2024年11月23日( 土 )

光触媒コーティング剤でブルネイに新たな産業創出を(前)

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(株)ケミカル・テクノロジー 代表取締役
ブルネイ大学 理学部 非常勤教授
北村 透 氏

 石油や天然ガスを潤沢に供給するエネルギー産出国であるブルネイ。その一方で産業創出や失業率対策が国策として挙げられているなか、日本企業がその問題解決と新たな産業カテゴリーとして取り組んでいる。

ブルネイ政府の支援のもと高機能のコーティング剤を開発

(株)ケミカル・テクノロジー 北村 透 代表取締役

 ブルネイの正式名称はブルネイ・ダルサラーム国。東南アジア島嶼部に位置し、マレーシアに取り囲まれるように存在する小さなイスラム教国だ。国土は5,770km2と三重県とほぼ同じ、人口は長崎県と同数の約40万人という小さな国で、19世紀から英国の統治下(現在は英連邦加盟国)として、石油や天然ガスなどのエネルギー産出国として知られている。

 そのブルネイで、新たな産業を創出しようとしているのが、(株)ケミカル・テクノロジーが提供する、防カビ訴求の光触媒の研究開発と製造販売。光触媒とは、光を照射することにより触媒作用を示す物質の総称で、太陽や蛍光灯などの光が当たると、その表面で強力な酸化力が生まれることで、接触してくる有機化合物や細菌などの有害物質を除去することができ、環境浄化材料として利用されている。

 同社代表取締役の北村透氏は大日本インキ化学工業(株)(現・DIC(株))でフッ素樹脂塗料の研究に従事した際に、光半導体(当時の光触媒の呼称)に関わり、その後独立。2014年にブルネイ政府から、石油パイプラインや屋根用の高機能コーティング剤などの研究開発資金(3年間で3億円)の支援を受けた。ブルネイ大学と共同で研究開発を進め、フッ素系イオン交換樹脂「Nafion」に、特定の濃度比の銅(金属銅)と銀(銀粉末)に含まれる微細の金属粉を組み合わせたところ、イオン交換されることで長期の殺菌機能を維持でき、これに光触媒を組み合わせることで大きく機能向上することを発見。この組み合わせをもとに、防カビ・殺菌のコーティング剤「NFE2」を開発した。この成果・研究が評価され、15年8月にブルネイ大学の非常勤教授に就任し、今年7月に同社を設立。販売活動を展開している。

発想の転換で商品化 効能試験で実証

 北村氏は「NFE2」の開発について、「光触媒だけでは防カビという機能は出なかったので、過去の研究事例から、銅イオンや銀イオンが良いということはわかっていた。しかし、水溶性なので、水が流れたら消えてしまい、効能期間も短くなる。反対に濃度を高くすると、黒や褐色の色味なので長続きはするが、見た目は悪い。そうした試行錯誤で、イオン状態ではなく粒(粉末)で入れたらどうかという発想に至った。実際粒状にしたら劇的に機能が向上し、水に流しても、必要量しかイオンが出てこないので、粉末がなくなるまで長期間効能が維持できた」と話す。

 「NFE2」の機能性については公的機関で日本工業規格(JIS R 1705:2008)に準拠した試験を行っており、(一財)日本食品分析センターで防カビ試験を実施。試験内容は「アスペルギルスニガー(黒カビ)」「ぺニシリウム ピルノヒルム(青カビ)」を対象に、「NFE2」塗布、市販の防カビ剤、無処理の3群に分け、72時間の培養後の繁茂を比較した試験を実施。「NFE2」塗布が最も繁茂が見られなかったことで有意性を確認している。

 また、耐久性などの検証では、屋外曝露試験(開放および遮蔽大気環境下で、材料または製品を曝露し、それらの化学的性質や物理的性質、変化を調査する試験)で、最低10年の耐候性と効果持続を確認しているほか、促進耐候性試験(太陽光・温度・湿度・降雨などの屋内外の条件を人工的に再現し、意図的に劣化を促進させることで、製品・材料の寿命を予測する試験)ではメタルウェザー試験機で実施している。

(つづく)
【小山 仁】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:北村 透
所在地:大阪府高石市千代田5-20-16
設 立:2017年7月

<プロフィール>
北村 透(きたむら・とおる)
1957年大阪府生まれ。80年大阪大学工学部応用化学科を首席で卒業、82年に同大学修士修了後、大日本インキ化学工業(株)(現・DIC)に入社。フッ素樹脂塗料の開発に従事。退職後、(株)ピアレックス・テクノロジーズを設立。2006年に「フッ素樹脂光触媒の発明」でPlunkett賞、発明大賞受賞。14年にブルネイ政府の支援を受け、防カビ・抗菌対策の高機能コーティング素材「NFE2」を開発。15年にブルネイ大学非常勤教授に就任。17年に「NFE2」の販売事業として(株)ケミカル・テクノロジーを設立。

 

(後)

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