天才投資家ジョージ・ソロスと冒険投資家ジム・ロジャーズの中国分析から何を学ぶか(2)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
2015年9月、アメリカを訪問した習近平国家主席をシアトルで迎えたのは、アメリカのIT長者たちであり、いずれも中国市場で成功を収めた顔ぶれが勢ぞろいしたものである。彼らはそれなりに中国当局と妥協しつつ、お互いのメリットを追求するサバイバル戦士ばかりであろう。グーグルと百度の自動走行車の開発提携など、成功事例は数限りない。
たびたび中国問題について発言を繰り返すソロスであるが、最も注目すべきポイントは「暴走する機関車・中国」にとっての安全装置はあるのか、というテーマであろう。ソロスが「21世紀の望ましい中国像」というテーマで講演を行った際のポイントは、「中国にとって大事な安全装置は政治と経済、社会の民主化を同じスピードで進められるかどうか」ということに尽きる。
政治と経済の両面において、自由で寛容度のある体制ができていなければ、経済という片方の車輪がスパークしたときに、車両全体を支えることはできない。そのような危機管理の一端として、「オープン・ソサエティー」という概念を中国にも広めようとしているのである。とはいえ、「9.11テロ」を境に中国国内の情勢が一変してしまったため、ソロスの中国に対するアドバイスは、実行に移されるにはまだまだ時間がかかりそうだ。
なぜなら、中国は国内において、不平、不満分子によるデモや爆破事件などテロ行為の急増を抑えるため、国内での愛国主義運動を強化し、普遍的な民主化の概念を封じ込める動きを加速してしまったからである。ここに「中国における民主化の限界が見えた」というのが、ソロスの見立てである。実際、中国では年間20万件を超える反政府デモが頻発している。その数は、増える一方だ。とはいえ、逆説的ではあるが、ソロスの分析では「中国を関与させない国際政治は歴史的に禍根を残すことになる」との視点も無視できない。そうした観点から中国のリスクとチャンスを言葉巧みに宣伝する稀代の投資家の真意を把握することは、無駄ではないだろう。
環境問題への取り組みはビジネスチャンスにもつながるわけで、もしアメリカや日本がうまく立ち回らなければ、中国はロシアとの関係強化に走るだろう。そうなれば、第3次世界大戦の可能性は一層現実化することになる。たしかに、ロシアの軍事費はGDPの10%に達し、中国も同様だ。ソロス曰く「ヨーロッパでは既に第3次大戦の口火が切られている」。
実は2012年からロシアと中国は、合同の軍事演習を繰り返している。15年には日本海を舞台に艦船22隻、戦闘機20機が参加する、大規模な海軍の共同訓練を展開した。16年9月には、南シナ海で同様の軍事訓練を実施するとの計画が発表されたばかりだ。年間7兆ドルもの物資が行き来する南シナ海をめぐっては、周辺国に限らず、アメリカや日本も関心を寄せざるを得ない状況が続いている。
米軍も監視体制を強めているわけで、軍事的対立が衝突に発展しかねないことが懸念される。ソロスの見立ても杞憂とは言い難いだろう。ただでさえ、ロシアが開発、導入を進める時速1,280kmの超高速鉄道ハイパーループの建設費を負担しようという中国である。こうした分野でも、中ロの関係強化は無視できない。
しかも、南シナ海の岩礁埋め立ての軍事拠点化で立証した技術をイスラエルに売り込んでいるのが中国に他ならない。こうした中国の動きは、日本のメディアは把握していないが、イスラエルが地中海で発見した海底油田の掘削基地の建設に活用しようという目論見である。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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