2024年11月28日( 木 )

世界市場で予想される音の戦争(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 1970年代にはドルビーは映画館の音響システムを一新する音響技術を発表する。ドルビーサラウンドシステムである。1982年には、この技術を家庭のオーディオシステムに適用するようになる。ドルビーのライバルはというと、1993年に設立されたDTS(Digital Theater System)である。現在のハリウッド映画の80%はドルビーの技術を、それから20%はDTSの技術を採用している。この比率は放送設備でも、DVD,ブルーレイでも同じ比率である。これだけでなく、ドルビーの技術は40億台以上の電子機器と、2万5,000本以上の映画にも適用されている。すなわち、今までの音の市場ではドルビーの圧勝である。

 しかし、音の市場は次世代の音が求められている。映像では4K、8Kが当たり前になりつつある中で、音にも今まで以上の音質が求められている。次世代のオーディオ規格として決まったのは2つである。ドルビーのAC-4とMPEG-H 3Dオーディオである。今まではドルビーとDTSが競合してきたが、これからはドルビーとMPEG陣営の対決になる。

 なぜ音の戦争が起こるかというと、4次産業革命の時代には、音の重要性がますます増大するからだ。たとえば、自動運転自動車を考えてみよう。人工知能だけでなく、音声認識技術が重宝されるようになるのは自明の理である。以前、音の市場は映画館とか放送局などのトップダウン方式が主流であったならば、YouTubeなど個人メディアが発達する時代には、個人メディアを中心とした新しい市場が形成され、市場がもっと拡大していくので、音の市場は今までの比ではなくもっと大きくなる可能性も高い。
上記のような2陣営の対決構造のなかで、韓国で話題を呼んでいる中小企業がある。会社名はソニックティアという会社である。ソニックティア社はMPEG-H 3Dオーディオ規格をベースにした音響アルゴリズムを開発した会社である。

 この技術は米国、中国、カナダ、インド、オーストラリアなどに60個以上の特許を出願している。韓国の映画市場ではドルビーと対決して53:3の対戦結果を持っている。ドルビーの方式は、メタデータ方式と言って、音の位置を指定して座標値をいちいち入力しないといけない。その反面、ソニックティア社はチャネル方式を採用している。ソニックティア社は全面にスピーカーを積層する。メタデータを入力する代わりに、個別的なチャンネルの位置に合わせて音をセッティングすれば済む方式である。だから、音を編集する時間もドルビーに比べ数十分の一に過ぎない。

 ソニックティアの社長によると映画館のアップグレード需要で56兆ウォン(約5.6兆円)放送設備の市場で13兆ウォン(約1.3兆円)の市場が存在するという。これほど大きな市場で韓国の中小企業はどのような結果を出すのか、とても注目されている。幸い、韓国はスマホ普及率が世界一だし、ディスプレイ強国であるし、UHD(Ultimate High Digital)放送も世界で最初に導入している。消費者の知らないところで音の戦争は静かに進められている。

(了)

 
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