アンチ・トランプ運動を陰で支える天才投資家ソロスの狙い(4)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
実のところ、国際政治の舞台裏で常に投資チャンスを伺うソロス氏はウクライナの危機的状況も看過していない。なぜなら、ウクライナ東部に眠る膨大な地下資源の開発に積極的な投資を継続しているからだ。500万株を保有するダウ・ケミカルをはじめ、モンサントやシティーグループの大株主でもあるソロス氏のこと。ロシアが介入し、戦闘状態や混乱が続くウクライナ東部地帯を中心とし、地下資源を巡る利権の確保に動いているのはさすがだ。
こうしたロシアの動きを牽制するには、欧米の投資を拡大するに限るという発想から素早い行動をとっている。ウクライナのNGOには1億ドルを寄付。また、ソロス氏は10億ドルの投資をウクライナに行うことも表明。主な投資先は農業分野とインフラ関連である。ウクライナの農業改革にはモンサントが全面的に関与する仕掛けだ。
と同時に、ウクライナの天然ガス開発の中心的存在であるエネルゲン社に関しても、ソロス氏は200万株を所有している。こうした民間投資が効果を発揮するには各国政府の強い政治的バックアップが欠かせないが、天才投資家は常に先手を打っているようだ。こうした点でも、ロシアの一部のカジノ経営者と一脈を通じるトランプ氏とはウマが合わないようだ。
言うまでもなく、ソロス氏の強みは政治的コネクションを最大限に活かすこと。例えば、ウガンダ、カメルーン、ナイジェリアなどへの進出に際しては、「国際歳入監視」と称する民間団体を立ち上げ、各国が所有する地下資源の採掘権を公正に配分するメカニズムを提唱し、各国政府の了承を取らせることに成功している。
しかも、こうした投資の権益が守られるようにアメリカ政府が軍事的な支援策を取るように裏で工作を欠かさないできた。ウクライナにもそうした方式を採用させようと知恵を働かせているようだ。ウクライナへの投資から確実に高い配当が得られるようにするのがソロス流である。ところが、トランプ氏が大統領になったことで、こうした過去の布石が水泡に帰す恐れが出てきてしまった。
とはいえ、ソロス氏はトランプ氏とは別の意味で、メディアの使い方が天才的だ。自らの情報に内外のメディアが飛びつくような極秘情報をちりばめる手法には、世界のジャーナリストたちもついつい乗せられてしまう。ロシアによる力ずくのクリミア併合や東部地区への軍事進攻により危機的な状況に直面するウクライナの内部情報を織り交ぜながら、「新生ウクライナを救え」と題するキャンペーンを展開。
すると、『ニューヨーク・タイムズ』はじめ影響力のあるメディアも民主主義を標ぼうする立場上、こぞって転載せざるを得ないというわけだ。この面でも、メディアを敵視することで話題を集める戦法を得意とするトランプ氏とはアプローチが真逆といえよう。
これまで、ソロス財団は「民主主義を広める」という謳い文句の下、多額の資金援助をテコに、途上国における政治的コネクションを培ってきた。例えば、セネガルやコンゴの大統領を次々と籠絡し、自在に操った上で、これら途上国が保有する石油、金、ダイヤモンドなどの採掘権を入手。と同時に、農業やインフラ整備事業にも深く食い込んでいる。
また、ソロス氏はゴールドマン・サックスとも連携し、日本のアベノミクスにも深く関わるようになっていた。日本銀行を通じて金融緩和という名の大量の資金を市場に投入することで、年率2%のインフレを実現しようとする安倍総理にとって、ソロス氏のアドバイスは極めて心強いものとなっていたようだ。
しかし、このところ、安倍政権はトランプ詣でに忙しく、ソロス氏の情報を重用しなくなった。かつてソロス氏は自らを「一種の神ではないかと思ったことがある」と告白。それほど強烈な自己愛にもつながる自信家である。何とか、自らのメンツにかけても、目障りなトランプ大統領を引きずり降ろそうと躍起になっているに違いないソロスに言わせれば、万が一そのような事態になれば、「危機はアジアにとどまらず、中東、ヨーロッパ、そしてアフリカにまで広がる可能性が高い。なぜならアメリカの力が急速に衰えており、有効な歯止めをかけることができなくなっているからだ」。
実は、こうした懸念を抱いている投資家は少なくない。例えば、ジェイコブ・ロスチャイルド卿もその一人である。RITキャピタル・パートナーズの会長を務めるロスチャイルド氏。「オマハの賢人」とよばれる投資家ウォーレン・バフェットや元国務長官ヘンリー・キッシンジャーなどを顧問に抱えるロスチャイルド・グループであるが、「中東で広がる混乱と過激主義の動き、ロシアや中国の拡張主義、欧州を覆う失業や難民の急増傾向は第2次世界大戦以降、最悪の危機的状況をもたらす可能性を秘めている」と語る。
このように世界の名だたる投資家やアメリカの大統領というライバル的存在がいずれも日本や中国の将来に熱い関心を寄せ、情報の収集と分析に日夜、集中的に取り組んでいるわけだ。彼らの情報収集のターゲットになっている、われわれ日本人が安閑としているわけにはいかない。混乱はチャンスである。ましてや戦争や大災害は千載一遇の大勝負の場となるだろう。
トランプ氏もソロス氏もマネーゲームのプレイヤーだ。しかも、メディアを操り、こうした混乱を意図的に仕掛けるプロであることを忘れてはいけない。われわれには常に反対意見や多様な情報に接し、彼らの餌食にならない冷静な判断力を養うことが求められている。トランプ氏もソロス氏も決して万能ではない。ましてや神であることなど、ありえない話。そうした情報戦に飲み込まれない自前の判断力が問われている。そうした力を身に付けることこそが、日本人のサバイバルにつながるだろう。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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