NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、7月3日付の記事を紹介する。
高市首相は7月1日から3日の日程でインドを訪問し、モディ首相との首脳会談に臨みました。世界最大の15億もの人口を擁するインドの躍進には目覚ましいものがあり、そうした大国を率いるモディ首相の力量には世界が注目しています。
「チャンドラヤーン3号」と命名されたロケットは月面着陸に成功し、これはアメリカ、ロシア、中国に次ぐ快挙です。インドが目を向けているのは月に限らず、モディ首相はインド国内のインフラ整備にも並々ならぬ意欲を見せています。とはいえ、インドでは自然災害や列車の衝突事故が頻発しているようです。
2030年を目標に、国内1,200の駅に自然エネルギーによる発電設備を完備するとのこと。こうした鉄道の改良工事と自然再生エネルギーへの転換によって、新たに110万人の雇用を生み出すと豪語するのがモディ首相です。
そんな強気のモディ首相は大の「日本びいき」で知られています。モディ氏が首相に就任する前のグジャラート州首相時代から、安倍元首相は彼を国賓級で日本に迎え、類を見ない信頼関係を築きました。安倍氏が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」戦略や日米豪印の枠組み「Quad」の価値観をモディ氏は完全に共有しています。
幸いなことに、インドと日本の間には、中国や韓国などのような歴史認識問題や領土紛争が一切存在しません。更に言えば、中国の軍事・経済的な「膨張主義」に対抗するため、インドにとって日本は安全保障上、最も利害が一致する「同盟国」です。
モディ首相は「日本には高度な技術と余剰資金があり、インドには膨大な若手人材と巨大な市場がある」と公言し、日本との関係強化に力を注いでいます。インドの悲願である新幹線プロジェクトや都市部の地下鉄、クリーンエネルギーの導入には日本の「円借款」と「インフラ技術」が絶対に欠かせないためです。
現在の両首脳の政治的相性は、タカ派・保守主義のイデオロギーという面で非常に親和性が高い反面、多極化外交の現場では温度差も見られます。中国の覇権主義に対して厳しい姿勢をとる高市氏の国防観は、国境地帯で中国と睨み合うモディ首相にとって非常に心強いものと受け止められているようです。
一方で、モディ首相は「グローバルサウス」の盟主であり、アメリカの意向に100%従うわけではなく、ロシアや中国主導のBRICSとも実利で繋がる「全方位・多極化外交」を展開しています。G7の価値観や対中・対ロ包囲網を強く前面に押し出す高市首相に対し、モディ首相は経済の実利を優先して「過度な陣営の二分化」を避けたがる傾向が見られます。
さて、日本企業によるインド投資は、単なる「工場の海外移転」を超え、「中国に代わる世界最大の製造・消費拠点」としての巨額投資へと完全にシフト中です。2025年末から2026年現在にかけて、日本企業のインドへの直接投資は過去最大規模を記録。例えば、日本製鉄は2025年12月に発表した「2030中長期計画」で、史上初めて海外投資(4兆円)が国内投資を上回る方針を決定し、その中核として、インド南部に700万トン規模の一貫製鉄所の新設用地を取得し、現地の自動車・建材需要の爆発的増加を取り込む事業を展開中です。
また、インドの国民車シェアの約半分を握るマルチ・スズキは、EV工場や車載電池工場の建設に数千億円を投入し、ダイキン工業もエアコン市場でトップシェアを固めるなど、製造業の「脱・中国」の最大の受け皿になっています。
インドが2027〜2028年頃に日本やドイツを抜いて「世界第3位の経済大国」になることが確実視されるなか、日本政府が掲げた「5年で5兆円の官民投融資目標」の達成に向け、半導体、ロボット、洋上風力などのグリーンエネルギー分野への投資がさらに加速する見通しです。
実は、新幹線プロジェクトにおける「土地買収の遅れ」や、インド独自の複雑な労務・雇用問題、法制度の突然の変更等、日本企業にとってはリスクも残っています。今回の高市首相の訪印でも、こうしたビジネス環境の更なる透明化や、防衛装備品の共同開発といった安全保障関係の格上げがどこまで進むかが大きな焦点です。加えて、インドはインド亜大陸初となるオリンピックを2036年に誘致しようと積極的に動き始めています。
そのためにも新幹線が象徴する交通インフラの整備は必須条件で、車両製造を担う日立製作所や川崎重工業、インフラ建設にかかわる大林組や清水建設など日本企業も受注拡大を目指していることは間違いありません。
インドという世界最大の市場を日本の誇るインフラ技術でこれまで以上に発展させようという動きに期待は膨らむ一方です。その意味でも、モディ首相の存在は日本にとって得難い「お宝」と言っても過言ではありません。
著者:浜田和幸
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