IT戦争としてのイラン戦争~パランティアに取り込まれる日本と自衛隊

鹿児島大学名誉教授
ISF独立言論フォーラム編集長
木村朗

 最近になってIT(情報技術)企業が軍事関係部門との連携を深めており、AI(人工知能)が世界各地で戦争の「質」や「形態」を変え始めているのが注目されている。

 そこで、今回はそのなかでもその存在感を急速に増しているパランティア(Palantir Technologies Inc.)を取り上げて、イラン戦争とパランティアとの関係を考察するとともに、日本と自衛隊がパランティアにどのように対応しようとしているのかを考えてみたいと思う。

1. パランティアとピーター・ティールとは

 2020年代に入ってから「テクノファシズム」の危険性が警告されるようになった。それは、情報機関と結びついたIT(情報技術)企業によって不特定多数の人々を監視する警察国家の構築が可能となるだけでなく、IT企業が軍事関係部門との連携を強化してIT戦争という新しい戦争形態を生み出している現状があるからだ。

 米国のトランプ政権は、IT企業群と緊密な関係にある。そのなかでもとくに注目されているのが、パランティアとの関係である。このパランティアは、03年にCIAのベンチャー・キャピタル部門であるIn-Q-Telからの資金で創設された企業であり、イスラエルの情報機関とも関係が深いことが知られている。

 そのパランティアの共同創設者で現在会長を務めているのがピーター・ティールである。ピーター・ティールは、1998年に共同設立したコンフィニティ社で、電子決済サービス「PayPal(ペイパル)」を開発し成功を収めた。その後、2003年5月、ユダヤ人シオニストのアレックス・カープとともに、水晶玉を意味する「パランティア(Palantir Technologies Inc.)」を創立した。そのピーター・ティールは、現在、ドナルド・トランプ大統領の有力な支持者の1人で、J・D・バンス副大統領のスポンサーとして知られ、世界の一部の人々からは「影の大統領」と評されている。

2. IT戦争としてのイラン攻撃

 パランティアは、ウェブ上の膨大なデジタル・アナログデータや動画データを収集・分析し、戦争で暗殺したい人物をリアルタイムで特定して殺害する仕組みをつくり上げた。米軍は、パランティアの開発したAIを搭載した「メイブン・スマート・システム(MSS)」を、衛星や偵察機などから収集した膨大な機密データを統合して分析し、攻撃目標の選定や優先順位の判断に活用している。

 26年に入り、米軍によるベネズエラ奇襲とマドゥロ大統領拘束、米イスラエル軍によるトマホークミサイルを用いたイラン攻撃(ハメネイ師ら政府高官と付近の女子小学生165人を殺害)、そしてネタニヤフ首相によるガザでのパレスチナ人大量虐殺(ジェノサイド)などにパランティアのAI技術が利用されていたことが判明している。とくに対イラン攻撃では、米軍はAIを活用したパランティアのミッション統制システム「メイブン・スマート・システム」を使い、攻撃開始から24時間で約1,000カ所を攻撃、10日以内に攻撃目標は5,000に達したとされている。

 その際、イランの最高指導者だったアヤトラ・アリ・ハメネイ師のほか、アブドルラヒム・ムサビ参謀総長、アジズ・ナシルザデ国防相、イラン革命防衛隊(IRGC)のモハメド・パクプール司令官、そして最高安全保障委員会(SNSC)事務局長でハメネイ師の顧問を務めていたアリ・シャムハニを含むイランの要人を殺害したのである。

 イラン戦争は、米軍主導でAIを活用したパランティアのシステムが初めて本格的に戦争に使われたIT戦争として歴史に位置づけられるかもしれない。

3. パランティアとの関係を深めつつある日本の危機的現状

 26年3月5日、ティールは訪日して高市首相と官邸で25分間面談し、その後、防衛装備庁の官僚を含む高市政権の閣僚らと打ち合わせを行った。これは「フォワード・デプロイド・エンジニア(FDE)」と呼ばれる手法を用いて、国防総省のシステムを日本に導入し、日本を「パランティアのグローバル監視社会システム」に組み込むための協議であったとされる。

 日本政府との接触は、22年12月には岸田首相(当時)がティールと会談し、26年1月には小泉防衛大臣が訪米時にパランティアの事務所を訪問するという経緯ですでに始まっていた。さらに同年5月8日には、FBIのパテル長官が訪米した原和也内閣情報官と会談し、高市政権が新設を目指す「国家情報局」とFBIとの連携強化を確認している。

 パランティアは19年11月、SOMPOホールディングスと共同で日本法人のパランティア・テクノロジーズ・ジャパンを設立、ヤマトホールディングスと提携し、20年11月に富士通はパランティア・ジャパンと戦略的なグローバル・パートナーシップの発展に向けた契約を締結したと発表している。

 アメリカ国防総省のDARPAやDIUと関係の深い防衛装備庁のDISTIは、富士通、Sakana AI、パランティアと密接な関係を築いている。こうした企業の背後にはイスラエルの電子情報機関が存在しているとも伝えられている。

 現在、日本には「パランティア・ジャパン」という日本支社が存在し、ここには損害保険ジャパンが出資し、富士通が技術連携を行っている。パランティアのシステムは、Google、Amazon、Meta、Microsoftなどが持つ世界のビッグデータを統合し、監視・コントロールすることを目的にしている。

 日本へのアプローチの真の狙いは、日本のあらゆる機密情報を抜き取って自社システムに統合し、日本を統制する仕組みを完成させることにある。その第一歩として、政府や防衛省のデータを入手し、自衛隊のシステム内にパランティアのAIを注入することで、アメリカの戦争計画に日本を組み込もうとしているのである。陸自は、昨年の段階でパランティアと2.8億円の契約をするなど、導入に向けた検証を進めている。

イメージ    日本の自衛隊と米軍の共同訓練で、米軍がイラン戦争でも使ったとされる米パランティアのAIプラットフォーム「ゴッサム(Gotham)」が使われていたことが判明している。今年1~2月、東京・市ヶ谷の防衛省で、自衛隊と米インド太平洋軍の最高幹部が参加する日米共同の指揮所演習が行われた。2年に1度のシミュレーション訓練は「鋭利な切れ味」の意を込めて「キーン・エッジ」と呼ばれる。

 この演習で初めて使われた技術が、米データ解析企業パランティア・テクノロジーズのAIシステムだ。訓練は、南西諸島の有事で、米軍や自衛隊の艦艇などが攻撃される想定で行われた。日米が協力して反撃し、配備したばかりの長射程ミサイル「25式地対艦誘導弾」も発射するというシナリオだ。このミサイルの射程は1千キロ程度。地上から艦艇を狙えるが、遠く離れた標的に狙いを定める「ターゲティング」は難しい。衛星画像や無人機、陸海空のレーダーから集めた膨大な情報を分析して判断する必要がある。自衛隊制服組トップの内倉浩昭・統合幕僚長は4月の会見で、具体的な検討状況への言及は控えたうえで、「ターゲティング機能でAIを使うことは有益だと考えている」と語っている(「自衛隊の日米訓練にパランティアAI 2.8億円の契約と変わる戦闘」朝日新聞デジタル:2026年6月25日)。

 こうしてパランティアのシステムに日本と自衛隊は完全に取り込まれつつある。防衛戦略の心臓部ともいえる指揮・統制システムまで米国に委ねることは、日本独自の判断が左右される可能性があり、いざというときにシステムを停止されてしまうリスクや米国が日本の機密データを他国の企業に渡してしまう恐れもある。

 このままでは、パランティアのシステム上に存在するバックドアを通じ、日本側の情報はすべて流出し、日本はさらに米国・米軍の完全な属国と化すことになるであろう。その米国はイスラエルとの軍事統合を進めており、日本は米国だけでなくイスラエルの従属下にも置かれることを意味している。

 またパランティアの敵の組織ネットワークを分析するシステムと、国内の人間関係や活動を分析するシステムは、技術的には共通している点も要注意である。自衛隊がパランティアのAIシステムを導入したことで、将来的に日本国内での国民監視が始まる可能性も否定できなくなる恐れがある。

 日本政府は、さまざまなリスクがありながら現在急速に進められようとしているパランティアとの連携を、本当に取り返しのつかない段階になる前に断固拒否すべきである。


☆参考資料

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