2024年11月24日( 日 )

地域包括ケアシステムはシンガポールに学べ!(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

大さんのシニアリポート第62回

 シンガポール首相のリー・シェンロン(65歳)は14年末にフェイスブックで「日本で高齢者福祉が社会の負担になり、若者が不満を持っている。これは『教訓』だ」と紹介し、日本のような事態にならないようにと、国民にハッパをかけた。

 「元気な高齢者を『楽齢(アクティブ・エイジャー)』と名付け、就労や社会貢献を奨励。60歳を『NEW40(新しい40歳)』と呼ぶなど、『エイジレス(年をとらない)社会』を打ち出す。06年に14%だった65歳以上の就労率は16年には27%と倍増。日本の22%を追い抜いた」。

 日本の高齢者の中には、「国は年金の受給年齢を75歳に引き上げ、その間働かせるのではないか」という不信感がある。「2人で1人の高齢者を支える」ことになる若者もまた不満充満だ。年金の受給に関係なく働くことに問題があるとは思えない。江戸時代のように、「隠居後に自分の人生を楽しむ」という人もいるものの、退職後の人生設計を描けず、「仕事が趣味だった」と改めて気づく高齢者は少なくない。

 「濡れ落ち葉」を嫌がる妻にとっても再就労は渡りに舟だろう。「高齢者をこれ以上働かせる気か」とこぶしを振り上げる前に、身の丈に合った(正直な)老後を模索しては如何なものか。再就労も選択肢の1つと考えられる。これまで磨いてきたスキルを、次世代に引き継ぐのも大切な役目と思うのだが。
 シンガポールでは高齢者就労だけではなく、高齢者同士の「自助」も支援する。「前首相が設立した『シニアボランティア(RSVP)』には元気な高齢者約3,500人が登録し、1人暮らしの高齢者宅の訪問などをしている」。訪問先の住所を登録して、近所の高齢者をマッチングする携帯アプリも導入の予定。「高齢者が施設にこもるのは、死ぬ2年前からでいい。『老後も社会に貢献する』という心構えは現役世代のうちから教え込まれている」と報告する。

 現在の日本では、「近所の高齢者をマッチングする携帯アプリの導入」という画期的な発想はありえない。個人情報をボランティアに開示し、情報を共有することは考えられないからだ。当市でも「民生委員」や「見守り相談員」という肩書きで、関係部署と個人情報を共有する人たちもいるが、なり手がいない現状では、円滑に機能しているとは考えにくい。

 シンガポールのように大胆に方針を切り替えることしかない。千葉県松戸市UR常盤平団地自治会長(現相談役)中沢卓実さんは「基本的に高齢者にプライバシーはない」と断言する。中沢さんは頻発する孤独死対策に「孤独死予防センター」を立ち上げ、本格的に孤独死対策に奔走。プライバシーをほぼ無視した徹底的な「高齢者見守り」を実施。
 その結果、孤独死者が激減。「高齢者に優しい団地」と評判を呼び、周囲のUR賃貸住宅の空き室をよそ目に、順番待ちの状態を続けている。これをどう考えればいいのだろう。
 ケアシステムの第2層を「包括」が担うことを嘆いていても何も解決しない。包括を頭にいただきながら、地域ごとにシンガポール式の「シニアボランティア機構(RSVP)」を独自につくり上げてみてはどうか。今こそボランティアの能力を最大限に活用すべきだと思う。

 たとえば私の地区は縦に長いので、これを4から5分割して、それぞれに支部を置く。支部長の中から全体を仕切る代表を選出して、包括の担当者を動かす(提言する)。表面的には、包括が仕切っているように見せかけ、実質的には「シニアボランティア機構」が握る。実は、第2層を地域のボランティア、NPO団体などに委ねられた場合にも、この方法が私の頭にはあった。

 ボランティアだからこそ、自分の意思で積極的に関わり、納得性のある仕事を通してのみ充足感が得られると思う。「公的な仕事に関わるので、自分の意思を犠牲にする」ボランティア活動はあり得ない。長続きさせる秘訣は「仕事への納得性」をもつことができるか否か。そのためにも、情報の「共有化と開示」は必須条件だと思う。ボランティアは「公的な組織」のワン・ピースではない。このままでは見守られる要介護も、支える地域の住民も不安と疑心の中に取り残される。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

 
(62・前)
(63・前)

関連記事