことはもちろん以前から存じ上げており、すごい方がいるとずっと思っていました。事務所も九州でトップクラスです。私が弁理士登録をしたのは2001年で、当時から弁理士会などでご一緒し、大先輩としていろいろ教えていただいたことがあります。今回お話をいただいて、私としては「是非」ということでお願いしました。

 加藤久氏(以下、加藤) 実は私の方から声をかけさせてもらったのです。私は70歳を過ぎ、事務所の継続性に不安を抱えるようになりました。私たちの仕事は、何十年も続く権利を扱うものですので、一度引き受けたら「もうやめる」というわけにはいかず、何十年ものスパンで、ずっと先まで見ていかなければなりません。

 九州で承継の可能性を考えたとき、田中先生しかいないと思いました。根本的な理念が私と非常に共通していると感じていたからです。

 田中 加藤先生とお話ししていると、考え方が本当に近いとよく感じます。私は知財について、企業は権利を取るだけでなく、それをちゃんと事業に使い、事業価値自体を向上させることが大事だと思っていますが、加藤先生も同様に、知財をさらに活用し、流通させるところまで事業を支援したいという思いをお持ちです。大事なのは、「その権利を使って、事業価値をどう大きくしていくか」ということです。そうした知財戦略にまでコミットできないようなら、我々が存在する意味はあまりないと考えています。

 加藤 私もそんな話をしてきたのですが、田中先生はまさに同じようなことを言っています。所員に対する思いに関しても非常に共通していると感じていました。言葉のフレーズ1つとっても、重なることが多くあります。

 また田中先生は弁護士という強い個性をもつ方を何十人も統率しており、本当にすごいと思っていました。

体制強化にもプラスに

 ──加藤先生が創業されてからの30年で、弁理士の仕事や業界はどう変わりましたか。

 加藤 30年前は弁理士という言葉自体がまったく認知されておらず、便利屋と勘違いされて夜中に電話がかかってくることもありました。

 今も課題なのは、特許出願に占める九州の割合の低さです。九州は日本経済の1割弱を占めるのに、特許出願件数はわずか1%です。東京、大阪、名古屋がほとんど占めている世界です。しかし、九州には良いものがたくさんあり、それを育てていかなければと思っています。

 田中 加藤先生や私が弁理士になったのは「知財立国宣言」(02年)の前で、当時は、ほとんどの中小企業にとって、知財への関心は低い状況でした。私と加藤先生は、その啓発活動を行ってきた同志でもあります。

 九州には本当にもったいないと思える企業が少なくありません。知財を活用すれば、大企業と対等に渡り合えるし、海外に直接出ることもできます。私は顧客に知財のそうした価値を理解してもらい、成長してもらえるよう考えてきました。しかし良いシーズ(技術の種)があるのに、社長は忙しく、「知財よりも先に営業」となってしまい、事業として成長できる種をみすみす放置しているケースが見られます。

 加藤 九州経済産業局にも知的財産室が設けられましたが、室長は局長から「九州の経済規模は全国の1割なのに知財はなぜ1%なのか」といわれるそうです。行政も施策を実施していますが、それだけではなかなか変わりません。

 田中 九州は弁理士の数も少ないです。今回の統合のメリットの1つに人を増やせることもあります。当事務所の強みは東京にも事務所があることで、東京で採用して九州の業務を担当してもらうことができますし、地元の九州に帰りたいという人もいます。

 知財業界の人からすると、母体が弁護士事務所では内実がわかりにくいのでしょう。しかし、歴史と伝統のある加藤先生の事務所と一緒になることで、「ここは知財業務をしっかり行っている」と信頼度が高まり、現在も応募が増えていると感じています。

知財は事業活用されて
初めて価値を生む

 ──弁理士が在籍する弁護士事務所は少ないのでしょうか。

 加藤 一定数ありますが、実態は弁護士が弁理士登録をしているだけという程度です。弁護士も弁理士もいて法務部門と知財部門を設置していても、うまく噛み合っておらず別々に活動している印象をもつ事務所が多いです。一体となって機能している事務所は全国でも非常に少ないと思います。

 田中 弁護士は弁理士試験を受験せずとも研修を受ければ弁理士登録ができます。ただ、明細書作成など実務に関する相応の知識が求められるため、知財法の知識はあっても直ちに実務ができるわけではなく、対応できない人が実は多くいます。当事務所の原慎一郎弁護士・弁理士のように、弁理士試験と司法試験の両方に合格している人は稀です。

 ──需要に対して弁理士が足りていないのでしょうか?

 加藤 圧倒的に足りておらず、知財活用をめぐる啓発活動もあまり行われていません。依頼を受けたら手続きをすることはあっても、「この企業は何について知財を取るべきか」「あえて取らずに秘密にしておくか」「どう知財を活用するか」と知財を経営戦略として一緒に考えようという事務所はほとんどないでしょう。私は創業当時からこうした飛び込み営業をやっていました。

 田中 弁理士の側からすると、依頼を受けて出願するだけなら楽ですが、経営戦略にまで踏み込むのは相当な勉強と経験が必要です。その点、当事務所は、企業法務の事務所として多くの企業の経営課題に共に向き合ってきた長年の経験と実績があります。

 加藤 九州の経営者の意識についていえば、知財活用の実例を目にする機会が少ないのも関係しています。「隣の社長が儲けていたら自分もやろうか」とはなるけれど、たとえばソニーが儲けていても東京や大阪とは異なり、「自分には関係ない世界だ」と思ってしまいます。

 本来は中堅企業こそ知財に基づいた経営を行うべきです。大企業と正面から戦っては負けますが、知財という武器があれば、交渉を有利に進めたり、自社の強みを強化したりするなど、ビジネスを有利に組み立てられます。しかし実態としては、特許を取っていれば「侵害を受けた際に訴えることができる」という程度の認識で止まっている企業が多く、ビジネスにおいてプラスにするという意識が浸透していません。

 田中 業界でよく見られるのは、出願をすれば手数料が入るようになるので「技術があれば出しましょう」と勧めるケースです。しかし、私たちはむしろ「出さないほうが良い」という判断も重要視しています。出願すれば内容が公開されるからです。海外で権利を取っていなければ、公開情報をネットで見た外国企業に真似され放題になりかねません。その結果、外国製の安価なコピー品が市場を席巻し、日本での権利も意味をなさなくなる恐れがあります。「出さずに営業秘密として守るべきだった」というケースは実際によくあります。

 加藤 特許は申請費用が小さくないことから経営者の目にはコストに映りがちです。しかし、実際には将来利益を生む投資なのです。私は顧客に「脳の手術を受けるのに、見積もりを取って一番安い医者のところに行くのか」とたとえ話をし、知財は事業の命運に関わるものだと伝えてきました。品質の差は目に見えにくいですが、そこを疎かにしてはいけません。

 田中 特許、商標などの知財権は事業と結びついて、いわば「掛け算」で初めて価値が出ます。特許があっても事業価値がともなっていなければ価値はゼロです。また、優れた技術をもっていても、知財戦略がないままに大手と組めば、利益は全部持っていかれます。自社の技術の「どこを特許として出願し」「どこを営業秘密として渡さないか」「契約書はどうするか」についての総合的な戦略があって初めて、出し抜かれることなくWin-Winの関係が築けると思っています。

 加藤 私は30年携わるなかで、「開発する能力」と「事業化する能力」はまったくの別物だと実感しました。開発者は自身の技術への愛情から客観的に見られず、マーケットを軽視して無理に事業化しようとして多くは失敗します。だからこそ客観的な視点をもつパートナーが必要なのです。

 田中 商標についても事業と一緒に考えることが大事です。当然ですが、商標を取っただけで売れるようになったり、顧客認知度が上がったりするということはありません。顧客ロイヤリティを上げ、競争力を高め、それを固定化しさらに維持・発展させていくのが、商標の役割です。また、将来の事業展開の領域や国を考慮して、戦略的に権利を取得しておかないと、肝心な指定商品役務が抜けていたり、海外でのトラブルに対処できなかったりといったことが発生します。出願をオンラインで格安料金で対応する業者もいますが、ブランディングのチームとしての提案は単なる申請代行の業者には不可能です。

知財を武器にする時代に

 ──今後、九州でも半導体関連の申請が増えていくのでしょうか。

 田中 当事務所は九州半導体人材育成コンソーシアムのメンバーであり、九経局などで、営業秘密に関する支援のほか、スピーカーとしての活動も行っています。半導体には膨大なノウハウが詰まっており、特許を取るのは当然としても営業秘密の管理が極めて大事です。半導体関連の支援には、どこを特許として出し、どこを出さずに社内でどう管理するか、という複合的な戦略をセットで提案することが求められます。加藤先生の事務所と一緒になることで、まさにこうした支援をよりしっかりと行えるようになります。

 加藤 「うちは大企業の下請だから知財は関係ない」と言い続けてきた企業が、TSMCが進出してきて、(取引先の大企業から)「特許を取っているのか?」「知財関係をきちんとしてくれ」と言われて目覚めるケースを目にしています。

 田中 大企業の下請が特許を出すなんて生意気だといわれる時代もありましたが、今はガイドラインも出来て、下請企業から知財を一方的に取り上げてはならないというルールも整っています。中小企業が知財を武器にして、大企業と対等に付き合いながら自社のマーケットを広げることができる時代なのです。

 田中 福岡には実は工業都市としての側面もあり、ものづくりに強みをもつ企業が多くあります。特許活用の潜在的なニーズは今の何倍もあると思っています。

 加藤 発明好きの社長も多くいます。発明を単なる趣味で終わらせず、ビジネスにしてお金にしていかないと企業は続きません。

 ──知財活用について経営者が相談に行くのは、どういうタイミングが望ましいのでしょうか?

 田中 「知財」という言葉では、多くの中堅、中小企業には「うちには関係ない」となかなか届きません。私は常々「事業をより儲かるものに、長く儲け続けられるものにするためにできること」を話しましょう、と伝えています。「新しい商品を開発したい、海外に挑戦したい、新規事業を立ち上げたい」といったタイミングで来てもらうのが一番いいですね。「何ができるか、どんな可能性があるか」について、優先順位をつけて提案します。やるかどうかは顧客の判断ですが、いくつもの打ち手があることは認識していただけます。

 加藤 私は中小企業基盤整備機構で20年以上相談を受けてきましたが、相談にきた人は皆「来てよかった」と言ってくれます。何とかしようと一生懸命に聞いてきたからだと思うのです。そうした信頼の積み重ねが大事ですね。

 田中 弁護士と弁理士が同じ目線で経営戦略にコミットする。この体制で九州の企業をもっと元気にしていきたいですね。

【文・構成:茅野雅弘】

田中雅敏(右)、加藤久(左)

<COMPANY INFORMATION>
明倫国際法律事務所

代 表:田中雅敏
所在地:福岡市中央区天神1-6-8
設 立:2010年1月
Provia国際特許商標事務所
代 表:田中雅敏ほか1名
所在地:福岡市博多区博多駅前3-25-21
設 立:2025年11月


田中雅敏(たなか・まさとし)(右)
慶應義塾大学総合政策学部卒。1999年、弁護士登録。2001年、弁理士登録。10年に明倫国際法律事務所設立。企業法務や企業経営に関する幅広い知識と経験で、法律と経営の両面から、企業への総合的サービスを提供する。
加藤久(かとう・ひさし)(左)
佐賀大学理工学部卒。1978年福岡市役所入庁。90年、弁理士登録。94年に加藤合同国際特許事務所(旧・加藤特許事務所)を設立。早くから企業の知財活用支援に取り組む。2014年に知財功労賞 特許庁長官表彰を受賞した。

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