机上での支援から、いずれ現場へ 建設業はAIでどう変わる?(前)

人手不足の建設業界で
起死回生の一手となるか

 本誌の連載企画「建設業界職人不足問題への提言」でもたびたび言及されているが、現在の建設業を取り巻く構造的な課題として、働き手の減少が第一に挙げられる。

 総務省の労働力調査(2025年次)によると、建設業の就業者数は2025年平均で約478万人。ピークとなる1997年の約685万人から減少が続いており、この約30年間で約3割減少したことになる。建設業への新規学卒者の入職者数が4万人弱で緩やかな右肩下がりで推移する一方、全産業と比べても高齢化が進んでいることもあり、今後も人手不足はますます深刻化していく見通しだ。また、そもそもの問題として、20年度に約7,509万人だった日本の生産年齢人口は、40年度には約6,213万人まで減ると推計されている。日本全体で働き手の絶対量そのものが減っていく状況下において、「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージが根強く“不人気”な業種の代表格である建設業が、他業種と競り合って人手を確保していくのは至難の業だ。

建設業就業者数の推移(出典:(一社)日本建設業連合会 資料)
建設業就業者数の推移
(出典:(一社)日本建設業連合会 資料)

 さらに追い打ちをかけているのが、「2024年問題」だ。19年4月に施行された「働き方改革関連法」(正式名称:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)では、時間外労働の上限規制が適用されたが、建設業を含めた一部業界では5年間の猶予期間が設けられていた。だが、その猶予期間が終了した24年4月からは、建設業でも原則として月45時間・年360時間が上限となった。これにより、かつての建設業界で横行していた、残業によって短い工期を何とかしのぐやり方は、もはや通用しなくなった。限られた人数で、限られた時間に、同じ量の仕事をこなさなければならない──。

 この無理難題を解決するカギとして、建設業においても期待が高まっているのが、生成AI(生成的人工知能)をはじめとしたAIの活用だ。

大手はAI活用に積極的だが
業界ではまだ3割程度

 生成AIの活用によってまず期待されているのが、事務・間接業務の効率化だ。業界でも大手ゼネコン各社を中心に、生成AI活用による事務・間接業務の効率化の各種取り組みが進められている。

 清水建設(株)では、23年から生成AIの活用を開始し、24年春には生成AI推進体制を強化。「建設業の中で一番AI活用する企業を目指す」という方針を掲げ、25年4月にはAIアシスタントサービス「Lightblue」を全社導入し、約3,000人の従業員が利用する体制を整えた。工事現場のカメラ映像をAIで解析し、進捗をリアルタイムに自動判定する施工管理システムも開発しており、日々の進捗管理や報告書作成の負担軽減につなげている。

 鹿島建設(株)でも、自社専用の対話型AI「Kajima ChatAI」を構築するほか、画像AIと独自の解析アルゴリズムを用いて、指定した作業エリア内における技能者の人数と作業時間をリアルタイムかつ正確に自動で把握できるシステムを開発。現場・事務の双方で全社的な活用を進めている。

 (株)大林組も建築設計の初期段階の作業を効率化する「AiCorb®」を開発するほか、断面設計を自動で行う構造設計支援AIプログラムを開発。設計・構造検討・施工管理・CO₂算定など、幅広い業務でAIの活用を推進している。

 (株)竹中工務店でも、同社が20年以上蓄積してきた構造設計結果データを学習した「構造設計AIシステム」を開発して全面導入するほか、AIを活用した建物検査(外壁点検、屋内点検)における問題箇所の自動抽出およびレポートの作成システムを展開。さらに、管理職と部下との面談を生成AIで支援する取り組みや、生成AIを活用した研修を実施している。

 そして大成建設(株)では「経営基盤のDX」の一環として、国内の総合建設会社で初めて生成AIの世界的リーディングカンパニーであるOpenAI, Inc.(OpenAI)と連携し、ChatGPT Enterpriseを活用した人財育成と業務改革の全社プロジェクトを開始。『生成AIを使いこなせる人財を育成し、業務変革を通じて生産性の向上を図ること』を目的とした、先進的な取り組みを進めながら、現場とオフィスの双方での生産性向上を目指している。

 このように大手ゼネコンなどでは、生成AI活用の取り組みが積極的に進められている一方で、中小をはじめとした業界全体では生成AIの活用はまだそれほど浸透しておらず、大手との温度差がある。企業間取引(BtoB)をデジタル化するクラウドサービスの提供を行う(株)インフォマート(東京都港区/東証プライム)による「建設業のDXとAI活用に関する実態調査」では、生成AIの業務利用は約3割(33.1%)にとどまるという結果になった。また同調査では、建設現場の33%、バックオフィスの25%がいまだデジタル化・DXに「未着手」という結果も出ており、業界としてDX途上である現状が浮き彫りとなった。

 そうした業界内でいまだ過半数を占める中小企業を中心とした“AI弱者”を救済・支援する動きが、中小工務店から実を結び始めている。その代表的な事例として、安心計画(株)と(株)Lib Workによる住宅産業DXの取り組みを見ていこう。

中小工務店のAI活用は
すでに実装段階へ

 建設業界では、DXやAX(AIトランスフォーメーション)に向けた取り組みが広がっている。しかし、地域の住宅建築を担う中小工務店では、AIの活用状況にばらつきがある。文章作成や情報整理などに活用する事業者がいる一方、「業務への組み込み方がわからない」「指示文(プロンプト)の作成が難しい」といった理由から、継続的な利用に至らない事業者も少なくない。

 その背景にあるのは、単なるIT知識の不足ではない。中小工務店では、経営者や限られたスタッフが営業、設計、施工管理、顧客対応、集客など複数の業務を兼務するケースが多い。人手不足が深刻化するなか、新しいツールの操作方法を学び、既存業務に組み込むための時間そのものを確保しにくい。

 こうした住宅業界の課題に対し、異なる立場からデジタル化を進めてきたのが、住宅営業支援システムを手がける安心計画と、熊本県を拠点に住宅事業を展開するLib Workである。両社はそれぞれが培ってきた住宅プランや営業支援のノウハウを組み合わせ、AIプラン検索ツール「My Home Robo(以下、マイホームロボ)」を共同開発した。さらに現在は生成AIの活用へと領域を広げ、住宅の営業、設計、顧客対応など一連の業務を効率化する仕組みづくりを進めている。

My Home Robo HPより
My Home Robo HPより

熊本地震から始まった
「設計知」の共有

 両社の連携につながる1つの起点となったのが、2016年の熊本地震だった。震災後の復興需要によってLib Workへの住宅注文が急増し、設計スタッフの業務負担は限界に近づいていた。短期間に多くの住宅プランを作成しなければならず、設計者個人の経験やアイデアだけに頼った業務の限界が表面化した。

 「限られた時間で多くの案件に対応しようとすると、設計者がもつアイデアの引き出しが尽き、似たような図面ばかりになってしまいます。『このままではいけない』と強い危機感を覚えました」──Lib Workの代表取締役社長・瀬口力氏は当時をそう振り返る。

 そこで同社は、それまで設計者個人がもっていた住宅プランやノウハウを集約し、社内で共有できるデータベースの構築に乗り出した。この取り組みに、住宅営業支援システムなどを通じて建築実務のデジタル化に取り組んできた安心計画が協力。公開されている優良な住宅プランも収集し、個人の経験に依存していた「設計知」を組織全体で活用できる仕組みへと変えていった。

 効果は大きかった。深夜まで続くこともあった設計スタッフの残業時間は大幅に減少し、その後の働き方改革にも対応できる業務体制につながった。

 ここで重要なのは、単に図面をデジタル化したことではない。それまでベテラン設計者の頭の中に蓄積されていた知識や経験をデータとして共有し、別の担当者でも活用できるようにした点にある。これは現在、住宅業界が抱える「属人化」という課題にも直結する。

1万件のプランから提案
「マイホームロボ」

 住宅業界では、とくに地方の工務店を中心に設計人材の確保が難しくなっている。専任の設計者を十分に配置できず、営業担当者が間取りの作成やプラン提案まで担うケースもある。一方で、営業担当者も商談だけを行っているわけではない。顧客の要望整理、プラン提示、資金計画、議事録作成、顧客フォロー、SNSなどを使った集客まで幅広い業務を担う。人手が減る一方で、一人が担当する仕事は増えている。

 こうした課題に対応するため、安心計画とLib Workが共同開発したのが、AIプラン検索ツール「マイホームロボ」である。約1万件の住宅プランを収録したデータベースから、顧客の要望に合う間取りを短時間で検索し、外観や内観の3D-CGパースとともに提示する。条件が合えば、5分程度で住宅プランを提案できるという。

 従来、設計担当者が時間をかけて作成していた提案の一部をシステム化することで、専任の設計者が限られる工務店でも、営業段階で顧客に具体的な住宅イメージを提示しやすくなる。同システムは国の補助金事業にも採択され、月額課金制のSaaS型サービスとして外部提供を開始。現在では全国約230社が導入している。

 Lib Workにとっては、自社が熊本地震後に直面した「設計者が足りない」「プラン作成に時間がかかる」という課題への対応を、全国の工務店が利用できる仕組みに発展させた格好だ。一方、安心計画が蓄積してきた住宅営業支援の技術や建築データを組み合わせることで、単なるプラン検索にとどまらず、実際の営業現場で使えるシステムへと展開している。

My Home Robo 基本機能
My Home Robo 基本機能

商談から提案までつなぐ
「タノモシカ」

 「マイホームロボ」の活用は、生成AIの進化によってさらに広がり始めている。たとえば、「和風の外観をナチュラルな雰囲気に変えたい」「切り妻屋根をフラット屋根にしたい」といった顧客の要望に対し、画像生成AIを活用して住宅の外観や内装イメージをその場で変更し、提示することが可能になってきた。

 従来であれば、顧客からの変更要望を持ち帰り、修正したうえで再び提示する必要があった。それが商談の場で視覚化できれば、提案に要する時間は大幅に短縮できる。
 さらに安心計画は、中小工務店の日常業務そのものに生成AIを組み込む取り組みを進めている。その1つが、建築実務特化型生成AI「タノモシカ」である。

 特徴は、利用者に高度なプロンプト作成を求めないことだ。「議事録作成」「SNS投稿文作成」など、工務店の業務に応じたメニューを用意し、必要な情報を入力・選択することで利用できる。たとえば商談音声をアップロードすると、AIが議事録を作成するとともに、顧客の要望や予算などの情報を整理する。そこで抽出された情報を、安心計画が蓄積してきた住宅建築に関するデータやノウハウ、「マイホームロボ」などと連携させれば、条件に合った住宅プランや3Dパースの提案につなげることができる。

 つまり、AI活用が「文章をつくる」「画像をつくる」といった個別作業から、商談で得た情報を次の業務へつなぐ段階へ進みつつある。商談内容を記録する。その情報から顧客ニーズを整理する。条件に合う住宅プランを探し、3Dパースを提示する。さらに商談後には顧客へのフォローやSNSでの情報発信を行う──。これまで人がそれぞれの工程で行ってきた作業をAIとデータでつなぎ、営業活動全体の負担を減らそうという考え方だ。

住宅営業AI「タノモシカ」イメージ
住宅営業AI「タノモシカ」イメージ

(つづく)

【坂田憲治/内山義之/若松大生】

記者募集

月刊まちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、建設・不動産業界に関すること、再開発に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

記事の企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は別途ご相談。
現在、業界に身を置いている方や趣味で建築、土木、設計、再開発に興味がある方なども大歓迎です。
また、業界経験のある方や研究者の方であれば、例えば下記のような記事企画も募集しております。
・よりよい建物をつくるために不要な法令
・まちの景観を美しくするために必要な規制
・芸術と都市開発の歴史
・日本の土木工事の歴史(連載企画)

ご応募いただける場合は、こちらまで。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。
(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事