国際未来科学研究所
代表 浜田和幸 氏
ウクライナではフェドロフ国防相が突然解任されたため、国民の怒りが爆発し、指導部内の深刻な分裂が露呈しています。多数の市民がキーウやほかの都市の街頭に繰り出し、「フェドロフに手を出すな」「勝利を妨害するのをやめろ」と書かれたプラカードを掲げました。フェドロフ氏を軍の近代化の象徴と見ていた若いウクライナ人の不満が反映されたかたちです。
改革派国防相の解任に
揺れるウクライナ
日本ではあまり知られていませんが、2026年1月にウクライナの新国防相に任命されたフェドロフ氏は、デジタルマーケティングの起業家という異色の経歴の持ち主で、ゼレンスキー大統領のソーシャルメディア戦略の初期段階における立案者として活躍した人物。
既存の政治的利害関係と結びついた多くの人物とは異なり、フェドロフ氏はITスタートアップの世界から登場。デジタル変革大臣やウクライナ副首相を務めていたころ、彼はスターリンク問題でイーロン・マスク氏やパランティア社、マイクロソフト社、Google社、アマゾン社と緊密な関係を築き、ドローン技術革新と近代的な調達を積極的に推進。ウクライナと西側諸国を結ぶ近代化の架け橋と言っても過言ではありません。
フェドロフ氏は国防相としての短い在任期間中、給与予算を軍事技術に振り向け、ウクライナのドローン計画を推進し、契約における透明性の向上を図りました。また、ロシアの作戦をある程度妨害するうえで重要な役割をはたし、モスクワによるスターリンクの使用を制限する取り組みや、補給線やインフラを標的とした中距離・長距離攻撃の支援なども行ったのです。
軍上層部の対立と
政権中枢に広がる混迷
こうした活動によってフェドロフ氏は国民の間で信頼を得ており、それが彼の解任に対する抗議活動の一因となっています。ただ、同氏の解任は、最高司令官のシルスキー将軍との対立激化が影響していたようです。フェドロフ氏は、シルスキー将軍がドローンや改革に関する取り組みを妨害していると公然と非難し、「ロシアを打ち負かすことに集中するのではなく、国を分裂させることを選んだ」と主張しました。
一方、シルスキー将軍は、戦場での任務に注力していると簡潔に述べ、指揮官らに自身を支持するビデオメッセージを投稿するよう命じたため、国民の間ではシルスキー氏の解任を求める声も高くなった次第です。結局、ゼレンスキー大統領はシルスキー氏も解任しましたが、この間、裏では怪しい動きが見られました。
「支援」と「汚職への不信」の
ジレンマ
何しろ、ウクライナは長年にわたり、「欧州で最も腐敗した国」と見なされてきたお国柄。ちなみに、日本政府は復興ビジネスへの期待もあり、これまで3兆円を超える支援をウクライナへ提供してきました。しかし、ゼレンスキー大統領からは、「日本の支援は期待したほどではなく、少な過ぎる」と不満の言葉しか聞こえてきません。
いずれにせよ、軍のトップの相次ぐ解任は汚職大国の混迷を一層加速させることになりそうです。ウクライナにおける「戦時下の汚職問題」と「度重なる閣僚・高官の更迭」は、日本を含む国際社会の支援の継続性において、最大の懸念材料となっています。
この8月にも、大統領府副長官のイリーナ・ムドラ氏が汚職資金洗浄の容疑で解任されるなど、不正が政権中枢にまでおよんでいる現状が露呈。戒厳令下で選挙を行えないことへの不満も重なり、国内外で厳しい目が向けられているわけです。
日本や欧米諸国は、ウクライナ支援に関し「地政学的な防衛」と「ガバナンスへの不信」の深刻なジレンマに直面しているといえます。国際社会が仮に「汚職体質が改善されないから」と軍事・経済支援を完全に停止または縮小した場合、それはロシアによるウクライナの完全支配を意味するわけで、悩ましい限りです。
東アジアへの波及を懸念する日本やほかのG7諸国にとって、どれほど汚職が深刻であっても「ウクライナを敗北させるわけにはいかない」という地政学的な足枷があります。
一方で、巨額の電力汚職(約150億円規模のキックバック)などが相次いで発覚するなか、西側諸国の政府は「自国の血税がウクライナの汚職高官の隠し財産に消えているのではないか」という国内世論からの猛烈な批判に直面しているのも事実です。
EU・G7の「条件付き支援」が
改革を迫る
今後の展望として、ウクライナの汚職が「自然に消滅する」ことは期待できませんが、国際社会による強烈な「外部圧力」によって、強制的な浄化プロセスが進む可能性も否定できません。
具体的には、欧州連合(EU)やG7、世界銀行は、今後の復興資金や数十億ユーロ規模の財政支援を執行する条件として、「汚職対策法案の可決」や「独立した捜査機関の権限強化」を絶対条件として突きつけています。
現在も、ウクライナ議会でこれらの法案が一時ブロックされた際に、EUが即座に支援金の凍結を示唆するなど、実利を人質にとった外圧が最も強力な是正力となっているようです。また、今回、大統領府の最側近や閣僚が相次いで失脚しているのは、ウクライナの「国家汚職対策局」などの独立捜査機関が、戦時下であっても聖域なく捜査を行えている証拠でもあります。
しかし、世論や解任された前国防相らからは「ゼレンスキー大統領はトカゲの尻尾切りのように側近を解任し幕引きを図っているが、システム自体の根深い腐敗を本気で変えようとしていない」との批判も噴出しており、今後は大統領自身の任命責任や説明責任がより厳しく問われる局面へ移行することになりそうです。
(つづく)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。









