2024年11月22日( 金 )

高浜原発差し止め決定の2つの衝撃、渦巻く歓迎と憎悪(中)

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吉田所長「本当に死んだと思った」

s0 大津地裁決定が与えた衝撃のもう1つは、IAEA(国際原子力機関)の深層防護の考え方のうち第4層防護や第5層防護が十分か否かという新規制基準の最大の問題点を直撃したからだ。深層防護とは、電力会社がPRしてきた閉じ込め機能の「5重の壁」とはまったく異なった考え方だ。
 第4層防護というのは、炉心損傷や放射性物質の重大な放出を防止するのに失敗した場合に、格納容器の防護を含め、放射性物質の放出を限りなく低くするものであり、第5層防護は、大規模な放射性物質の放出による影響を緩和する緊急時対応とされている。
 第3層までは、炉心損傷や放射性物質の重大な放出の「防止」の段階、第4層以降は、設計基準外の出来事への対策であり、「防止」に失敗した後の事故の影響の「緩和」の段階といえる。

 事故前の旧安全基準は、過酷事故が起きないという前提であり、仮に起きても、原発立地指針によって、原子力発電所敷地境界外では、積算被曝線量250mSV以下しか公衆被爆が起きないことが条件とされてきた。
 ところが、福島の事故によって、年間積算線量が20mSV超の避難区域が設定され、広大な国土が放射能によって汚染され、人間が居住できなくなった。帰還困難地域なら約5年間、居住制限区域では約12年間で、積算被曝線量250mSVを超えてしまう。

 吉田昌郎福島第一原発所長(当時、故人)は「東日本壊滅」を覚悟したと政府事故調の事情聴取で明らかにしている。約400キロパスカルという圧力に耐える格納容器さえ破壊される恐れに直面した。
 政府事故調の調書は、吉田氏の発言をこう記している。
 「(2号機は)完全に燃料露出しているにもかかわらず、減圧もできない、水も入らないという状態が来ましたので、私はほんとうにここだけは1番思い出したくないところです。ここで何回目かに死んだと、ここで本当に死んだと思ったんです」「このまま水が入らないでメルトして、完全に格納容器の圧力をぶち破って燃料が全部出ていってしまう。そうすると、その分の放射能が全部外にまき散らされる最悪の事故ですから」。
 吉田所長によれば、「神の手」によってかろうじて格納容器の爆発をまぬがれたようなものだ。その“幸運”な結果でも、2号機の格納容器は破損し、水素爆発で原子炉建屋が吹き飛んだ1、3号機とは桁外れの放射性物質が放出されたと考えられている。

第4層防護の不備――新規制基準のアキレス腱

 元燃焼炉設計技術者の中西正之氏は、「福島の事故後、海外から、日本の新規制はIAEAの深層防護の第4層、第5層の安全対策を行うべきと追及された。日本の安全基準は、深層防護の設計思想そのものへの理解が不十分で、第4層をおろそかにしてきた」と指摘する。福島の事故を受けた新規制基準に対しても、「IAEAの第5層は制定しないが、第4層については、一応は制定すると決めた。しかし、第4層防護は極めて不十分」という。
 たとえば、「IAEAのアクシデントマネジメン卜の手引きでは、『シビアアクシデント(過酷事故)の進展中に生じる可能性のある物理現象(水蒸気爆発、格納容器の直接加熱と水素燃焼など)に起因するものを含めて扱うべきである。この過程において、解析では頻繁には考慮されない問題、すなわち、極めて起こりそうもない設備の故障や異常動作などの追加的なことも考慮されるべきである』とあるが、新規制基準は、最も重要と思われる水蒸気爆発については、起こらないことを検討するとあるだけで、水蒸気爆発対策について項目は1行もない」と指摘する。

 第4層防護の不備は、いわば、新規制基準の最大のアキレス腱だ。
 大津地裁の決定文には、第4層防護という言葉はないが、福島の事故を踏まえた過酷事故対策についての設計思想や、外部電源喪失時の対応策の問題に危惧すべき点があると判断した。「過酷事故対策の設計思想」とは、「対策の見落としにより過酷事故が生じたとしても、致命的な状態に陥らないようにすることができるとの思想」(大津地裁決定)であり、外部電源喪失時の対応策とは、第4層防護にほかならない。また、第5層防護の1つである避難計画について、「国家主導での具体的で可視的な避難計画が早急に策定されることが必要」と述べた。
 原発推進派が大津地裁決定を憎悪するのも、新規制基準の1番痛い点を突かれたからかもしれない。

(つづく)
【山本 弘之】

 
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(後)

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