韓国経済ウォッチ~THADD配備決定がもたらす変化は?(後)
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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)
それでは、なぜ今の時期にTHADD配備が決まったのだろうか。また、THADD配備には、どのような背景があるのだろうか。
韓国は従来、中国との緊密な経済関係を配慮し、日米のミサイル防衛体制に入らないことを繰り返し強調してきた。しかし、北朝鮮のたび重なる挑発に、中国は何の牽制もしないどころか、むしろ中国は北朝鮮との関係も維持していて、それに韓国政府は失望するようになった。
経済が大事であることは間違いないが、国の安全なしには経済は成り立たない。そのため、韓国政府は経済よりも安保を優先し、今回の決定を下した。それに、北朝鮮の脅威が増大するなかで、米国のTHADD配備の要求を呑まざるを得なかったこともある。これ以上韓国が配備の決定を延ばすと、米国との関係も悪化するし、中国、ロシアには他の口実を与えかねない――。そのような判断を韓国政府では行ったようだ。
韓国は密かにTHADD配備の準備を進めてきたようだ。今回の決定で、韓国は中国との関係でルビコン川を渡ってしまったと、中国との今後の関係を懸念する専門家もいる。今回の選択は、韓国の世論調査では、反対より賛成の方が多かったものの、東アジアにおいて、米日韓と中ロ北の新冷戦構造が生まれることになるのではないかと警戒する向きもある。
ところが、今回のTHADD配備をめぐって、国内外にいろいろな議論が展開されていた。
韓国国内での議論のポイントは、2つある。1つは、THADDの電磁波の有害性に関する議論である。韓国には、2012年と13年に導入された、グリーンパインというレーダーがある。イスラエル製で、ミサイルに対する早期警報レーダーである。このグリーンパインのアクセス禁止区域は半径525mであるのに対して、今回のTHADDのアクセス禁止区域は半径100mである。すなわち、今まで運用していたグリーンパインに比べ、THADDは電磁波が弱いことになる。グリーンパインに対しては何の問題も提起しなかったのに、今さらTHADDの電磁波だけを問題視する反対派はおかしいと、専門家は言う。
もう1つは配備地域である。配備地域の条件としては、人口が少なく、北朝鮮を監視しやすいところがいい。しかし、今回は中国の反発も考慮する必要がある。その点を考慮すると、配備地域は韓国の西側より東側が候補になる。
対外的には、THADD配備に対する中国とロシアの反発と外交問題がある。韓国政府は発表の1日前に中国とロシアを配慮して、事前にTHADD配備の件を通知している。だが、その配慮にも関わらず、中国とロシアは猛反発している。
しかし、考えてみると、中国の態度はおかしい。THADDの配備を望まないなら、真剣に北朝鮮の核廃棄を説得すべきであった。それから探知距離のことを問題にし、中国はTHADD配備を反対しているが、専門家の話によると、前出したグリーンパインの有効探知距離は800km~1,000 kmで、THADDの有効探知距離は600km~800kmであるという。グリーンパインの方が探知距離が長いのに、今まで中国はグリーンパインのことは何も言わなかった。それなのに、急にTHADDの探知能力を問題にしている。
それに、THADDの運用モードには2つあって、1つは長距離モードで、もう1つは短距離モードだという。長距離モードの場合は、もっと遠くを探知するのには向いているが、迎撃はできないモードのようだ。一方、短距離モードは、遠くを探知することはできないが、迎撃はできるという。今回配備されるTHADDは、中国の反発により短距離モードで運用されることになると思うが、中国の主張する中国への監視は少しこじつけである。今回の反対はどちらかと言うと、米韓同盟が強化されることへの反発だろう。今後、配備地域の住民の説得、東北アジアでの緊張関係、中国の経済対抗措置などにいかに対応していくかに、韓国政府は神経を使うべきであろう。
(了)
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