国民スポーツ大会(国スポ)、全国障がい者スポーツ大会(全障スポ)が佐賀県で開催されてから、2年余りが経過した。佐賀県では、SAGAスポーツピラミッド構想(SSP構想)に基づき、スポーツを生かした独自のまちづくりの展開が進められている。SAGAアリーナを核としたスポーツコンプレックス「SAGAサンライズパーク」がその中心となっており、周辺への波及効果も見られるようになった。今回は、SSP構想の背景と狙いや、そのなかでの国スポの位置づけにつき振り返るとともに、同構想の効果につきまちづくりの観点から検証していく。

SAGAアリーナ前景
SSP構想とは:
その狙いときっかけ
SAGAスポーツピラミッド構想(以下、SSP構想)については、「SAGA SSP」サイトなどで次のように記載されている。
「世界に挑戦する佐賀ゆかりのトップアスリートの育成を通じてスポーツ文化(する、観る、支える、育てる、稼ぐ)の裾野を拡大し、さらなるトップアスリートの育成につながる好循環を確立することで、スポーツのチカラを活かした人づくり、地域づくりを進めるプロジェクト」。
同構想は、「アスリートスポーツで食べていける社会」「スポーツを生かしたビジネスシーンが広がる社会」のビジョンの下、「人材育成」「練習環境充実」「就職支援」「支える文化」「スポーツビジネス」の5つの重点分野を掲げている。目指すのは、一部競技者だけに特化した「スポーツだけ」の政策ではない。スポーツ以外の幅広い分野と連携して多様な層を巻き込み、広く企業・団体・市民に利益をもたらす「地域振興策」のビジョンである。
2018年に基本方針策定のうえ始動したSSP構想は、23年のSAGAアリーナやサロンパスアリーナの開業、24年の国スポ・全障スポ開催を経て、25年の「SAGAスポーツピラミッド構想推進条例」の制定に至る。その間、20年には、コロナ禍に見舞われて高校総体の機会を失った高校生に対し、民間の協賛も取り付けたうえで、代替大会「SAGA2020 SSP杯」を開催した。
2024年国スポと
SSP構想
24年に佐賀県で開催された国スポは、過去の国体にはない画期的な取り組みがいくつも見られた。しかし、佐賀県としては、国スポは「ゴール」ではなく、SSP構想をさらに発展させるための「通過点」の位置づけだった。
開会式はSAGAサンライズパーク内の陸上競技場SAGAスタジアムで、閉会式はSAGAアリーナで開催された。開会式では隊列を組んだかたちの入場行進を行わなかった一方で、閉会式では屋内会場ならではの光と音の演出が施された。従来なら、開閉会式とも陸上競技場で実施し、観客席に屋根をつけるなど陸上競技場を重点的に整備するのだが、佐賀県の場合は異なった。SAGAスタジアムに観客席の屋根がない分、SAGAアリーナが充実したかたちになった。
佐賀県内の全市町に、何らかの競技会場が設けられた。そのなかには、学校の体育館などの既存施設を活用したものも多い。従来なら屋内競技の主会場を複数のコートがある「体育館」として整備し、多くの競技をここで開催するのだが、佐賀の場合は異なる。SAGAアリーナで開催されたのは、バレーボール成年女子、体操、柔道だけだ。そもそもここには、大規模大会に使えるコートが1面しかない。これは、国スポ開催が主目的の屋内競技だけのための「体育館」ではなく、プロスポーツやライブといったエンターテインメントの利用やコンベンション開催を目的とした「アリーナ」として整備されているからだ。この結果、拠点であるSAGAアリーナへ集中的に投資が行えた一方、大会期間中は県民が幅広くスポーツに触れることができた。従来型の「複数コートのある体育館の整備」では、大会後は十分に利用されず、整備の波及効果が一部競技者にとどまるリスクがある。
その他、佐賀の国スポでは、夜間の試合開催、観客席でのアルコール販売など、県民が観客として幅広くスポーツを楽しめるための従来の「国体」にない取り組みが見られた。
結果、佐賀新聞社による大会後の県民世論調査では、約87%から「やってよかった」との回答を得ている(※1)。
※1:佐賀新聞“「佐賀のよさアピールできた」 国スポ・全障スポ「開催してよかった」87% 佐賀県民世論調査2024” 2024.12.17
構想の体現と波及の場
SAGAアリーナ
SSP構想の中心となる施設が、SAGAサンライズパーク内の中心となるSAGAアリーナである。建設費約257億円をかけて23年5月に開業した同アリーナは、現在、Bリーグプレミアの佐賀バルーナーズの本拠地であるほか、SVリーグ女子SAGA久光スプリングスもホームゲームを開催する。バルーナーズ戦での場内を包む、熱狂的な「Go!Go!SAGA!」の声援が、私の記憶に残っている。
SAGAアリーナは、一部競技者が利用するだけの場ではなく、多くの県民が「観て楽しめる場」として想定されている。そのため、前述の通り、エンターテインメントやコンベンションの利用が想定され、公式競技に利用可能なコートはメインアリーナの1面しかない(練習用のサブアリーナは併設されている)。
同アリーナは、メインアリーナに最大約8,400席を擁し、車いす席、マス席、カップル席、ファミリー・グループ席といった多様な座席を備える。3階部分のプレミアムフロアには、プレミアムスイートルーム、プレミアムルーム、スイートラウンジ、プレミアムラウンジが設けられている。観客席の角度は最大35度で、どの席からも視界を遮られることなく観戦できる環境が整っている。車いすの動線からトイレの動線に至るまで、きめ細かな工夫を施した設計がなされている。
26~27シーズン(レギュラーシーズン)のホームゲーム開催日数は、バルーナーズ30、スプリングス10である。両チームの公式戦以外には、別表の通りのイベントが開催され、この11月にはMrs. GREEN APPLEやMr.Childrenのコンサート、元金メダリストの羽生結弦氏のアイスショーが開催される。こうしたイベント開催実績からは、スポーツに限らない「アリーナ」としての広範な利用という目的を、SAGAアリーナは果たしているといえるだろう。

23~25年度の入場者数は130万人を超え、1年あたり換算で佐賀県人口の半分以上になる。準備や撤収を含めた実質的な稼働日は、年間200日を超えている(※2)。
周辺への波及効果も明確に定着してきた。JR佐賀駅周辺では複数のホテルの新規開業が予定されている。26年地価調査(価格時点7月1日)では、付近の商業地の基準地佐賀(県)5-1が年間19.2%の上昇を示した。
このように、SAGAアリーナの設計や稼働実績は、SSP構想の目指す「多様な人がスポーツを生かす」「スポーツの裾野拡大」を地で行くもので、その波及効果も周辺に徐々に表れている。
※2:日本経済新聞“SAGAアリーナ開業3年 130万人超来場、稼ぐ施設に 試合やライブ、稼働率高く 周辺でホテル建設相次ぐ” 2026.7.7
SAGAアリーナ、SAGAアクア(水泳場)を望む
周辺にも広がる
SSPを生かした整備
SSPを生かした整備は、SAGAアリーナ周辺だけでなく県内の各市町にも見られる。1つは、駅前不動産スタジアムの近傍にあり、23年5月に開業した鳥栖市のサロンパスアリーナだ。スプリングスの練習拠点であり、ホームゲームも開催される同アリーナは、サブアリーナ、トレーニングルーム、キッズルーム、コミュニティルームを一般市民にも開放し、トップ選手を市民が観ることができる環境をつくっている。避難所としての機能も備え、災害時には住民の避難所や他自治体からの応援職員の滞在場所として提供される。
佐賀市、鳥栖市、太良町にある高校生アスリート寮も、SSP構想の代表事例だ。企業社宅や社員寮、民間アパートを活用したこれらの寮は、県外出身者を含め佐賀県で活躍したい高校生アスリートの居住空間となっている。入寮者のスポーツのジャンルは多種多様であるために、競技の垣根を越えた交流や情報交換もできる。スポーツ栄養士監修の食事が提供され、栄養セミナーも定期的に開催される。県外への選手流出を防ぎ、全国から有望な高校生を受け入れることが狙いだ。
伊万里実業高校にはホッケー、鳥栖工業高校にはレスリング、多久高校にはクライミングと、各競技で有力な高校の敷地内にアスリートの育成拠点となる「SSP競技別育成強化センター」が設けられている。
こうしたSSP構想を通じた取り組みは、民間企業や教育機関と連携しているのも特徴。前述以外にも、アスリートのセカンドキャリアや女性アスリートのサポートなど、SSP構想による取り組みは多岐にわたる。
国スポは通過点:
SSPのまちの未来
以上の取り組みを見ると、佐賀県のSSP構想は、「スポーツでお金が回りアスリートや市民が幸せになり、地域が豊かになる」といった目標を具現化し、未来に向けて着実に進めているように映る。これは、国スポを目標にして大会が終われば終わりではなく、あくまでその後の地域振興やアスリートのキャリア形成をターゲットとしたビジョンがあったからこそ、できたものだ。長期的な目標の設定や多様な主体の巻き込みといった要素は、スポーツだけではなく、文化・アート・音楽…といったさまざまなまちづくりの切り口として生かせるものになるだろう。
また、筆者としては、スポーツが直接的に影響を受ける環境・気候変動対策に広がっていけば、構想はより深いものになると考える。
<プロフィール>
島倉孝之(しまくら・たかゆき)
富山県射水市出身。不動産系シンクタンクの研究員として都市計画、資産評価、国連ハビタット関連業務などに従事。海外開催の起業支援プログラム参加後は、気候対策とヘルスケアを複合させたビジネス構想を進めながらライターとして活動。2024年に大谷翔平選手のコラム記事を連載。脱炭素まちづくり公認ファシリテーター。

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