泥沼日本経済の救済策

政治経済学者 植草一秀

 「失われた30年」と言われる。日本のなかで日本だけを見ていると気付かない。視界を世界に広げると「失われた30年」が鮮明になる。

 日本円の力の変化を示す指標がある。「実効実質為替レート」。「実効」は多通貨との関係を勘案していることを示す。他国通貨はドルだけでない。ユーロも人民元もルーブルもある。貿易量の比重で加重平均する。実質は内外インフレ率格差を調整する。日本のインフレがゼロで米国のインフレが10%だったら、円が10%上昇して購買力は不変になる。1年前の1ドル100円と現在の1ドル90円が同じ水準ということになる。

 円の実力を示す実質実効レートの56年間の推移を見る。2020年を100とする。

 日本円がもっとも強かったのが1995年4月。指数は194.2一番弱いのが2026年7月の65.04。これは1970年8月の73.53よりも低い。日本円は1970年当時よりも弱い。当時のドル円は1ドル360円。海外旅行には気の遠くなる費用がかかった。このときの日本円よりも現在の日本円が弱い。

 外国人は日本に殺到する。年間4,000万人が来日する。日本が素晴らしい国だから訪日客が多いというのは正しくない。日本円が暴落しているから訪日客が多いというのが実態だ。

 円の価値は95年の194が2026年に65になった。円の価値は3分の1以下に暴落した。海外のものは3倍に値上がり。外国人は95年時点と比較し3分の1の価格で日本の財やサービスを購入できる。何よりも重大なことは円暴落で日本が外国資本に乗っ取られていること。これが最大の経済安全保障問題だ。

 高市早苗氏は岸田内閣で経済安全保障相に就任した。しかし、日本円暴落の問題を指摘したことが一度もない。完全な経済音痴である。このような人物が日本を守れるわけがない。外資による日本乗っ取りのリスクを認識して円防衛策を講じる。これが経済安全保障政策の「いろはのい」である。

 もう一つのグラフを提示しよう。各国名目GDP(ドル換算)の推移だ。1995年から2025年までの推移が示されている。

 1995年、日本のGDPは5.6兆ドル。米国のGDPは7.6兆ドル。1995年に日本のGDPは米国に肉薄した堂々の世界第2位の水準だった。日本のGDPは2010年に中国に抜かれて第3位に転落。2023年にはドイツにも抜かれて第4位に転落した。

1995年を基準とすると米国のGDPは2025年に4倍になった。中国のGDPは2025年に27倍になった。その一方で日本のGDPは1995年の5分の4に縮小した。30年が経過してGDPは5分の4に縮小したのだ。いまや米国GDPは日本の7倍、中国GDPは日本の5倍弱である。日本経済だけが30年間、一歩も前進できなかった、というより、後退した。円ベースで検証しても日本の実質GDPは1994年以降、ほとんど成長していない。実質GDP成長率の平均値はわずか0.6%。ほとんどゼロ成長が30年以上にわたって持続している。

 このなかで興味深いデータがある。個人消費の推移だ。GDPは年率0.6%ではあるが、辛うじて拡大してきた。わずかながらもGDPは拡大してきた。

 ところが、個人消費は違う。個人消費は「あるとき」を境に「減少」に転じた。「あるとき」とは2014年4月。日本の個人消費は2014年4月を境に減少トレンドに転じたのである。

 個人消費はGDPの約半分を占める。景気が良くなるか、悪くなるか。決定する最大の要因は個人消費動向だ。その個人消費が減少トレンドに転じた。日本経済が低迷を続けるのは当然のことと言える。2014年4月を境になぜ個人消費は減少トレンドに転じたのか。このとき何があったのか。

 消費税の税率が5%から8%になった。消費税率が5%の時代は、消費は辛うじて拡大基調を維持した。ところが、消費税率が5%を超えて8%に引き上げられた瞬間から減少に転じた。消費税率は2019年10月にさらに10%へと引き上げられた。このときも経済に激烈な影響が広がったが、直後にコロナ騒動が勃発したので「消費税不況」が隠蔽された。コロナがなければ消費税による日本経済転落は誰の目にも鮮明に映されたはずだ。それほど消費税増税の影響は大きい。

 消費税とは正確に表現すると「消費懲罰税」である。消費すると消費金額の10%が「懲罰」として召し上げられる。消費をすると懲罰があるのだから、消費者は消費を極力抑制することになる。これが2014年4月以降に日本の個人消費が減少トレンドに転じた理由だ。

 日本企業は膨大な内部留保を溜め込んでいる。企業が内部留保に資金を滞留させずに、賃金で支払ったり、投資に回したりすることを促進するために、内部留保に課税してはどうかとの提案がある。しかし、この提案に対してすかさず反論が示される。「内部留保課税は二重課税だ」というもの。内部留保は法人税の課税後利益の処分の一形態。内部留保に課税すると二重課税になるとの主張だ。しかし、それを言うなら消費税もれっきとした二重課税である。消費者は課税後所得である可処分所得から消費する。そのときに、消費金額の10%を税金で徴収されるから、これも二重課税である。

 日本経済が衰退の30年を推移している理由は複数あるが、そのなかの重要な理由の一つが消費税増税である。まずは、消費税率を5%に引き下げるべきだ。消費税の税収は全額が法人税と所得税の減税に使われてしまった。社会保障拡充には1円も使われていない。

 格差拡大時代の税制においては、能力に応じた課税=応能課税である所得税と法人税のウエイトを引き上げて、大衆課税である消費税のウエイトを引き下げるのが妥当である。円暴落の是正と消費税恒久減税が最優先の経済政策課題である。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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