武雄アジア大学の収支計画が明らかに(3)懸念された旭学園の財務体質と、新設大学の採算ライン

 (学)旭学園(佐賀市、溝上泰弘理事長)が4月に武雄市に開学した武雄アジア大学について、設置認可申請時に提出された収支計画と、認可審査時に文科省の学校法人分科会(以下、分科会)が示した意見が、文部科学省大学設置室のホームページで公開された。

 大学設置室のホームページでは、収支計画を「寄附行為認可申請書類」で、分科会の意見を「学校法人分科会より付された審査意見」で確認できる。

 https://www.dsecchi.mext.go.jp/2508nsecchi/document_2508n1.html

文科省が懸念した旭学園の財務体質

 前回記事では、分科会が付した審査意見のなかで、主に学生確保の根拠に対する分科会の意見を確認した。それとともにもう1つ、分科会が懸念を示していたのが、旭学園の財務状況だ。

 分科会は、武雄アジア大学の設置認可を申請した旭学園に対して、次のような意見を付していた。

意見1

近年、繰越収支差額構成比率が悪化していることから、大学等における教育研究活動を将来にわたり継続かつ安定して行うことができるよう、今後の資金計画について説明すること

意見2

近年、基本金組入前当年度収支差額がマイナスの状態で継続している中で、大学の設置において多額の資金を支出する計画となっていることから、今後の中長期的な財務の見通しを明らかにした上で、経営基盤の安定化に向けた取組について説明すること

 では、分科会が懸念した旭学園の財務状況をあらためて確認してみる。

【表6】旭学園の貸借対照表(抜粋)の推移
【表6】旭学園の貸借対照表(抜粋)の推移

 【表6】は旭学園の貸借対照表の推移だ。赤枠の繰越収支差額は、一般企業でいえば利益剰余金に近いもので、収支の蓄積を見る指標だ。分科会がいう「構成比が悪化している」とは、累積赤字が積み上がって法人全体の財務体質が弱くなっているという指摘だ。旭学園の繰越収支差額の赤字は、令和3年度まで20億円前後で推移していたが、その後、令和4年度に23億円台、令和5年度に24億円台へ増え、令和6年度には30億円台を超えた。これに対して分科会は、「大学等における教育研究活動を将来にわたり継続かつ安定して行う」ことに懸念を示し、「今後の資金計画について説明」を求めたのである。

資金残高は6億円台まで減少

 次の【表7】は、旭学園の活動区分資金収支計算書の推移だ。これは一般企業のキャッシュフロー計算書に近い役割をもち、資金すなわち現金・預金の動きを見ることができる。一番下の翌年度繰越支払資金は期末の資金を表し、貸借対照表上の流動資産に含まれる現金預金に対応している。旭学園の翌年度繰越支払資金は、一時10億円台まで回復したが、令和6年度には6億円台まで減少している。大学新設という大きな投資を支えるには、決して余裕のある水準とは言いがたい。

【表7】旭学園の活動区分資金収支計算書(抜粋)の推移
【表7】旭学園の活動区分資金収支計算書(抜粋)の推移

 大学を新設した場合、4年間かけて1学年ずつ学生が増え、十分な学生数が集まって初めて資金を生む事業になる。裏を返せば、完成年度までの少なくとも4年間は、先行して資金を使い続けることになる。財務状況に余裕があるとはいえない旭学園に対して、分科会は、将来的に資金繰りを支えられる資金計画があるのかと問うていた。

 このように旭学園の累積赤字が増える背景には、慢性的な赤字体質がある。一般企業の損益計算書に近い事業活動収支計算書の推移を【表8】で見る。

【表8】旭学園の事業活動収支計算書(抜粋)の推移
【表8】旭学園の事業活動収支計算書(抜粋)の推移

 教育活動でどれだけの収益を上げているかを表す教育活動収支差額(赤枠)は、近年1億円前後の赤字で推移している。ここには経常費補助金も含まれているが、それでも黒字化には程遠い。令和6年度に基本金組入前当年度収支差額(緑枠)が黒字化したのは、資産売却差額を含む特別収入の影響が大きい。教育活動収支は一貫して赤字であり、本業である教育活動だけでは収支を賄えていないのが旭学園の実情だ。分科会の意見2は、このような構造赤字にあるなかで、武雄アジア大学の設置に多額の費用を使おうとしているが、はたして「経営基盤の安定化」は可能なのかと問うものだった。

 これら分科会の意見に対して旭学園がどのような回答をしたかは分からない。だが、4月に開学した武雄アジア大学の新入生は、定員140名中わずか37名にとどまった。これによって、設置審査時点で示されていた旭学園の財務上の懸念は、より深刻な意味をもつことになった。

令和7年度決算はいまだ公表されず

 入学生の低迷が旭学園のこれからにどのような影響を与えるのかを考えるうえで、重要なヒントとなるのは旭学園の令和7年度(26年3月期)決算だ。旭学園は例年であれば、5月下旬に前年度の事業報告書、貸借対照表、収支計算書などをホームページ上に掲載していた。ところが、今年はまだ本稿掲載時点で前年度決算は公表されていない。法令の改正で決算書類の作成期限が会計年度終了後2カ月以内から3カ月以内に延長されたが、それに従って旭学園も、令和7年度決算は6月下旬以降に公表する見通しだという。

 一方、6月1日から武雄市議会の定例会が開かれるが、通例であれば会期は6月20日前後までとなる。決算発表は、その後となる可能性が高い。武雄市は、いうまでもなく武雄アジア大学構想の総事業費36億1,436万円のうち、19億4,809万円(武雄市負担12億9,873万円、佐賀県補助6億4,936万円)もの補助金を交付する決定を下していた。武雄アジア大学の初年度入学生が37名となった今、旭学園の事業継続可能性は重大な関心事であり、決算情報とそれに基づく将来的な財務予測は市民的議論の前提となる。

 そこで本稿では、現時点で公表されている令和6年度(25年3月期)までの決算資料と、文科省が公開した武雄アジア大学の収支計画を基に、今後の旭学園の収支を試算して、市民の議論に資したい。

武雄アジア大学のモデル別収支と採算ライン

 本稿の第1回記事では、武雄アジア大学の今後の入学生数の推移を4つのモデルに分け、武雄アジア大学単体での今後の収支モデル【表5】を作成した。ここでは母体である旭学園の収支モデルを試算する準備として、【表5】にさらに2つのモデルを追加して【表9】を作成した。

 追加した1つ目は、「当初計画B」だ。これは、定員140名の85%を超える120名が毎年入学すると想定したものだ。5年目から私学助成金が入ることを考えた場合、その後の定員変更などを調整すれば、武雄アジア大学単体で資金収支差額がプラスになる採算ラインと見ることができる。

 追加した2つ目は、「モデルB」だ。これは、初年度はすでに確定している37名とし、2年目から入学生数が120名になる場合のモデルだ。また、以上の追加に従って、【表5】における「当初計画」は「当初計画A」に、「モデル1」も「モデルA」に名称変更した。

 その結果、当初計画と各モデルの定義は次の通りとなる。

 当初計画A:毎年140名が入学する。文科省に提出された収支計画
 当初計画B:毎年120名が入学する。想定される採算ライン
 モデルA:初年度37名、2年目以降は定員140名が入学する
 モデルB:初年度37名、2年目以降は120名が入学する
 モデル2:初年度37名、以降は入学生が35名ずつ増加する(便宜的に2年目は70名とする)
 モデル3:初年度37名、2年目以降は入学生が70名となる
 モデル4:2年目以降も入学生が初年度と同じ37名にとどまる

【表9】武雄アジア大学の新入生の推移モデルごとに試算した収支 (第1回記事の【表5】に加筆)
【表9】武雄アジア大学の新入生の推移モデルごとに試算した収支
(第1回記事の【表5】に加筆)

第1期生の学生数低迷が4年間の収入計画を毀損

 【表9】で明らかになっていることは、第1期生37名という結果が開学後4年間の収支に与える影響だ。

 ここで新設大学における第1期生の位置づけを理解しておきたい。端的にいえば、第1期生とは、新設大学の最初の4年間を支える屋台骨である。学生1名あたりが武雄アジア大学に納める学費は4年間で409万円。140名で5億7,260万円となる。第2期生以降も毎年140名ずつ入学した場合、それぞれが令和11年度(開学4年目)いっぱいまでに納める学費は、第2期生が4億3,820万円、第3期生が3億380万円、第4期生が1億6,940万円、総額14億8,400万円(当初計画Aの学生生徒等納付金の累計)だ。このうち第1期生が占める割合は38.9%だ。

 なぜ令和11年度(開学4年目)までを問題にするのか。それは、この年度まで私学助成金が得られないからだ。従って新設大学にとって、最初の4年間を支えることができるかが、一番の課題であり、その屋台骨が第1期生なのだ。

 第1期生が37名になった結果、たとえ2年目以降に定員通り140名を確保できたとしても、4年間累計は10億6,273万円に落ちる(モデルA)。4年間で喪失する学費収入は4億2,127万円だ。これは当初計画Aの学費収入の実に28%にあたる。武雄アジア大学はこれをすでに喪失したことが確定している。

 では、このことが旭学園全体の今後の収支に対してどのような影響を与えるのか。次回記事で試算する。

(つづく)

【寺村朋輝】

< 前の記事
(2)

関連記事