学生・単身者が多く賃貸物件が多数開発
福岡市の住民基本台帳に基づく公称町別の人口および世帯数では、今回取り上げている井尻・笹原・雑餉隈エリア(井尻1~5丁目、諸岡1~6丁目、三筑1~2丁目、麦野1~6丁目、南八幡町1~2丁目、南本町1~2丁目、銀天町1~3丁目)は26年7月末現在で、人口4万5,657人・2万5,738世帯となっている。単純計算で1世帯あたり1.77人となっており、エリア内ではファミリーよりも単身者の割合がやや多いようだ。過去のデータから比較すると、10年前の16年7月末時点では人口4万947人・2万1,383世帯、20年前の06年7月末時点では人口3万8,017人・1万8,572世帯となっている。この20年間で、人口は1.20倍、世帯数は1.38倍まで増加しており、市内の他エリアと同様に、人口および世帯数とも増加傾向にはあるようだ。
だが、現在開発が進行中の分譲マンションはそれほど多くない。西鉄バス「諸岡」バス停から徒歩2分の諸岡3丁目で開発が進む、作州商事(株)による分譲マンション「エイル諸岡テラス」(RC造・地上5階建・陸屋根、総戸数34戸、27年2月竣工予定)くらいで、そのほかに目立った物件は見当たらない。なお、住所表記上は今回のエリア外にはなるが、西鉄井尻駅から徒歩10分、西鉄バス「横手南町」バス停から徒歩4分の南区横手南町の「NTT井尻社宅 井尻寮」跡地では、(株)ファミリーによる「井尻」の名前を冠した分譲マンション「ファーネスト井尻ルシエEAST」と「ファーネスト井尻ルシエWEST」の2棟の開発が進んでいる。EASTはRC造・地上9階建で総戸数62戸、WESTはRC造・地上9階建で総戸数57戸。2棟とも設計・監理は(株)JIN建築設計が、施工は(株)旭工務店がそれぞれ手がけ、28年2月上旬の竣工を予定している。
「井尻駅の周辺は、近隣に多くの大学や短大があることから、学生や単身者などが多く住む若者に人気のエリアです。西鉄やJRを利用すれば天神にも博多にもアクセスも良く、井尻駅の駅前には商店街をはじめとした多くの店舗もあるため、車がなくても買い物や飲食に困ることはなく、生活利便性はかなり高いです。駅周辺で開発されているのは、賃貸マンションもしくは賃貸アパートなどが多く、ファミリー層は少し離れた南区曰佐や春日市須玖などに住む傾向があります。近年は外国人の居住者も増えてきており、とくに多いのはネパール人ですね」(アパマンショップ井尻店/(株)ハウスサポート)。
近隣には、九州大学・大橋キャンパス(南区塩原4丁目)および九州大学井尻寮(井尻2丁目)があるほか、香蘭女子短期大学(南区横手1丁目)、福岡女学院大学(南区曰佐3丁目)、精華女子短期大学(博多区南八幡町2丁目)、福岡国土建設専門学校(博多区三筑2丁目)などの大学や短大、専門学校が多く立地し、それらの学校に通う学生らは、利便性の高さと住みやすさから井尻駅周辺を選ぶ傾向があるようだ。さらには大橋などでは日本語学校が立地していることもあり、外国人の姿も多く見かける。こうした学生や単身者などの居住ニーズに応えるべく、このエリアで多いのは、やはり賃貸向けの共同住宅のようだ。
井尻六ツ角の角地に位置する井尻5丁目では、ユナイテッドリアルティ(株)による共同住宅「(仮称)井尻5丁目計画新築工事」の開発が進んでいる。RC造・地上10階建で、総戸数はワンルーム36戸。設計は(株)m's planning一級建築士事務所が、施工は(株)安成工務店がそれぞれ担当している。
福岡外環状道路にも近い井尻3丁目では、地場企業代表の個人名で共同住宅「(仮称)井尻3丁目ビル 新築工事」の開発が進んでいる。RC造・地上10階建で、総戸数は53戸。設計および施工は照栄建設(株)が担当している。
西鉄高架沿いの南本町1丁目では、サムティ(株)福岡支店による共同住宅「(仮称)福岡市博多区南本町1丁目新築工事」の開発が進む。RC造・地上7階建で、総戸数は66戸。設計はJIN建築設計が、施工は(株)カシワバラ・コーポレーションがそれぞれ担当している。
筑紫通り沿いの銀天町1丁目では、サムティによる共同住宅「(仮称)福岡市博多区銀天町1丁目新築工事」の開発が進んでいる。RC造・地上14階建で、総戸数は221戸(うちワンルーム78戸)。設計・監理を(株)テクノ・アート一級建築士事務所が、施工を(株)へいせいがそれぞれ担当している。
NTT前交差点に面した銀天町1丁目では、K.ホールディングス(株)による事務所付共同住宅「(仮称)銀天町PJ新築工事」の開発が進む。RC造・地上11階建で、総戸数はワンルーム80戸。設計・監理は(株)AEdesign建築設計事務所が、施工は成和建設(株)がそれぞれ担当している。
西鉄雑餉隈駅にも近い麦野4丁目では、(株)メルディアDC(京都市山科区)による共同住宅「(仮称)麦野4丁目マンション新築工事」の開発が進んでいる。RC造・地上12階建で、総戸数は66戸(うちワンルーム55戸)。設計を(株)第一設計が、施工を(株)末永工務店がそれぞれ担当している。
こうした賃貸向けの共同住宅のほか、エリア内で開発が進行している物件をいくつか紹介しておこう。
西鉄雑餉隈駅に近く、西鉄高架に隣接する麦野6丁目では、「博多大学(仮称)」の学部棟(1号館)の開発が進行。建物自体はすでに竣工を迎えているようだ。博多大学(仮称)は、データに関連する幅広い知識とスキルを有する次世代のリーダーやイノベーターとなるデータプロフェッショナルを養成することを目的として設立を構想している大学で、データサイエンス学部のみの4年制単科私大となるもの。27年4月の開学を目指し、設置認可に向けた準備を進めていた。だが、26年8月20日、(一社)博多大学設立準備会が同大学の設置計画を断念した旨を発表。設置断念の理由については、近年の18歳人口の減少をはじめ、大学設置を取り巻く環境が一層厳しくなっていることを挙げ、「諸般の状況について慎重に検討を重ねた結果」と説明している。今後は、すでに完成済みの校舎の取り扱いなどが注目される。
西鉄井尻駅にも近い井尻1丁目では、(社福)しいのみ学園による「児童福祉施設しいのみ学園園舎改築工事」が進んでいる。同改築工事は、児童発達支援センターや放課後等デイサービスなどを運営する同法人の園舎建替えを行うもので、設計・監理をNKS2 architectsが、施工を髙藤建設(株)福岡支店がそれぞれ担当。27年4月から新園舎での活動開始を予定している。
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今回取り上げた井尻&笹原、そして雑餉隈にかけてのエリアは、何かしらわかりやすい派手なランドマークを有するまちではない。だが、鉄道路線や幹線道路が充実して交通利便性に富むほか、鉄道駅を起点に形成された商店街、そしてその後背地に位置する共同住宅や戸建住宅など、さまざまな都市機能が重なる成熟したまちだといえよう。とくに高架化を免れて昔ながらの街並みが色濃く残る井尻駅周辺は、それが顕著だ。
過去に雑餉隈エリアを取り上げた際、その結びとして「雑多さ」がエリアの魅力だと記したことがあるが、それは井尻&笹原においても、そのまま同じことがいえるだろう。ただし、井尻&笹原におけるそれは、雑餉隈よりももっと生活に密着した、行き交う人々の生活の息づかいが感じられるような雑多さだ。福岡市の都心部では、大規模な再開発プロジェクトが順次進行し、“キレイ”なビルが次々と誕生してまちが刷新されていっている。だが、今回取り上げた井尻&笹原エリアは、開発余地がそれほどなく、良くも悪くもそうした潮流とは無縁だ。今後も“古き良き”風情を残しつつも、利便性に優れた住み良いまちとして、唯一無二の魅力を放っていくことだろう。
(了)
【坂田憲治】

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