【鮫島タイムス別館(50)】蔵内失脚で「新三国志」終焉 麻生が仕掛ける次の福岡政界

福岡政界はかつて、麻生太郎(85)、古賀誠(86)、山崎拓(89)の3人が火花を散らす「三国志」にたとえられた。近年は主役が交代し、麻生、武田良太(58)、蔵内勇夫(72)の「新三国志」時代となった。新旧二世代にわたって「三国志」の主役を演じる麻生は怪物としかいいようがない。
「新三国志」の一角、蔵内が失脚
この夏、新三国志の一角が崩れた。県議会のドンとして大物国会議員の2人(麻生、武田)と互角に張り合ってきた蔵内が失脚した。歴代議長就任をめぐる金銭授受疑惑が直撃。本人曰く「日本で一番悪い男」として全国から批判を浴び、あっけなく議員辞職に追い込まれたのだ。
蔵内が牛耳る県議会は、麻生でさえ手出しが出来ない「最後の聖域」とされた。その蔵内がひとりの県議から7月に金銭授受疑惑を告発され、瞬く間に崖っぷちに立った。まずは側近の副議長が議員辞職し、ついには蔵内に服従していた服部誠太郎知事にも反旗を翻されたのである。
蔵内は金銭授受と議員辞職を頑なに否定していたが、8月17日に議長辞任の意向を示し、同25日には一気に議員辞職に至った。まさに坂道を転がり落ちたのだ。権力を築き上げるには歳月を要するが、失う時は一瞬だ──という格言のままの急展開だった。それほど金銭授受疑惑は痛打だったのだ。
蔵内を告発したのは、麻生に近い吉松源昭県議だ。かつて衆院福岡4区で武田と同じ旧二階派の宮内秀樹に公認争いで敗れた。2024年衆院選では現職宮内に無所属で挑んで落選。吉松出馬の背後には、武田追い落としを目論む麻生の存在があったといわれている(この衆院選の福岡11区で武田が落選したのも、麻生が相手の維新新人に肩入れした結果との見方もある)。
吉松は蔵内にも睨まれ、県議補選で復帰した後も自民県議団に戻れず、同じく蔵内から追い出された麻生側近の中村明彦と2人で少数会派を作っていた。その経緯からして、蔵内追い落としにも麻生が一枚噛んでいたとみるのが自然だ。この見立てが正しければ、吉松は麻生による「武田つぶし」と「蔵内つぶし」の双方で先兵を務めたことになる。この手の脇役は「新三国志」に不可欠な登場人物といえるだろう。
蔵内退場で始まる「麻生vs武田」最終決戦
蔵内の退場で福岡政界の「新三国志」時代は終焉し、今後は麻生と武田の最終決戦となる。もちろん現時点では麻生が圧倒的に強い。武田は今年2月の衆院選で国政復帰し、旧二階派を継承したものの、永田町では麻生に干し上げられたままだ。
旧二階派で武田の弟分にあたる小林鷹之は昨年の総裁選の決選投票で麻生に同調して高市早苗を支持し、論功行賞で政調会長に抜擢された。麻生にすれば、旧二階派の次世代ホープを引き抜き、武田の求心力を落とす狙いがあった。
麻生は自らを中心とする挙党体制の確立を狙って立ち上げた議連「国力研究会」の発起人にも小林を加える一方、武田を外した。武田への露骨な嫌がらせだ。9月の内閣改造・党役員人事でも武田に近い議員を徹底的に干し上げ、武田を孤立させる作戦を描いている。
しかし武田には強みがある。「若さ」だ。麻生85歳、武田58歳。時が経つほど武田へ形勢は傾く。息の根さえ止められず、今を生き延びれば、麻生が政界を去った後、福岡は「武田王国」になる可能性さえあろう。
麻生もそれは十分承知だ。だから武田を徹底的につぶしておきたい。つぶし切れなくても、徹底的に弱らせておく。そして自分に代わって武田を抑え込む次世代のリーダーを育てる必要がある。
麻生の次の一手は「高島擁立」か
その役目を担う人物として急浮上してきたのが、高島宗一郎・福岡市長(51)だ。36歳で民放アナウンサーから福岡市長に転身し、天神ビッグバンをはじめ都市再開発を推し進めた。4期16年、高島の後ろ盾であり続けたのが麻生だった。
蔵内が失脚したこの夏、高島は今年11月の市長選に出馬しないと突然表明した。「健康に問題はない」「本当は痩せ我慢。本当はめっちゃ続けたい」と公言しながらの謎の不出馬表明だった。「知事か国政へ転身するつもりだろう」という受け止めが広がるのも無理はない。
そのうえで気になるのは、高島の後ろ盾である麻生の意向だ。
次の知事選は29年。まだ先だ。対決構図はまだ見えない。現職の服部は蔵内と決別した以上、麻生への接近を図るだろう。高島が今の時点で知事選出馬を決断して市長を退くのは、時期尚早の感は否めない。
衆院の任期満了は30年2月。自民党は過去最多の316議席を占めている以上、早期解散・総選挙の可能性は決して高くない。しかも自民圧勝で福岡県内11選挙区にはすべて現職がいる。席が空いていない。
そうなると本命は再来年夏の参院選か。自民党は麻生派の大家敏志参院議員が改選を迎える。大家は衆院鞍替えを目指し福岡9区に名乗りをあげ、麻生に反対され出馬を断念した経緯がある。以来、麻生との関係はこじれている。麻生が次の参院選で大家の公認を認めず、高島に差し替えるシナリオは十分にあり得るのではなかろうか。
麻生85歳、武田58歳、高島51歳。麻生が自らの引退後を見据え、武田の対抗勢力として高島を押し立てる。そのために福岡市長から参院議員へ転身を迫った――。それが私の見立てである。
武田一人勝ちの福岡県政の未来がみえたら、麻生が息子か娘に福岡8区の地盤を継承しても、いつ武田に攻め込まれるかわからない。麻生家代々の繁栄を守るための高島擁立劇──。福岡政界は近い将来、「武田vs高島」の覇権争いに突入するのではなかろうか。
(敬称略)
【ジャーナリスト/鮫島浩】
<プロフィール>
鮫島浩(さめじま・ひろし)
1994年に京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社。99年に政治部へ。菅直人、竹中平蔵、古賀誠、町村信孝ら幅広い政治家を担当し、39歳で異例の政治部デスクに。2013年に原発事故をめぐる「手抜き除染」スクープ報道で新聞協会賞受賞。21年に独立し『SAMEJIMA TIMES』を創刊。YouTubeでも政治解説を連日発信し、登録者数は約18万人。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)、『政治家の収支』(SB新書、24年)。
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