日本が陥った死に至る病、処方箋は公共投資でデフレ脱却(後)
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京都大学 大学院工学研究科・都市社会工学専攻 教授 藤井 聡 氏
効果的な投資をどうする、蘇生する最後のチャンス
――少し前に全国の自治体で入札不調が相次ぎましたが、それもこれまでの話と関係あるのでしょうか。
藤井 入札不調に関しては、その多くが発注者側に責任があるというのが私の調査研究で明らかになっています。受注貧乏になるような仕事は誰もしたくないのは当然で、きちんと民間が応札するような入札になっていないのです。つまり、発注者側の予定価格が安すぎる、歩掛りが低い、工事の不確実性が高そうで掘ってみないとわからない。そんな発注の場合に不調が生じがちとなる。
これは発注者側の技術力が落ちているのが最大の原因です。公共投資額が落ちてきて、役所内でも技術者の需要が減り、それを受けて各自治体の技術者が少なくなってきたという構造的な問題があります。――効果的な公共投資の事例にはどんなものがありますか。また、福岡ならどんなインフラ投資をしていくのが良いでしょうか。
藤井 やはり一番は新幹線ですね。北陸新幹線の成功を見れば明白ですが、都市と都市を高速鉄道で結べば、人が流動し、需要と投資が生まれ、供給が増えて経済成長していきます。その起爆装置となりうるのです。北陸や九州の新幹線が地域にもたらしたディープインパクト,リニア新幹線の効果,全国で現実的に求められる新幹線構想(大分,高松,長岡-上越,山形など)の具体的な財源調達方法など、今年5月に発刊した『「スーパー新幹線」が日本を救う』(文芸春秋)でも指摘しました。
熊本地震では被害を受けた九州新幹線が極めて迅速に復旧されました。関係各位のご努力に敬意を表したいと思います。鉄道は道路と同様、公益性が極めて高いインフラですが、道路とは異なり事業者が民間企業であることから支援が限定的となっているのが現状です。包括的対応のあり方が問われています.福岡と鹿児島の間にはすでに九州新幹線がありますが、次は大分と北九州の間に高速鉄道をつくるのが必要だと思います。別の地方においては赤字路線になる可能性もありますが、ここの路線なら十分に黒字化できますし、確実に儲かるビジネスになります。また博多港が九州の観光と物流を支えていますが、港湾に関しては一部を政府が投資しないといけない公共的な面もあれば、岸壁から背後は民間が所有し開発するという側面もある。官と民が協力して雇用も需要も生み出すためにも、これを前倒しでやっていくのが重要です。
そもそもそんな投資は「200年かけてやります」では話になりません。たとえば港湾開発は5年以内で、新幹線は10年以内につくるとなれば景気回復します。東九州自動車道も粛々と全通させることが大事です。福岡市内では地下鉄の天神南駅と博多駅がようやくつながるという計画があるようですが、そうしたミッシングリンクの解消も最小の投資で最大の効果をもたらします。こうして福岡だけで考えても、さまざまな投資案件があります。そのための資金も、マイナス金利政策のあおりを受けて長期金利がマイナスでかつてないほど資金調達しやすくなっています。
今がデフレのどん底ではありますが、それを脱却して死に至る病から蘇生する最後のチャンスでもあるのです。(了)
【大根田 康介】<プロフィール>
藤井 聡(ふじい・さとし)
1968年奈良県生まれ。京都大学工学部卒、同大学院工学研究科修士課程修了後、同大学助手、スウェーデン・イエテボリ大学心理学科客員研究員、東京工業大学助教授、教授を経て、2009年より京都大学教授。現在は同大学院工学研究科教授。安倍内閣の内閣官房参与も務める。03年土木学会論文賞、05年日本行動計量学会林知己夫賞、06年「表現者」奨励賞、07年文部科学大臣表彰・若手科学者賞、09年日本社会心理学会奨励論文賞、同年度日本学術振興会賞等を受賞。関連記事
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