【業界を読む】九州の私立大学、学生動向【他県編】 福岡以外で強まる定員割れと再編圧力
福岡県内の私学は2025年度実績で総量では定員を上回ったが、福岡以外の九州各県では様相が異なる。4年制大学は入学者ベースで踏みとどまる一方、短大は入学者・在籍者ともに厳しく、地元進学の受け皿機能が揺らいでいる。さらに、佐賀、宮崎、大分、鹿児島などでは大学進学者の地元進学率が低く、県内私学の学生確保を難しくしている。短大離れは単なる学校数の問題ではなく、地方の高卒後進学ルートと地域人材供給機能の再編を迫っている。
福岡以外は総量でも定員未充足
前回記事では、福岡県内にキャンパスを置く私立大学・短期大学の2025年度学生数を基に、福岡私学の現状を見た。福岡県では4年制大学・短大を合わせた入学者数、在籍者数がいずれも定員を上回り、九州のなかでなお学生を吸収する力を持つ地域であることを確認した。
一方、福岡県以外の九州各県では様相が異なる。【表1】は、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島の各県にキャンパスを置く私立大学・短期大学について、25年度の入学定員、入学者数、在籍者数、収容定員を整理したものだ。
福岡県外の私立大学・短期大学を合計すると、入学定員は1万3,230人、入学者数は1万2,748人で、入学者充足率は96.4%だった。在籍者数でも、収容定員4万9,502人に対し、在籍者数は4万5,893人で、収容定員充足率は92.7%にとどまる。福岡県が総量で定員を上回っていたのに対し、福岡以外の九州私学は、全体としてすでに定員未充足となっている。
ただし、福岡以外の九州私学も一様に厳しいわけではない。4年制大学に限ると、入学定員1万820人に対し、入学者数は1万825人で、入学者ベースではほぼ定員を満たしている。だが、在籍者数では収容定員4万4,377人に対し4万1,899人で、収容定員充足率は94.4%にとどまる。単年度の入学者数では踏みとどまっていても、過去数年の未充足が在籍者数に表れている大学が少なくないとみられる。
短大不振に揺らぐ九州各県
進学構造に再編圧力
より厳しいのは短大だ。福岡県外の短大は、入学定員2,410人に対し入学者数1,923人で、入学者充足率は79.8%だった。在籍者数も収容定員5,125人に対し3,994人で、収容定員充足率は77.9%にとどまる。短大は福岡県内でも厳しさが目立ったが、福岡以外でも学生確保の難しさは鮮明だ。
ただし、短大不振の影響は、福岡よりも福岡以外の各県で重くのしかかる。福岡以外では短大の存在感が相対的に大きかったためだ。福岡には多数の4年制私立大学が集積し、県内外から学生を集める受け皿となっている。一方、福岡以外の各県では、4年制大学の選択肢が限られる地域も多く、短大が地元進学の重要な受け皿となってきた。
短大は、保育、栄養、生活、ビジネスなどの分野で、地域で学び、地域で働くための進学先として機能してきた。とくに地元志向の強い女子進学者にとって、短大は身近な高等教育機関だった。福岡に比べて4年制大学の集積が薄い県ほど、短大が地域の高卒後進学ルートを支えてきた面がある。
しかし、近年の4年制大学志向の高まりによる短大進学需要の縮小は、短大比率が相対的に高かった福岡以外の各県に大きな影響を与えている。短大再編の動きは進んでおり、25年度には九州龍谷短期大学(佐賀)、中九州短期大学(熊本)が学生募集を停止。26年度には南九州大学短期大学部(宮崎)、鹿児島純心女子短期大学(鹿児島)が募集停止となり、尚絅大学短期大学部(熊本)も総合生活学科の募集を停止した。
地元進学率の低さが
学生確保を難しく
さらに、福岡以外の九州各県では、大学進学者が県内大学にとどまる割合も低い。【表2】は、各県高校生の大学進学時の地元進学率と、各県大学の地元占有率を整理したものだ。地元進学率は高校生側から見た県内大学への進学割合であり、地元占有率は大学側から見た地元高校出身者の割合である。

大学の地元進学率は、福岡が65.9%、次に熊本が48.1%で比較的高いが、他県は長崎37.5%、鹿児島31.5%、大分27.9%、宮崎27.3%、佐賀16.6%にとどまる。福岡以外の多くの県では、県内大学に進む高校生の割合が低く、県内私学にとって地元高校生をいかに取り込むかが大きな課題となっている。
熊本は一定の
受け皿機能を維持
福岡以外で比較的底堅いのは熊本だ。大学地元進学率48.1%の熊本は県内に複数の私立大学が集積し、分野の幅も比較的広い。熊本学園大学、崇城大学、熊本保健科学大学、九州看護福祉大学、九州ルーテル学院大学、そして東海大学の熊本キャンパスなど、社会科学、工学、医療、福祉、教育系、畜産系の受け皿があり、県内残留を一定程度支えている。福岡ほどの吸引力はないものの、地元高校生にとって県内進学の選択肢が一定程度残っていることが、私学全体の底堅さにつながっているとみられる。
一方で、熊本県内大学の地元占有率は59.4%と高い。これは、熊本県内の大学が地元高校出身者に比較的大きく支えられていることを意味する。地元進学率が一定程度高いことは強みである一方、今後、県内高校生の数が減れば、その影響を受けやすい構造でもある。
ただし、熊本も安泰ではない。短大の地元進学率は50.2%にとどまり、短大進学者の受け皿としての力は弱まっている。女子大・短大系、小規模校では再編圧力が残る。熊本は福岡以外では比較的受け皿機能を維持している県だが、内部ではやはり二極化が進んでいる。
地元進学率が低い他県
再編圧力も強く
熊本以外の他県では大学地元進学率が低いが、とくに佐賀、宮崎、大分は3割未満にとどまる。佐賀は16.6%ととくに低く、福岡都市圏への近接性が佐賀県内私学の学生確保を難しくしている。
宮崎も大学地元進学率が27.3%で、県内私学の定員充足も厳しい。たとえば、九州医療科学大学は充足率が63.7%にとどまり、薬学部では27年度から入学定員を100人から60人へ減らす予定としている。また、宮崎は大学地元進学率が低い一方、県内大学の地元占有率は53.4%と比較的高い。県内大学が地元高校出身者に一定程度依存している一方で、県外から学生を呼び込む力は限られていることを示している。これは鹿児島にも共通する。
大分の大学地元進学率は27.9%にとどまるが、立命館アジア太平洋大学(APU)のように留学生比率が約50%に達する大学もあり、地元高校生の受け皿としての大学と、県外・海外から学生を集める大学を分けて見る必要がある。
長崎、鹿児島は、佐賀、宮崎、大分ほど地元進学率が低いわけではない。長崎の大学地元進学率は37.5%、鹿児島はそれに続く31.5%となっている。しかし、定員充足率を見ると、両県ともこれまで地元の進学構造を支えてきた女子教育機関と短大に対して、強い再編圧力がかかっていることが見て取れる。
問われる役割は
地域人材の供給機能
福岡以外の九州私学では、福岡のような総量での余力は乏しい。4年制大学は一部で底堅さを維持するものの、在籍者ベースでは未充足が残り、短大は各県で厳しい。さらに、佐賀、宮崎、大分、鹿児島などでは大学の地元進学率が低く、県内私学の学生確保を難しくしている。とりわけ、これまで地元進学の受け皿となってきた短大の縮小は、地方の高卒後進学ルートの再編を意味する。その影響は、地域の人材供給の在り方にもおよび始めている。
地方私学の再編が進むなかで、今後問われるのは、単に「どの大学を残すか」ではない。医療、看護、福祉、保育、教育、工学、情報など、地域に必要な人材供給機能をどのかたちで維持するかだ。財務省が示した私大削減方針は、地方では単純な大学数削減ではなく、短大の募集停止、学部再編、4年制化、県外から学生を集める大学と地域人材供給型大学の機能分化として現れることが十分考えられる。
ただし、短大の募集停止が、そのまま同地域の4年制大学へ入学先が変わることを意味するのではない。先述の通り、26年度には、南九州大学短大((学)南九州学園)、鹿児島純心女子短大((学)鹿児島純心女子学園)が募集停止を行い、尚絅大学短大((学)尚絅学園)も1学科の募集を停止した。これらの短大は同じ(学)のもとで、それぞれ尚絅大学、南九州大学、鹿児島純心大学という4年制大学をもつが、いずれも定員充足に課題を抱えている。このことは短大需要が縮小したからといって、その進学需要が同一法人内の4年制大学へそのまま移るとは限らないことを示している。
福岡が九州のなかで学生を集める側の地域であることに、当面大きな変化はないとみられる。だからこそ福岡以外の各県では、県内高校生にどれだけ県内進学を選んでもらい、地域に必要な教育機能をどう残すかがより切実な課題となっている。少子化時代の私学再編は、福岡以外の九州各県で、より厳しいかたちで進み始めている。
【寺村朋輝】
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