福岡市税収4,000億円時代 成長の果実は誰に届くのか

新たな段階に入った福岡市の税収構造

 福岡市は8日、2025年度の市税収入の決算見込みについて、前年度比8.7%増の4,172億6,200万円になったと発表した。市税収入が4,000億円を超えるのは初めてで、過去最高の更新は4年連続となる。

 増収要因としては、人口増加、地価上昇、都心部でのオフィスビルやマンションの新増築、企業収益の改善、宿泊需要の拡大などが挙げられる。これらの要因には、「成長都市」としての福岡市の現在地がよく表れている。しかしその成長は裏を返せば、住宅価格の高騰、都心集中、都市インフラへの負荷をともなう観光需要の拡大と表裏一体でもある。税収4,000億円時代の福岡市に問われているのは、都市の成長を市民生活の質へどう転換するかという都市経営の力だ。

【表】福岡市 主要市税収入の推移

個人市民税の伸びは人の集まりとしての都市成長を表す

 今回の増収額でもっとも大きな柱となったのが個人市民税だ。25年度の個人市民税は1,572億9,300万円で、前年度比13.7%増、増収額は189億3,700万円に上った。

 福岡市は、納税義務者数の増加などを要因として挙げている。たしかに、人口増加や働く人の増加が、税収面でも市の財政を支えていることは間違いない。ただし、今回の個人市民税の増収には、前年度に実施された定額減税の反動も含まれている。福岡市によれば、その影響額は約90億円とされ、これを除いた増収率は概ね7%前後とみられる。

 定額減税の反動を除いても、22年度や23年度と比べれば高い伸びであり、人口増や納税義務者数の増加が税収を押し上げる構図は続いている。福岡市が「人が集まる都市」として、転入者や若年層、子育て世帯、都市型サービス業で働く人々を引きつけ、市財政の基盤を厚くしている構図が見える。

 問題は、その人たちが長く住み続けられる都市であり続けられるかどうかだ。住宅費、交通混雑、保育・教育環境、医療・福祉、通勤負担、地域コミュニティの維持。個人市民税の伸びは、人口増の成果であると同時に、人口増にともなう都市課題への対応を迫る数字でもある。

固定資産税・都市計画税が映す都市開発の成果と負担

 もう1つの大きな柱が、固定資産税と都市計画税だ。両税を合わせた収入は1,864億300万円となり、前年度から112億800万円、6.4%増加した。

 福岡市によると、地価の上昇や新増築家屋の影響などが増収要因となった。天神ビッグバン、博多コネクティッド、ウォーターフロント地区の開発、都心部や周辺部で進むマンション建設など、近年の都市開発が税源の拡大につながっている構図が見える。

 これは、福岡市が進めてきた都市政策の1つの成果といえる。容積率緩和や建て替え促進によって民間投資を呼び込み、老朽ビルを更新し、床面積と資産価値を高める。その結果として、固定資産税や都市計画税という安定的な税収が増える。つまり、再開発は単なる街並みの更新ではなく、市財政の側から見れば、民間投資を安定的な税源へ変える仕組みとして、一定の成果が表れたかたちだ。

 ただし、固定資産税の伸びは、地価や不動産価格の上昇と表裏一体であり、その増収は土地所有者や事業者にとっては負担増でもある。さらに、地価上昇は家賃や住宅価格にも波及する。若年層や子育て世帯、個人事業主、小規模店舗にとって、成長都市・福岡の魅力は、同時に住み続ける難しさ、商売を続ける難しさにもつながりかねない。

 福岡市の固定資産税増収に表れた「都市の価値」の上昇が、市民の暮らしや地域経済の持続性にどう影響しているのか、今後、中長期的な視点で見ていく必要があるだろう。

法人市民税455億円、問われる「稼ぐ都市」への進化

 法人市民税は455億8,600万円となり、前年度比6.6%増となった。増収額は28億1,700万円である。法人市民税は企業収益の動向を反映しやすい税目であり、市内経済の勢いを見るうえで重要な指標となる。福岡市の法人市民税は、23年度の353億円から24年度に427億円へと21.1%増の大幅な増収となり、25年度もさらに6.6%増となった。

 福岡市は長く、支店経済の都市といわれてきた。九州の管理拠点、営業拠点、商業都市としての性格が強く、本社機能や製造業の厚みでは、東京、大阪、名古屋、さらには北九州とも異なる成長を遂げてきた。だが、近年は、不動産、建設、物流、観光、ホテル、飲食、IT、専門サービスなど、都市型産業の集積が進んでいる。法人市民税が直近2年で水準を切り上げていることは、福岡市が単に「人が増える都市」ではなく、「企業が利益を上げる都市」へ移りつつある可能性をうかがわせる。

 人口増と不動産開発だけに依存する都市は、地価や住宅価格の上昇が限界に達したとき、成長の踊り場を迎える。そこで問われるのは、市内企業がどれだけ付加価値を生み、利益を上げ、雇用を生み出しているかである。法人市民税の増加は、そうした企業活動の厚みが増している可能性を示す一方、景気や企業業績に左右されやすい面もある。今後も高い水準を維持し、「住む都市」「集まる都市」から「稼ぐ都市」へ進化できるか。法人市民税は、その重要な指標として注目される。

宿泊税34億円、観光が生む外部財源

 もう1つ注目したいのが宿泊税である。宿泊税は34億2,800万円で、前年度比7.0%増となった。2020年度の導入以降、5年連続で過去最高を更新した。市税全体から見れば、宿泊税の規模は大きくないが、域外から流入する需要を市の財源に変える点で意味は大きい。

 個人市民税や固定資産税は、主に市民や市内事業者が負担する。一方、宿泊税は観光客や出張者など、市外から福岡を訪れる人々の消費に課税する財源である。言い換えれば、福岡市が外部需要を取り込み、それを市の財源に変えているということだ。

 福岡空港、博多港、博多駅、天神、中洲、ウォーターフロントを抱える福岡市は、九州の玄関口である。インバウンドの回復、国内観光、MICE、ビジネス出張、イベント需要が重なれば、宿泊需要はさらに拡大する可能性がある。

 ただし、観光需要の拡大は、都市に負荷も与える。都心部の混雑、交通負担、清掃・治安対応、宿泊施設周辺の生活環境、観光地と住宅地の摩擦などである。

 宿泊税は、こうした負荷への対応に使われてこそ意味をもつ。観光客から得た財源を、観光振興だけでなく、市民生活の快適性、交通利便性、街の清潔さ、安全性、地域回遊の向上へどう還元するかが問われる。観光都市として成長する福岡市にとって、宿泊税は単なる税収項目ではない。外から人を呼び込み、その経済効果を市民生活へ戻す循環をつくれるかどうかを示す指標である。

増収局面に入った福岡市の課題

 福岡市の税収増は、人口増、再開発、企業活動、観光需要という複数の成長要因が重なった結果であり、その意味で今回の4,000億円超えは、福岡市が成長都市としての地位を強めたことを示す節目である。

 ただし、税収が増える都市が、必ずしも暮らしやすい都市になるとは限らない。むしろ、成長する都市ほど、住宅費の上昇、交通混雑、地域間格差、生活コストの増加、都心と周辺部の温度差といった課題を抱えやすい。

 福岡市の税収増は、市にとっての余力を広げる。一方で、その余力をどこに使うのかによって、都市の将来像は大きく変わる。福岡市の高島宗一郎市長は8日の会見で、都市の成長による税収増を市民生活の質の向上につなげたい考えを示した。子育て世帯の住み替え支援や道路改良などは、その具体策の一部となる。

 重要なのは、税収増を単なる財政上の成功として終わらせないことだ。都心再開発で得た税源をどこへ再投資するのか。人口増で得た財源を、子育てや教育、住宅政策にどう配分するのか。観光で得た宿泊税を、観光振興だけでなく市民生活の負荷軽減にも使えるのか。企業収益の伸びを、地域経済全体の底上げにつなげられるのか。

 福岡市は、大幅な税収増を前提にできなかった時代から、増えた税収の使い道を問われる時代へ移った。市税4,000億円時代の焦点は、税収の多寡ではなく、成長の果実を誰に、どのように届けるかにある。

【寺村朋輝】

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