福岡にはびこる障害福祉「不正受給」の底知れぬ闇 税金を食い物に、口止め料供与や組織的隠蔽まで
拡大する障害福祉市場、低い参入障壁が不正の温床に
障害者の地域社会への移行や就労を支えるための障害福祉サービス。近年、その予算規模は過去10年で約2倍に膨張し、2025年度には約4兆3,000億円に達する。しかし、この潤沢な公金に群がり、制度を食い物にするモラルの低い事業者が後を絶たない。厚生労働省のデータによると、20年度から24年度の5年間に全国で判明した不正受給額は約80億円に上り、行政処分は936件に達した。
不正の背景にあるのは、参入障壁の圧倒的な低さだ。例えば高齢者向けの認知症グループホームなどでは運営者に実務経験や研修受講が義務付けられているが、障害福祉の多くのサービスでは具体的な要件がなく、資金さえあれば誰でも開業できる。
現場からは、こうした甘い制度設計に対する怒りと諦めの声が漏れる。
「いわゆる『反社』のうわさが絶えない人物が運営する事業所もあり、性善説に基づく参入障壁の甘さが不正受給の温床になっているのは間違いありません」(福岡市の福祉事業所運営者)
「ことのは事件」の衝撃、福岡で続く不正受給
とりわけ福岡は過去、全国を震撼させる不正事件を経験している。16年末に発覚した福岡市の「ことのは事件」だ。主導役らは無資格で利用計画を偽造し、活動実態が一切ないペーパーカンパニーの就労移行支援事業所を7カ所も乱造。書類上の要件さえ満たせば、行政の監査が入るまで公金を引き出し続けられるという制度の盲点を突き、約1.6億円を組織的に詐取した。
このトラウマとも言える事件を経て監視体制は強化されたはずだったが、現在も福岡県内の不正の火種は消えていない。むしろ、手口はより悪質かつ複合的になっている。
26年3月、福岡県は飯塚市の「ヘルパーステーション虹の華」に対し指定取消処分を下した。同事業所はサービスを提供していない生活保護受給者を標的に架空請求を繰り返しただけでなく、不正発覚を免れるため、当事者に「口止め料」として金銭を供与していた。社会的弱者の困窮につけ込む、対人援助職としてあるまじき手口であり、県は刑事告発も視野に入れている。
また、新規参入が相次ぐ障害児向けの「放課後等デイサービス」でも不正が蔓延している。福岡市の「くじらぐも」や「パークサイドアカデミー」などの事案では、人員基準を満たすための有資格者が不在である事実を隠蔽し、経営陣の直接的な指示のもと、組織ぐるみで虚偽の出勤簿を偽造していたことが監査で発覚した。北九州市でも、就労継続支援B型事業所による人員配置の偽装や利用日数の水増しによる不正請求が相次いで摘発されている。
SNS上には「給付金で億を稼ぐ」「利回り50%の福祉フランチャイズ」といった過激な広告が飛び交い、利益のみを追求する悪質業者の参入を煽っている。しかし、「景気に左右されない、不況に強いストックビジネス」などの甘言にのって参入した福祉の素人であるオーナーが、実際には利益が出ず、ノルマ達成のために架空請求や出勤簿の偽造、人員配置の偽装といった不正に手を染めることも全国で後を絶たない。
給付抑制では解決せず、必要なのは監査体制強化
さらに、近年は制度の「合法の境界(グレーゾーン)」を攻める手口も出現している。その象徴が、全国で約150億円の不正受給が認定された大阪の「絆ホールディングス」事件だ。同グループは、利用者を自社グループ内の企業へ形式的に就職させ、半年経過して「就労移行支援体制加算」という多額の報酬を得た直後に、再び元の事業所の利用者に引き戻すという「加算の循環錬金術」とも呼べる手法を組織的に繰り返していた。
なぜこうした不正が見過ごされるのか。厚労省が求める行政の実地監査は「3年に1度」だが、自治体の慢性的な人手不足により、現実には全国平均で「6〜10年に1度」しか行われていない。不正業者にとって、数年間は絶対にバレずに公金を吸い上げられるという強烈なインセンティブが働いているのだ。
事態を重く見た財務省は報酬の適正化(総費用の抑制)を強く主張している。しかし、給付費の一律削減に踏み切れば、真面目に支援と向き合っている良心的な事業者まで経営難に陥る。現に、要件が厳格化された直近の報酬改定後には、全国で300カ所近いA型事業所が閉鎖し、大量の障害者が解雇される事態も起きている。
真に必要な対策は、予算の一律カットではない。介護保険と同等レベルへの「参入ゲートの厳格化」と、AIなどを活用して異常な請求データを早期検知する「データ駆動型(DX)監査体制」の構築に投資することだ。障害者の尊厳と血税を食い物にするビジネスモデルは、一刻も早く根絶されなければならない。
データ・マックスでは18年の段階で、障害福祉事業が詐欺や不正の温床になりつつある危険性を指摘して早急な対策を求めていたが、その懸念が的中したかたちだ。
▼参考記事
『疑惑の代表者を徹底取材 障がい福祉をめぐる「黒いビジネスモデル」』(会員限定記事)
【石橋雅子】










