2024年12月22日( 日 )

進むインフラの「高齢化」に挑む

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九州大学 副学長
大学院工学研究院 社会基盤部門 教授 日野 伸一

インフラの診断士

九州大学 副学長 大学院工学研究院 社会基盤部門 日野 伸一 教授<

九州大学 副学長
大学院工学研究院 社会基盤部門 日野 伸一 教授

 専門は土木構造物の設計と維持管理で、とくに既設の橋の健全度診断を行っています。経年劣化によって傷んできている道路や橋などの損傷原因を解明し、どのように対処すればよいのか、という相談を受けています。地方自治体や九州地方整備局、高速道路会社からの要請が多く、現場に出向き、状況観察、情報収集し、診断させていただいています。土木構築造物は、新しい製品をつくり出して、終わりではありません。維持管理では同じ製品でも、その使われ方や環境によって、損傷状態には大きな差が生じます。それが難しいところであり、面白いところなのです。

 維持管理において、橋や道路の健全度診断は、人にとっての健康診断と同様です。患者の症状を見ながら、原因を探って、処方せんを書くように、私たちもコンクリートや鋼材でできた構造物を診断しながら、解決策を探っています。1970年代の高度経済成長期に整備された道路や橋が最も多く、それから40年以上が経過した今、あちらこちらで症状が出始めているのです。人間社会では「高齢化」と言われて久しいですが、実は土木構造物の高齢化も確実に進んでいます。

人的、資金的不足が課題

 小さなものまで含めれば、日本には70万の道路橋があると言われています。長さ15m以上の本格的な橋は15万橋。そのうち、80%以上は地方自治体が管理しています。県や福岡市のような政令都市では、大学で専門知識を身につけた職員が配属され、ある程度の財政も整っています。しかし、多くの地方自治体ではそのような人材もいないし、財政的な余裕もありません。これが土木構造物の維持管理において、最も深刻な問題なのです。少子高齢化で、税収が減っていく。インフラの維持管理にまで、回す余裕がなく、土木を学ぼうとする若い人材は集まらない。先を見据えたときに、頭の痛い状況にあります。

産官学連携 変化するニーズ

 土木工事は多くが公共性の高いもので、特定の個人のためのものではありません。建築工事では民間からの発注も多く、依頼者のニーズに合えば、いくらでも凝ったものをつくることができます。しかし、公共構造物は予算の制約があり、経済性が要求されます。学術的立場の研究者、そして自治体の職員、民間業者とそれぞれ立場は違いますが、三者共同で1つのことを成し遂げる過程には魅力を感じます。

 時代とともに、社会ニーズはどんどん変化していくと思います。昔はとにかく安く、大量につくることが第一とされていました。それが成熟期になり、環境に配慮したモノ、工法が優先されるようになってきました。さらに今は安全、安心のための防災意識が求められています。教育機関としての九州大学土木系組織の将来構想も、防災と環境の2つの視点で展開しています。おそらくこれから30年先には新たなテーマが生まれていると思いますが、変わらないのは人が地球上に住んで、営みを続ける以上は、インフラが必ず必要になるということです。

 日本全体を考えたとき、国内の土木・建築はピークを過ぎています。せっかくこれほどの高い技術力を持っているのですから、海外に打って出ることも考えてほしいのです。一企業だけの努力では限界があるので、国も支援を拡大してほしいと思います。(談)

※記事内容は2015年8月31日時点のもの

<INFORMATION>
九州大学
総 長:久保 千春
所在地:福岡市西区元岡744
創 立:1911年
TEL:092-642-2111
URL:http://www.kyushu-u.ac.jp/

<プロフィール>
yosida_s日野 伸一(ひの しんいち)
愛媛県出身、九州大学工学部土木工学科卒業。同大学院工学研究科博士課程修了。九州大学工学部助手、助教授、山口大学工学部助教授などを経て九州大学教授。2009年より工学研究院長、工学部長を歴任し、現在に至る。

 

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