【業界を読む】九州の私立大学、学生動向【福岡編】 総量で定員超過も、内側で進む二極化

 財務省が私立大学の規模適正化を求めるなか、福岡県内の私学は2025年度実績で全体として定員を上回った。しかし、内訳を見ると4年制大学は底堅い一方、短期大学や女子大、小規模校では再編圧力が強まる。福岡の実態から、少子化時代の私大再編の行方を探る。

財務省が示した
私大削減論の衝撃

 4月、財務省の財政制度等審議会は、2040年までに大学数250校程度、学部定員18万人程度の縮減が必要との考えを示した。背景には、少子化による大学定員と18歳人口の不均衡がある。近年、私大の定員未充足は拡大してきた。23年度、入学定員を満たせなかった私立大学は320校となり、全体の53.3%に達した。短期大学では、定員未充足校が254校で、全体の92.0%に上った。

 ただし、学生が集まらない状況は一様ではない。大規模校や都市部の大学、医療・看護・情報・工学など進路が見えやすい分野に学生が集まる一方、小規模校、地方校、短大、人文・生活系の一部では未充足が目立つ。

 学生を十分に集められない大学は、私学助成金などの補助金に対する依存を強め、助成額を維持するための運営方針の決定という、教育機関の在り方を歪め、教育の質を落とす事態にもつながっている。財務省の削減論はそのような状況を問題視し、人口減少と財政制約を背景に、大学数や定員規模の適正化を求めるものだ。

これまでの私大淘汰論
問題の先送りも限界に

 ただし、私大淘汰論は今回初めて語られたものではない。1990年代以降、18歳人口の減少に合わせて、「大学冬の時代」「大学全入時代」といった言葉が登場し、私立大学の淘汰論は繰り返されてきた。

 92年に18歳人口がピークを迎え、それ以降減少していくことは、80年代から予見されていた。実際に92年以降、18歳人口は減少を始めたが、高卒者の大学進学率が上昇を続けたため、大学進学者数の減少はしばらく抑えられた。

 2000年代に入ると、大学や学部の新設手続きが弾力化され、大学・学部新設のハードルは相対的に下がった。1992年から2006年までに、大学新設や短期大学から4年制大学への移行も含め、180校以上の大学が増えたとされる。

 大学の増加は、大学入学の門戸を広げた。入試は一般入試中心から、推薦入試、AO入試、総合型選抜へと多様化した。教育分野も、福祉、心理、看護、情報、国際、観光、こども、地方創生など、その時々の需要がありそうな学部・学科へ改組が進められた。各大学は、学部名や入試制度を変えながら学生確保を進めてきた。

 08年には福田政権が「留学生30万人計画」を策定した。日本の大学の国際化や高度人材の受け入れを掲げ、外国人留学生の拡充が進められた。11年の東日本大震災で一時16万人台まで減少した外国人留学生数(日本語学校を含む)は、19年に31万人を突破した。コロナ禍で減少したものの、24年度には33万人を超えた。

 近年も大学側は、情報、データサイエンスなどの成長分野への学部改組や新設を続けている。しかし、21年度には私立大学全体の入学定員充足率が初めて100%を下回り、その後も定員未充足校は高水準で推移している。進学率の上昇、学部改組、入試方式の多様化、留学生受け入れなどで保たれてきた学生確保は、限界に近づいている。

福岡・九州の全私立大学
25年度の学生数を調査

 では、九州にある各私立大学の学生確保の状況はどうなっているのか。最新の26年度入学者数などは、まだ公開していない大学が多い。そのため、今回は25年度の入学者数と入学定員、在籍者数と収容定員のデータを収集した。そのうえで、まず福岡県の私立大学を取り上げる。【表】は、福岡県内にキャンパスを置く私立大学・短期大学の一覧だ。大学院、専攻科、通信制大学は除き、県外本部大学の福岡県内学部を含めている。

表

福岡私学は総量で
なお定員を上回る

 福岡県内では、福岡市、北九州市、久留米市、太宰府市などに私立大学・短期大学が集中し、県内だけでなく九州各県から学生を集めてきた。福岡県内所在の私立大学・短大、県外本部大学の県内学部のうち、25年度実績を確認できた対象を集計すると、入学定員は2万3,062人、入学者数は2万3,809人で、入学者数は定員を747人上回った。入学者充足率は103.2%である。在籍者数でも、収容定員8万9,469人に対し、在籍者数は8万9,971人となり、全体では定員を502人上回った。収容定員充足率は100.6%である。

 一部の大学は学生数の減少に応じて定員を削減し、充足率の底上げを行ってきたとはいえ、この数字だけを見ると、福岡県内の私学市場は崩れておらず、「学生が足りない」といえる状況ではない。福岡県は九州のなかで依然として学生を吸収する力をもつ地域だ。

 福岡県内の私学が抱える問題は、県全体の定員充足ではなく、大学・短大、分野、地域、学校規模による差の拡大にある。

4年制大学は底堅く
短大の厳しさ鮮明

 4年制大学・学部に限ると、25年度の入学定員は2万372人、入学者数は2万1,737人だった。入学者は定員を1,365人上回り、入学者充足率は106.7%となる。在籍者数でも、収容定員8万3,389人に対し、在籍者数は8万5,486人で、収容定員充足率は102.5%である。

 一方、短期大学は対照的だ。短大17校の25年度入学定員は2,690人、入学者数は2,072人にとどまり、入学者充足率は77.0%だった。在籍者数も、収容定員6,080人に対し4,485人で、収容定員充足率は73.8%にとどまる。4年制大学は全体として定員を上回る一方、短大では定員未充足が広がっている。

 かつて短大は、保育、栄養、生活、英語、教養、ビジネスなどの分野で、地域の女性の進学先として大きな役割をはたしてきた。しかし、4年制大学志向の高まりを背景に、2年制というモデルでの学生確保は厳しくなっている。福岡女学院大学短期大学部、西南女学院大学短期大学部、純真短期大学はいずれも25年度から学生募集を停止した。福岡工業大学短期大学部も27年度以降の学生募集停止を予定しており、4年制のデジタルメディア学部への発展的改組を構想している。

学生が集中するのは
大規模校・専門職系

 一方、4年制大学のなかでも、学生を集める大学ははっきりしている。福岡大学は25年度入学定員4,420人に対し入学者4,961人、九州産業大学は2,530人に対し2,664人、西南学院大学は1,955人に対し2,025人、久留米大学は1,518人に対し1,849人となった。福岡工業大学も940人に対し1,128人と、定員を大きく上回る。大規模校、都市型大学、就職実績のある大学に学生が集まる傾向は明確だ。

 医療・看護系も堅調だ。福岡看護大学、福岡女学院看護大学、日本赤十字九州国際看護大学、福岡国際医療福祉大学、産業医科大学などは、資格取得や専門職への接続が明確であり、進学後の出口が見えやすい。なお、25年度集計対象外だが、26年度に新規開学した西日本看護医療大学も、初年度は定員を上回る入学者数を確保した。

 情報・工業系にも強さがある。福岡工業大学、九州産業大学、九州情報大学、西日本工業大学、近畿大学産業理工学部などは、DX、情報、工学、建築、製造業人材の需要を背景に学生を集めている。ただし、工業系が一律に強いわけではない。西日本工業大学は在籍者ベースで一定規模を維持しているが、25年度入学者数は282人で、入学定員350人を下回った。久留米工業大学も入学定員340人に対し、入学者262人だった。

 背景には、大学ブランド、学科構成、就職実績、通学圏の人口規模などが複合的に影響しているとみられる。成長分野でも、分野名だけで学生が集まるわけではない。地域での認知度、就職先との接続、施設設備、カリキュラムの魅力が問われている。

女子大・短大に
強まる再編圧力

 再編圧力が強いのは、短大、女子大、小規模校、伝統的な人文・生活系の一部である。筑紫女学園大学は27年度に学部再編と定員縮小を予定している。西南女学院大学では、短期大学部が募集停止となったうえ、大学本体でも一部学科の募集停止が公表されている。福岡女学院大学短期大学部も募集停止に入っている。

 もっとも、女子教育機関が一律に弱いわけではない。先述の福岡女学院看護大学は定員を上回っている。伝統的な人文、生活、英語、短大モデルが弱くなる一方、看護、医療、教育、資格系など、職業接続が明確な分野はなお強いことを示している。

 短大についても、すべてが同じ状況にあるわけではない。中村学園大学短期大学部、九州産業大学造形短期大学部、折尾愛真短期大学、福岡医療短期大学などは、25年度入学者数が定員を上回るか、一定水準を維持している。短大市場全体は縮小しているが、専門性や職業接続を明確にできる短大が、今後も一定の需要を確保できるのかが注目される。

求められる
教育機能の転換

 今後問われるのは、どの大学を残すかではなく、地域に必要な教育機能をどう残し、どの分野へ学生と資源を再配置するかである。福岡県内私学は、総量ではなお定員を上回っている。しかし、その内側では、4年制大学と短大、大規模校と小規模校、都市部と周辺地域、専門職系と伝統的人文・生活系の差が広がっている。福岡県内私学の実態は、少子化時代の大学再編が「淘汰」だけでなく、「機能転換」として進むことを示している。

 ただし、福岡は九州のなかではなお学生を集める側の地域である。より深刻なのは、福岡ほどの人口集積をもたない県で、どの大学・短大が地域人材の供給機能を維持できるかという問題だ。次回は、福岡県以外の九州各県について、25年度の入学者数と在籍者数から、私学再編圧力の広がりを見ていく。

【寺村朋輝】

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