【クローズアップ】「後工程といえば福岡」を次の10年に 20年の蓄積を成長につなぐ半導体戦略

 TSMCの熊本進出を契機に九州で半導体投資が加速するなか、福岡県は「後工程」を軸に独自の産業戦略を強めている。約400社の関連企業集積に加え、公的な後工程支援拠点、人材育成、研究開発助成、企業誘致などを組み合わせ、地場企業の参入と大型投資の呼び込みを狙う。2026年には、今後10年間で官民設備投資4,960億円を目指すクラスター計画も策定した。20年超にわたる蓄積を次の成長へどうつなげるのか。半導体産業展の現場と県の施策から、その現在地を追った。

第3回[九州]半導体産業展
過去最大規模に

第3回九州半導体産業展の様子
第3回九州半導体産業展の様子

    県の後工程戦略を象徴する場となったのが、第3回[九州]半導体産業展だ。県も後援に名を連ねた。2024年の第1回は261社、25年の第2回は約400社だったが、今回は543社と過去最大になり、同時開催の「第1回[九州]次世代エネルギー展」を含めると609社になった。来場者は1万4,000人を見込んだ。

 初日の午前9時40分からの開会テープカット式には、安浦寛人実行委員長、甘利明自民党半導体戦略推進議員連盟名誉会長、服部誠太郎知事らが参列。会期中は甘利氏の特別講演「AI覇権と半導体主権」のほか、Rapidus(株)、ルネサスエレクトロニクス(株)、三菱電機(株)、(株)アムコー・テクノロジー・ジャパンなどが講演した。今回は九州で手薄とされる設計分野の強化を狙い、本展初の企画エリア「半導体設計パビリオン」も開設された。

 県はB館に「福岡県ブース」を設け、県内企業22社の出展を支援した。県担当課は「自力では出展費用を賄えない優れた技術を持つ企業を後押しするのが狙い」と説明した。北九州市に研究開発拠点を置く(株)Power Diamond Systemsによるダイヤモンドパワーデバイス、福岡市のKNE(株)の後工程自動化製造装置、日清紡マイクロデバイス福岡(株)のウエハファウンドリーサービス、田川産業㈱の4,000t超高圧プレスによるセラミック製品など、特色ある技術が並んだ。

 26年9月の「SEMICON Taiwan」には県内企業7社と合同で出展した。台湾は半導体の本拠地だけに出展企業の評価が高く、県の提案を受け、26年度から九州各県が連携する「九州パビリオン」での出展も始まった。台湾企業を九州に招く九州半導体合同商談会も、27年1~2月ごろの開催を予定している。

約400社の集積と20年来の蓄積

 福岡県には、パワー半導体で世界的なシェアを持つ三菱電機やローム(株)をはじめ、約400社の半導体関連企業が集積している。検査装置の上野精機(株)、リードフレームの(株)三井ハイテック、樹脂材料の住友ベークライト(株)など、後工程のサプライチェーンで中核を担う企業も多い。県は2000年代初頭から「シリコンシーベルト福岡プロジェクト」で設計・開発拠点の形成に取り組んできた。

 近年は民間投資も加速している。後工程受託で世界シェア2位の米アムコー・テクノロジーは、25年4月に国内初の研究開発拠点を福岡市博多区に開設。三菱電機は約100億円を投じ、パワーデバイス製作所福岡地区(福岡市西区)に新工場棟を26年4月に竣工した。リンテック(株)も約200億円を投じ、糸島市に研究施設「半導体ソリューションラボ」を28年10月に竣工させる計画で、26年8月に県・糸島市と立地協定を結んだ。半導体搬送容器を手がける台湾の家登精密工業も久留米市で工場建設を進めており、投資は県内各地に広がる。

国内唯一の公的後工程拠点
15年で270社支援

福岡超集積半導体ソリューションセンター
福岡超集積半導体ソリューションセンター

 県施策の核が、25年8月に糸島市で開所した「福岡超集積半導体ソリューションセンター」だ。前身は11年設置の「三次元半導体研究センター」と「社会システム実証センター」で、両センターを統合して再出発した。三次元積層やチップレット集積などの設計・試作から評価・解析、実証までをワンストップで支援する公的機関は国内でここだけと県は位置づける。

 15年前の前身センター設立時には、当時のセンター長が構想を主導した。県担当課は「後工程を研究支援の柱に据える発想は当初からあった。ようやく時代が追いついてきた」と語る。AI半導体の普及で前工程と後工程の境界は曖昧になり、中間工程の技術革新が進むいま、後工程支援拠点の価値は高まっている。前身時代からの支援実績は約270社・5,000件以上に達する。センター長には福岡出身で、材料分野の第一人者である(国研)物質・材料研究機構(NIMS)理事長特別補佐の知京豊裕氏を招いた。支援内容は技術指導、後工程技術人材の育成、共同開発の推進、研究開発機能の強化の4本柱で、近年は企業版ふるさと納税の活用で新設備の導入も進めている。

 参入障壁が前工程より低いため、県内の中小企業の支援につながりやすい。前工程の先端分野は巨額の投資が必要で、新規参入の余地は限られる。後工程は製品ごとにパッケージのかたちが違い、少量多品種の要素が強く、加工精度もミクロンレベルが多い。15年の支援ノウハウを生かせる領域でもある。

産学官1,372会員

 これらの施策を束ねるのが、22年6月に設立された「福岡県半導体・デジタル産業振興会議」だ。会員は26年8月末時点で1,372に上り、企業が953社を占める。入会・年会費は無料で、県の半導体関連補助金の多くは会員であることが応募要件となっている。会員には半導体関連企業だけではなく、ロボット、物流、金融、人材派遣など産業エコシステムを構成する幅広い業種が名を連ねる。

 振興会議のルーツも20年近くある。前身組織は2000年代から活動し、TSMCの熊本進出を契機に半導体が再び盛り上がったことで再出発した経緯がある。会長は津田純嗣㈱安川電機特別顧問で、顧問に文部科学省や九州経済産業局、県知事と両政令市長が名を連ね、事務局は県のほか両政令市も務める。

 毎年開く総会・講演会では、26年7月には「フィジカルAI×半導体」をテーマに講演会を開き、エヌビディア合同会社の堀内朗エンタープライズマーケティング本部長が基調講演した。服部誠太郎知事は「『後工程といえば福岡』といわれる拠点を目指す」と強調している。

積み重ねてきた人材育成
組織改革で受講者急増

 人材面では、23年8月に開設された「福岡半導体リスキリングセンター」が軸となる。センター長は東京大学特別教授の黒田忠広氏。半導体を「作る側」と「使う側」に分けた講座を用意し、県内中小企業は受講料が無料となる。Webでの受講も可能であることから、約6割が県外からの受講者で、居住地は全国41都道府県におよぶ。

 県は以前から理工系人材の育成に取り組んできた。全国に理工系人材育成の施設は多いが、経済産業省関係者は「半導体に特化した育成機関は珍しい」と評価するという。県は27年度までの5年間で2万5,000人を育成する目標を掲げている。受講者は26年8月末時点で2万人を突破しており、担当課は「順当にいけば期内に達成できる」と見込む。

 後工程講座の人気も高い。26年1月の公開講座「半導体後工程の基礎」には300人以上が受講し、満足度は93%に達した。25年度からは超集積センターとのコラボ講座も始まり、座学の後にクリーンスーツを着て実機を使う実技まで学べる。今年度は高専・大学・大学院生が全工程を企業訪問で学ぶ取り組みも始めた。

補助金と伴走支援で
中小の参入を促す

 県内中小企業の後工程参入を直接支援するのが、(公財)福岡県産業・科学技術振興財団(ふくおかIST)が実施する「半導体後工程関連製品開発支援事業」だ。名称や形態を変えながら長年続けてきた補助事業で、26年度の2次募集では、実装設計、製造工程、関連装置、材料などの開発を対象に、可能性試験で最大300万円、製品開発で最大825万円を補助する。賃上げ額に応じて補助率を2分の1から4分の3に引き上げる仕組みも取り入れた。今年度は半導体を使う側の企業を支援する「AIデバイス開発支援事業」も新設した。

 合わせて、半導体業界に精通した「半導体取引拡大アドバイザー」を無料で派遣し、新規参入やビジネスマッチングを伴走支援する。同財団によると、相談の約3割が新規参入、約4割が新分野参入で、販路・受注拡大や共同研究開発に至った案件も出ているという。

 26年度当初予算では「福岡県グリーンデバイス開発生産拠点推進費」として6億1,438万円を計上した。このうち5億円を同センターの最先端機器導入に充てるほか、後工程関連製品の研究開発助成に約3,889万円、全国初とする後工程の実習講座に約642万円、産業展出展支援に約852万円を配分した。振興会議の運営費(約529万円)は別事業だ。

 企業誘致では、福岡県企業立地促進交付金の対象に半導体関連も含まれ、投資額の最大10%を助成する。限度額は通常10億円で、設備投資額に応じて最大50億円まで引き上げられる。県担当課は「九州は電力が安いことが魅力」と語る。産業団地については22~26年度の5年間で整備を進めており、25年3月末時点の整備着手面積は計84.4haに達した。誘致は製造拠点と研究開発拠点の「両睨み」で進めており、東京エレクトロン九州㈱が福岡市にソフトウェア開発拠点を置いたほか、暮らしやすさや人材の確保しやすさを背景にした開発拠点の誘致実績も積み上がっている。

クラスター計画策定
官民投資4,960億円目指す

 県は26年8月、国の地域未来戦略に基づく「半導体分野における地域産業クラスター計画」を策定。服部知事は8月末に官邸を訪れ、高市総理も出席した会議で計画の概要を紹介した。計画は後工程産業領域を対象に、10年で官民設備投資累計4,960億円などを掲げ、達成率が低ければ5年経過時に見直す。対象区域は九大学研都市地域(福岡市・糸島市)、北九州市、筑後市・うきは市・広川町で、筑豊は明示していない。

 政策パッケージは、①補助金や展示会・台湾企業との商談会を通じた中小企業の参入強化、②センターの機能強化と九州大学・九州工業大学との共同研究体制の構築、③人材育成の強化、④立地交付金やグリーンアジア国際戦略総合特区を活用した大手企業誘致と道路整備の4本柱だ。センターは設備の入れ替えで機能を高めるとともに、実用化に時間がかかる次世代技術も視野に入れて産学官で開発を進める。アジア企業とのネットワーク構築も来年度以降、事業化を検討する。

 担当課は「闇雲に注目分野をやりたいのではなく、20年超の蓄積がベースだ。絵に描いた餅ではない」と強調する。計画の策定も、高市政権の政策に合わせて急いだものではなく、センターをリニューアルして後工程支援を強化しようとしていた県の取り組みが、国の政策と方向性が一致した結果だという。

 課題も明確だ。計画自体も、県内企業が世界的な大手企業との取引に十分参入できていないこと、熊本のTSMCのような地域のサプライチェーンに大きなインパクトを与える世界的企業が立地していないことを認めている。後工程世界最大手の台湾ASEの北九州市進出は、24年7月の用地取得仮契約から2年余り経過したが正式決定に至っていない。九州全体では28~34年にかけて年300人の半導体人材が不足するとの見通しもある。

 研究拠点と人材育成という土台は、20年の積み重ねを経て整いつつある。今後10年で、それを大型投資の呼び込みと地場企業の受注拡大という成果に変えられるか。「新生シリコンアイランド九州」における福岡の存在感は、その成否にかかっている。

【岩本願】

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