小売業―かつてない激変期(10)
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ディスカウントの構造
ディスカウントのポイントは坪あたりの売上を高くすることだ。小売業の経費はその大部分が固定費である。単位面積あたりの売上が大きくなるほど経費率は低くなる。
もう1つは経費と減耗率が高い生鮮、とくに鮮魚と青果、デリカテッセンの構成比を低くすることだ。(精肉の場合はその加工工程が供給先にゆだねられているので問題はない)
それには2つの方法がある。1つは生鮮を外すというやり方だ。ドラッグストアはその方法で経費率の上昇を防いでいる。高経費の部分を外せば、粗利や坪あたりの売上を高くする必要がない。
もう1つは生鮮部門をテナントに委託するというやり方である。そうすることで直営部分の値入を低くし、価格弾力性をコントロールする。さらにテナントの専門性と魅力が大きければ坪あたりの売り上げも大きくなり、直営部分の経費率はさらに低くなり、さらなる安売りが実現できる。その意味ではパートナーとしてのテナントの選別も重要だ。
モノを買う時、お客がその価格差を意識するのは6%位からといわれている。これが10%になると、それは安さとしてお客にリアルに伝わり、極めて強い集客力につながる。普通のスーパーマーケットは25~30%の通常品値入を基準にしているから、それを15%程度に抑えるとそこに明らかな価格差を実現できることになる。
表3はドラッグコスモスの数値だが、ディスカウントの特徴をよく表している。食という高頻度購入の部分が50%超である。しかもその値入はスーパーマーケットに比べると低い。このことは同店舗の日常性、高頻度来店率が高いことにつながっている。この数表から見るコスモスの損益分岐点は80%程度である。現在6.1億円の1店舗あたり年間売上が5憶円になっても赤字にはならないということになる。
しかし、業態の違いは単純に部門だけで比較できない。食品には腐りやすいものとそうでないものがある。コストコやクローガーなどのアメリカの小売業はこの違いをペリシャブルとアンペリシャブルと分けている。
ちなみに生鮮やデリカテッセンで評価が高いホールフーズはペリシャブルが67%である一方、クローガーのそれは30%、コストコに至っては12%程度に過ぎない。コストコの場合は業態が違うため当然のことながら食品の構成比率は低いが、クローガーも雑貨や燃料、薬品などを含めればペリシャブルフーズ部門は23%程度だ。
それを考えると、ホールフーズがいかに容易でない部門構成に挑戦しているかがよくわかる。もし、ペリシャブルの構成比を高くしたにもかかわらず、単位面積あたりの売上が通常型のスーパーマーケット並みであれば経営は立ち行かない。高質店の運営は極めてリスキーなのである。
日本の場合は一般に生鮮構成比という表現でデリカテッセンを含む生鮮4品の構成を指標にすることが多い。その基準で見ると、通常型と高質型の生鮮構成比差は10%前後になる。生鮮構成比が高いということは製造コストとロスのリスクを避けて通れない。生鮮強化といってもそれを実行するのは容易ではないのである。
ハローデイやヤオコーも実はホールフーズに近いペリシャブルの構成ということができる。当然、高い単位面積あたりの売上が必要ということである。その点、通常型やドラッグストアはそれよりかなり低い単位面積あたりの売り上げで採算がとれる。(つづく)
<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。関連記事
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