国際未来科学研究所
代表 浜田和幸 氏
モディ首相は「強いインド」政策を掲げ、経済、外交、軍事面での富国強兵ぶりを見せています。とくに、軍事面での躍進は目覚ましく、核開発はもとより国産の空母を就役させるなど、アメリカ、中国に次ぐ世界第3位の軍事大国にも王手をかけているではありませんか。インドは「グローバル・サウス」を代表するBRICSの中心国ですが、安全保障面では日米豪と連携する「クアッド」にも加わり、「自由で開かれたインド太平洋」構想を推進しています。この動きは明らかに隣国の中国を抑止することを念頭に置いたものです。
米国にも距離を置くインドの自主外交
モディ首相の対米姿勢はどのようなものかというと、「アメリカの理不尽な高関税には断固反対する」と明確に主張し、「売られたケンカは買う」との姿勢を打ち出しています。自国民に対しては「アメリカ産の物品ではなく、インド産の商品を買おう」といったキャンペーンを展開。日本の政財界のリーダーには大の親日家でもあるこのようなモディ首相とのコミュニケーションをもっと積極的に図ってほしいものです。
よく知られているように、インドにはカースト制度の残滓もあるうえ、官僚主義の弊害や投資に関する法的整備の遅れなど、課題はいろいろあります。とはいえ、これからの世界をインドがけん引することは間違いないでしょう。かつての超大国アメリカは世界的な課題はもちろん、国内の分裂、分断にも対応ができなくなり、インドや日本などからの協力や支援がなければ国家破綻もあり得るという衝撃的な未来が間近に迫っているわけです。
しかし、トランプ大統領は自分こそが神から「アメリカを再び偉大な国に復活させる使命を与えられている」と、勝手に都合よく解釈し、世界を相手に関税砲をぶっ放しているだけなのです。今こそ、日本は新興国をけん引するインドと連携し、新たな国際秩序づくりに舵を切るべきと思います。
人口、経済、宇宙開発で
広がるインドの存在感
そんなインドですが、このところ大洪水による被害が深刻化しています。以前から水害に見舞われることが多かったのですが、最近では温暖化の影響で、雨量が急増し、各地で河川の氾濫が発生することになりました。現地では「空飛ぶ川現象」と呼ばれる有り様です。
とはいえ、世界最大の人口大国になったインドは、水害をものともせず、IT産業を中心に世界的な影響力の拡大に邁進しています。日本では報道されていませんが、昨年7月28日にサンクトペテルブルクで実施された「ロシア海軍記念日」の式典にはインド海軍のステルス・フリゲート艦が参加し、ロシアとインドの軍事的緊密さをアピールしました。しかも、ロシアとインドの貿易額は驚異的に伸びており、ルピーとルーブルでの決済が定着。
現在の660億ドルの貿易額を2030年までには1,000億ドルに拡大すると両国政府は確認し合っています。インドの国内経済は順調で、24年のGDPの成長率は8%で、通貨ルピーも安定し、財政も健全化が見られるため、欧米からの投資も拡大中なのです。
インドの人口は63年には17億人を突破することが確実視されています。インドで最も人口の多いのは首都のニューデリーで、3,000万人を超えて増加中です。しかも、インドの特徴は若年層の大きさに他なりません。中国では人口の15%弱が65歳以上で、この比率は年々増加しています。こうした人口動態の違いがインドと中国の間には横たわっていることにも注目すべきでしょう。
最近のインドの技術的躍進を象徴しているのが、月面探査機の打ち上げです。「チャンドラヤーン3号」と命名されたロケットは月面着陸に成功。これまで月面到着を成し遂げたのはアメリカ、ロシア、中国ですから、インドは4番目となります。
また、モディ首相はインド国内のインフラ整備にも並々ならぬ意欲を見せています。インドでは自然災害や列車の衝突事故が頻発しているのですが、30年を目標に、国内1,200の駅に自然エネルギーによる発電設備を完備するとのこと。こうした鉄道の改良工事と自然再生エネルギーへの転換によって新たに110万人の雇用を生み出すと豪語するのがモディ首相です。宇宙と地上に「Made in India」を拡大しようとの構想に他なりません。日本はインド版新幹線の建設に協力していますが、さらなる拡張計画も進んでいます。
水問題こそ日印協力の主戦場
一方、「聖なる大河」と称されるガンジス川ですが、1300年に一度といわれるほどの干上がりを見せており、インドにとっては懸念材料となっています。何しろインドでは「毎日の水汲みから解放されるのが夢」という貧しい国民が数えきれません。そのため、水をタンクで運ぶ「タンカー・マフィア」と呼ばれる悪徳業者も後を絶たない有り様です。残念ながら、モディ首相の「誰にも水を」という公約はいまだ実現されていません。まずはこの水問題の改善、解決に協力することが日本には望まれます。
なぜなら、日本には海水の淡水化、汚染水の浄化、水道管の敷設、維持など、さまざまな水関連の技術の蓄積があるからです。今こそモディ首相のインド超大国化に一肌脱ごうではありませんか。日本とインドが協力すれば、「グローバル・サウス」が世界をより良い方向に変えることができるはず。高市首相にはトランプ大統領の胸に飛び込むのではなく、モディ首相とヨガを通じて、柔軟な精神と肉体を確保したうえで、手を携えグローバル・サウスのリーダーとして世界をけん引してほしいものです。
(了)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。








