酷暑に耐える「天神」へ 福岡都心の対策と課題

福岡市の3か月間の平均気温と熱中症による救急搬送者数の推移

 今年も、福岡市では7月上旬の梅雨明け直後から猛暑が到来し、熱中症警戒アラートが発令される日が続いている。年々猛暑が深刻化するなか、福岡市の熱中症による救急搬送数は2024年に1,160人、25年も917人にのぼった。今や「気候変動」や「気候危機」という言葉が日常化し、23~25年の世界平均気温は産業革命前に比べて1.48℃高い水準を記録した(※1)。気象庁のデータから福岡の1890~2025年の平均気温上昇を推定すると、100年あたり2.54℃となり(※2)、ヒートアイランド現象も相まって世界平均を上回るペースで温暖化が進行している。
 夏の猛暑および酷暑(気温40℃以上)は、今後の福岡市の経済成長や都市の快適性への障壁となる。本記事では、天神地区とその周辺を対象に、暑さに対する従来の対策と今後の方向性について、歩行者目線のインフラの視点から「涼む」「水を飲む」「緑で冷やす」の3つの切り口で検証する。

(※1)ウェザーニュース「2025年の世界は過去3番目の高温  産業革命前より1.5℃近く高い  WMO」 2026.1.18
(※2)筆者が気象庁データを直線回帰して求めた。

涼む:地下を生かした
クールシェアの確保

 猛暑対策の1つの柱が、歩行者が移動の合間に気軽に涼める物理的空間(クールシェア)の確保である。天神地区には、この仕組みが高いレベルで組み込まれてきた経緯がある。

 福岡市は、2026年実績で市内890施設を市民の「涼み処」として開放している。うち312施設は、熱中症特別警戒アラート発表時に一般開放の義務がある「クーリングシェルター」に指定されている。天神・大名地区では、福岡市役所1階ロビーや一部商業施設、薬局などが指定され、計151人の受け入れ枠が確保されている。

 しかし、天神の真の強みは地下のネットワークにある。天神地下街を筆頭に地下に空調が完備された歩行空間が張りめぐらされているのに加え、新天町のアーケードにも空調が整備されている。歩行者にとってこれらが、猛暑を避けて移動できる「熱中症予防インフラ」として機能している点が、福岡都心部の大きな資産といえる。

天神地下街
天神地下街

飲む:設置に課題
無料給水スポット

 夏のまちの移動において、空調と並んで不可欠なのが水分補給である。近年、海外の先進都市では、持続可能な暑さ対策として無料給水スポットの整備が進むが、現在の天神周辺では認知度や配置に課題を残している。

 福岡市では区役所や市民センターなど44施設に給水スポットを設置しているが、天神の中心街区には給水スポットの設置がない。周辺や近傍の今泉地区にある中央児童会館あいくる(3階)や中央区役所(6階)には設置されているものの、通りがかりの歩行者が気軽に立ち寄れる動線上にはない。

 民間企業が、アプリ上で給水スポットを表示する動きもある。無料給水アプリ「mymizu(マイミズ)」では、天神・大名地区の給水スポットとして、警固神社の神水のほか、ソーシャルビジネス拠点や一部の飲食店が登録されている。しかし、その数は前述のクールシェア施設に比べて、圧倒的に少ない。

 コンビニやドラッグストアなどで飲料を容易に購入できるがゆえに、無料給水というインフラの必要性や認知度が市民に浸透しにくい側面がある。しかし、市民を誰も取り残さないためには、行政とテック・民間を巻き込んだ、わかりやすい動線づくりが求められる。北九州市が「mymizu自治体アライアンス」に加盟して、市役所1階で無料給水コーナーを設置しているのがその一例である。

冷やす:課題が残る
都市緑化インセンティブ

 都市の気温上昇自体を抑制するアプローチが、「都市緑化」である。天神地区はアクロス福岡や天神中央公園という広大な緑を有する一方、渡辺通り以西の各町丁目における22年度の緑被率は、軒並み10%未満にとどまっていた(※3)。この課題に対し、福岡市は現在、公的空間の改修や民間へのインセンティブ設計により緑のネットワーク形成を目指しているが、他の政令指定都市に比べて強制力が低く、実効性にはまだ課題が残る。

(※3)福岡市「福岡市みどりの基本計画」2025.12、P36

アクロス福岡が証明する
真夏の冷却効果

アクロス福岡の緑
アクロス福岡の緑

 福岡の都市緑化を語るうえで外せないのが、1995年に開業した「アクロス福岡」だ。ここでは、南側に階段状のステップガーデンが設置され、隣接する天神中央公園と一体となった緑の公共空間が創出されている。
 このアクロス福岡の緑が、周囲の熱環境改善に貢献していることを証明するデータもある。九州大学・竹中工務店などの温熱環境実測調査によると、真夏の昼間の緑被面の表面温度はコンクリート面に比べて約15℃低かったこと、夜間に涼しい吹きおろしの風を都心にもたらすことが判明した(※4)。同じ日射量に対する気温上昇幅が、天神中心街区に比べて約70%に抑制されているという研究もある(※5)。

(※4)気候変動情報プラットフォーム「都会の山「アクロス福岡」のビル緑化
(※5)高山成ほか「都市域における大規模な屋上緑化物によるヒートアイランド緩和効果および人体暑熱ストレス低減効果の定量的評価」農業気象64(4):257-270、2008

市役所の壁面緑化と緑の回廊構想

 このアクロス福岡の知見は、近隣の公的空間や民間再開発にも生かされている。福岡市役所では、市役所西側の壁面を全面緑化し、ベランダを植栽で満たす工事が26年3月に完了した。「都心の森1万本プロジェクト」の一翼を担うこの緑化には、アクロス福岡や天神中央公園方面と連続する緑の回廊を形成し、庁舎の省エネと周辺の気温上昇抑制を実現する狙いがある。

市役所壁面緑化
市役所壁面緑化

    天神ビッグバンにより再開発されたビルでも、緑の空間の整備が進められている。ONE FUKUOKA BLDG.(ワンビル)では、外周部やテラスの緑化、緑の広場の整備が実施された。至近の因幡町通りは、改良工事を経て、30本を超える中高木や花が配置された歩行者専用道路として、26年7月に開通した。大名ガーデンシティでは、総合設計の適用を踏まえ、3,000m2を超える緑の広場が整備された。

 その一方で、須崎公園の再開発時には大規模な樹木の伐採が市民の批判に晒され、計画の修正につながった事実も忘れてはならない。

インセンティブ止まり
民間任せの対策

 福岡市は民間向けの緑化インセンティブとして、2つの制度を有している。1つは、壁面やバルコニーの緑化への財政支援である。都心部のビル緑化に対し、最大3,000万円(対象経費の2分の1上限)を補助する制度である。25年は市内6件(うち天神近傍では2件)の実績があった。

 もう1つが、容積率緩和策「グリーンボーナス」である。これは特定エリア内で一定の緑化基準を満たした建築計画に対し最大50%の容積率を上乗せするもので、天神地区では、26年7月時点で「(仮称)福岡天神センタービル建替計画」や「(仮称)天神1-7計画」が対象となっている。

 しかし、こうした福岡市の取り組みは、事業者が自発的に手を挙げる誘導策にとどまり、包括的な緑被率の規制がないのも事実だ。前述のインセンティブによる実績も、現時点では都心の熱環境の根本的な改善にはほど遠い。

 ほかの政令指定都市には、規制を通じて、より踏み込んだ緑化政策を進める例がある。横浜市では、「横浜みどりアップ計画」「緑の環境をつくり育てる条例」に基づき、敷地面積500m2以上の建築物に対して、一定割合以上の敷地内緑化を義務付けている。大阪市でも、一定規模以上の建築物に対し、緑化のほか「CASBEE大阪(建築物環境配慮制度)」を通じた環境性能表示や建築物環境計画書の作成を義務化しており、環境性能表示の概要も公式ホームページで公開されている。名古屋市では、市街化区域全域を都市計画上の緑化地域に指定したうえで、条例により建築時の緑化率確保を義務づけている。神戸市にも緑化地域を対象とした類似の仕組みの運用がある。

 これら他都市の事例と比較すると、福岡市は民間開発への自由度を残す一方で、「一定規模以上の開発に対する緑化の全面義務化」といった強い規制の導入には踏み切れず、建物の環境性能表示の仕組みもない。

カーボンニュートラル
持続可能性の視点を

 ここまで天神エリアの猛暑対策を概観すると、過去に整備されたアクロス福岡や地下街が猛暑への防波堤となっていること、行政がインセンティブを通じ緑のネットワーク形成を狙っているものの、他都市のような強固な規制・制度化には課題を残していること、給水インフラが発展途上であることがわかった。

 気候危機時代におけるまちづくりの究極の目的は、経済活動を止めず、高齢者から子どもまで「誰も取り残されることなく、夏でも自由にまちを歩き、楽しめる自由」を守ることにある。猛暑によって日中の外出が制限され、ゴーストタウン化する天神は、地場経済や市民にとっても避けるべき未来だ。

 そのためには、福岡市が目指す2040年度のカーボンニュートラルと一体となり、単に空調で冷やすだけでなく、都市構造そのものを自然共生型へと変革していく視点が欠かせない。政策の「お願いベース」から「制度的な担保」へと一歩踏み出し、真の意味で都市の水循環と緑化を推進することこそが、気候危機下で福岡・天神が持続可能な都市として生き残るカギとなるはずだ。

 そのキーを1つ挙げると、バイオクライマティック(生物気候学的)なまちづくりの観点だろう。


<プロフィール>
島倉孝之
(しまくら・たかゆき)
島倉孝之富山県射水市出身。不動産系シンクタンクの研究員として都市計画、資産評価、国連ハビタット関連業務などに従事。海外開催の起業支援プログラム参加後は、気候対策とヘルスケアを複合させたビジネス構想を進めながらライターとして活動。2024年に大谷翔平選手のコラム記事を連載。脱炭素まちづくり公認ファシリテーター。

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