クマ問題を考える(後)キツネから見える野生動物の変化

福島自然環境研究室 千葉茂樹

 今回は、野生動物の生態の変化について、猪苗代の亀ヶ城址公園に住むキツネから考える。

亀ヶ城址公園のキツネ

 私は、11年の福島原発事故で猪苗代町に避難した。それ以降、居住している。亀ヶ城址公園は、毎日の散歩コースである。ここにキツネが住んでいる(画像06)。多分、私は三代のキツネに接している。一代目は、警戒心が強く、住んでいる証拠を残さないように生きていた。11年からの10年間は、姿をまったく見せなかった。また、個体数も増えなかった。しかし、25年・26年と毎年複数の子どもが生まれている。

画像06

家畜を食べられても対策をしないヒト

 キツネのヒトに対する警戒心が、どんどん薄れてきた。22年の秋、巣穴の周囲が真っ白になっていた。望遠レンズで撮影すると「ニワトリの羽根」だった。通常のキツネは、巣穴が分からないように気配を消す。このように「食い物の残骸」を巣穴の周りに残すことなどない。多分、人慣れし「こんなことをしてもヒトは気づかないだろう」と警戒心をなくしたのだと思う。この秋、このようなことが3回あった。ニワトリを食べて栄養状態が良くなったらしく、翌年、子どもが生まれた。二代目である。

 この二代目は、もっと警戒心がなくなり、日中に巣穴から出て外で遊んでいることもあった。私とも何度か遭遇し、慌てて逃げている。

 付け加えれば、短期間に3羽のニワトリを盗られても対策をしないヒトに、私は疑問を感じる。何で連続3回も許すのか。

ヒトを恐れなくなったキツネ

 25年春、三代目が生まれた。こちらはもっと警戒心がなく、日中も巣穴の外で遊んでいる。「私はここに住んでいます」とあからさまに主張している。ヒトもヒトで、公園内の舗装道路の脇約10mで、キツネが飛び跳ねてもまったく気がつかない。私が飛び跳ねるキツネの写真を撮っていたら、通行人から「何かいるんですか」と聞かれた。ヒトは何も気が付かないのである。

 現在、私が知っているキツネの巣は3カ所である。このなかで、個体数が多い巣は、道路脇約8mにある。昨年秋から、巣の増築が進み、穴の数が増している。また、警戒心が薄いらしく、巣穴の前で昼寝をしている(画像07)。

画像07

独立しない子ギツネ

 通常の野生動物は成獣(おとな)になると、親から独立する。ところが、このキツネは成獣になっても親と同居している。二代目と三代目は、「ヒトに近い巣穴」に一緒に住んでいる。昨秋から、この巣穴をさらに増築している。最近も出入りの穴が増えた。

 私が推測するに、ヒトの近くで「エサが大量に確保」できる。このため、エサ不足にならず、数世代が一緒に生活できるのであろう。

廃屋に住み着く

 今年1月に一晩で約40cmの積雪があった。次の日、亀ヶ城址公園を散歩していると、巣穴からキツネの足跡が一筋続いていた。たどっていくと放置された人家に消えていた。

 この家は18年頃まで人が住んでいたが、その後、人の気配はなくなった。年ごとに傷んでいき、今はプラスチックの囲いが壊れている。

 キツネは、大雪の日に巣穴から出てこの家に泊ったとみられる。廃屋を放置すれば、野生動物の住みかとなる。

26年生まれの子ギツネ

 この原稿の仕上げをしていた5月5日、子ギツネに出会った。今年は3匹生まれたようである。私がハルリンドウの撮影をしていると、巣から出て私を観察していた(距離約4m)。私に慣れると、徐々に警戒心がなくなった(画像08)。サムネイル画像は、子ギツネが私を見つけ「私を観察」中のもので、眼光が鋭い。画像08は、私に慣れて警戒心が薄れた姿である。

画像08

その1~3のまとめ

 根本原因を取り除かない限り、今後も野生動物の都市部への進出は続くであろう。要するに、放置された里山・山里を開拓前の状態に戻さない限り、この問題は解決しない。これは、25年・26年と連続した「岩手県の大規模林野火災」と共通する。大船渡の林野火災については、昨年こちらに書いた(リンク1)。

 「目先のこと」「対症療法」しかしないヒトに大問題がある。私は、こちら(リンク2)に書いたように、昔の屯田兵制度(リンク3)類似の制度にするしかないと考えている。ボランティアや財政の貧弱な田舎町役場では、無理である。

 具体的には、
①里山の杉を切り、広葉樹の林に戻す。
②山里の畑は、残存野菜を取り除き、果樹は切り倒す。
③廃屋は、壊して更地にする。
④都市部に住み着いた野生動物は駆除する。

 杉林では、野生動物の食べ物を生み出さない。山肌には杉の枝葉が蓄積し、林野火災の元凶(樹脂が多く、燃えやすい)となる。広葉樹であれば野生動物の食料になるし、杉のように林野火災の元凶とはなりにくい。

 山里の畑を残すと、野生動物のエサとなる。かつ、野菜や果物は栄養価が高いので、「個体数増加」につながる。都市部の生ごみも同様である。

 廃屋を放置すれば、野生動物の住みかとなる。個体数増加の原因になる。クマでいえば「冬眠しないクマ」の隠れ家となる。
 都市部の野生動物は、「ヒトの近くにはおいしい食べ物がある」「ヒトは恐れるに足らない」と学習してしまった。これらは、捕獲して処分するしかない。ただし、原稿に書かなかったが、都市部には「アライグマ」「ハクビシン」などの動物の問題もあり、根絶するには大変な労力がかかる。

 付け加えるならば、「何で大問題になるまで放置したのか」と思う。現代の問題、たとえば「下水道の老朽化」の問題にせよ、00年頃から問題が指摘されていた。見て見ぬふりをしてきた行政に問題がある。これからも、同様の問題が次々に出てくるであろう。

 将来を見据えた対策が必要である。「問題は小さいうちに対応」しないと解決が難しくなる。放置すれば、この原稿の「野生動物問題」や「下水道の老朽化問題」のように大問題となる。

 住民の目線から書く。行政は、上記の例のように、問題が発生しないと対応しないし、起きてもなかなか動かない。住民は、「問題である」「問題が起きそう」と思ったら、行政や警察に連絡し、問題を指摘しなければならない。放置すれば、将来的に自分に問題が降りかかる。

(了)


<プロフィール>
千葉茂樹
(ちば・しげき)
千葉茂樹氏(福島自然環境研究室)福島自然環境研究室代表。1958年生まれ、岩手県一関市出身、福島県猪苗代町在住。専門は火山地質学。2011年の福島原発事故発生により放射性物質汚染の調査を開始。11年、原子力災害現地対策本部アドバイザー。23年、環境放射能除染学会功労賞。論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
原発事故関係の論⽂
磐梯⼭関係の論⽂
ほか、「富士山、可視北端の福島県からの姿」など論文多数。

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