NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、5月8日付の記事を紹介する。
高市首相はこの5月、ベトナムを訪問し、両国間の協力を、従来のインフラ整備中心から「経済安全保障(エネルギー、重要鉱物、AI、半導体など)」の分野へ拡大することを目指しました。
ベトナムには多くの日本企業が進出しており、石油を原料とする人工透析用チューブや採血針などの重要な医療機器を生産・日本へ輸出しています。日本がベトナム国内の製油所による原油調達を金融支援することで、ベトナムはこれらの石油由来製品を今後も日本へ安定的に供給し続けることに合意。その結果、中東情勢の緊迫化などで原油調達が困難になった場合でも、日本国内での医療物資の不足を防ぐ道が開かれることになります。
他にも高市政権が打ち出した総額約100億ドルのエネルギー支援枠組み「POWERR Asia」の初の適用案件となるギソン製油所への原油調達支援で一致。また、ベトナムにあるレアアースなどの重要鉱物資源についても、中国への過度な依存を避けるための供給網強化での連携が確認。
しかし、懸案事項も明らかになってきました。実は、ベトナムにおける原発計画(ニントゥアン2)については、日本側が2025年12月に正式な撤退(優先的パートナーからの離脱)を表明しています。
最大の理由は時間軸の乖離で、ベトナム側は電力不足解消のため、2030〜31年の稼働開始という極めてタイトなスケジュールを求めました。これに対し、日本側は安全基準の厳格化や人材不足から、早くとも2036〜40年頃になると回答し、折り合いがつかなかったのです。
福島第一原発事故後、安全対策コストが跳ね上がり、採算性の確保が難しくなったことも要因でしょう。かつて日本は「優先交渉先」でしたが、様々な理由からプロジェクトの実施は困難と判断せざるを得なかったものと思われます。そのため、今回の高市首相の訪問では、原発計画の復活よりも、「石油・医療物資の安定供給」や「経済安全保障」を軸とした新たな協力関係へ舵を切ったわけです。とはいえ、大規模原発からは撤退したものの、日本政府は小型モジュール炉(SMR)など、次世代技術を活用した将来的な協力については含みを残しています。
日本の離脱を受け、本年3月、ベトナムはロシアとの間で原発建設に向けた協定に署名し、韓国、フランス、アメリカなども新たなパートナー候補として浮上中です。 その一方で、高市首相のベトナム訪問では、ガソリンバイク規制問題が主要な議題の一つとして提起され、規制の一部緩和という成果を得ました。
同国の二輪市場で8割のシェアを誇るホンダにとって、この規制は死活問題です。2026年7月からのハノイ中心部での規制方針が発表されて以降、消費者の買い控えが発生し、シェア低下のリスクが懸念されていました。ホンダは規制対応として、来る6月に新型電動二輪「Honda UC3」を投入するなど、戦略の急激な転換を余儀なくされています。
日本政府やメーカー側は、急激な規制が販売店や部品メーカーなど、関連産業における数十万人規模の雇用喪失や倒産リスクを招くと強く警告してきました。高市首相はこの問題について「業界の混乱と雇用への影響」を懸念事項として提起し、「唐突な政策変更が市民生活と日系企業の投資意欲を阻害する」として、段階的な移行期間(2〜3年)の確保を求めたのです。
その効果は抜群で、ベトナム側(ハノイ市当局)はこれまでの「全面禁止」の方針を改め、規制案を緩和する検討に入りました。当初計画されていた広いエリアでの全面禁止ではなく、対象エリアを大幅に縮小し、かつ「週末のみ」や「特定の時間帯のみ」の試験的な導入にとどめる方向が調整中。
ベトナムが柔軟な姿勢を見せた背景には、大気汚染対策という大義名分はあるものの、代替交通手段の地下鉄やバスの整備不足や、主要投資国である日本からの強い要請を無視できないという現実的な判断が働いたに違いありません。
ベトナムの二輪車市場では、ホンダが長年シェア65%を維持する「絶対王者」ですが、電動バイク分野では地場のビンファストが圧倒的な存在感を見せています。2025年の販売データでは、ビンファストの電動バイク販売台数は40万台に達し、前年比で5倍増という驚異的な成長を記録。これにより、同社はヤマハを抜き、業界全体で第2位のシェアを確立したのです。
ホンダの市場全体でのシェアは依然として高いものの、電動バイク市場に限るとシェアは1.4%にとどまっています。ホンダは2025年以降、新型EVバイクを投入し巻き返しを図っていますが、先行するビンファストとの差は依然として大きい状況です。他方、ビンファストの強みは生産能力にあり、2026年までに年産300万台規模(現在の6倍)に引き上げる大胆な増産計画を進めています。
また、全土に広がる独自の充電・バッテリー交換ネットワークを構築しており、これが購入の決定打となっている模様です。価格戦略も影響しており、車両価格の10%割引や登録料の免除、さらには購入資金の最大80〜90%を無利子で融資する大規模な支援策を打ち出しています。
いずれにしても、高市首相の訪問により、ハノイ当局は「公共交通機関の未整備」や「日系サプライヤーへの打撃」という現実的な課題を再認識し、規制範囲の大幅な縮小と段階的なロードマップの提示に応じる形となりました。これにより、本格的な勝負はこれからですが、日系メーカーにとっては電動化への移行期間を確保するという一定の成果が得られたといえます。
著者:浜田和幸
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