2024年11月17日( 日 )

非日常空間の演出にある商業施設のカギを握るエクスペリエンス(4)

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(株)花形商売研究所 代表取締役 濱田 浩昭 氏

複数の商業施設が相乗することで魅力が出る

 首都近郊のSCエリアのなかでは、いま最もホットなのが立川エリアと言われている。立川から青梅にかけてのいわゆる多摩地域に商業施設が次々と建設されており、沿線住民にとってはもはや新宿まで出向く必要がなくなった。たとえば、立川駅前には「伊勢丹」「高島屋」「ららぽーと立川」などが林立している。ここでいえることは、海老名でもそうだが、どれだけ最新のSCであっても、1施設だけではそこまで集客できないということだ。複数の施設が相乗的に作用し、面的に回遊できることが中広域からお客さんを集めるポイントになっている。

 そういう意味で伸び悩んでいるのが埼玉エリアだ。たとえば、さいたま新都心にある「コクーンシティ」は、駅と直結して利便性は高いし、テナントも充実している。しかし、施設を一歩でると周りに何もないため、いま1つ客足が伸びない。埼玉県内には、さらにスケールが大きい「越谷レイクタウン」がある。広さだけでいえば日本一のSCだが、ここも施設を一歩出ると閑散としており、駅乗降客もまばらだ。それに比べて、越谷に近い新三郷には、ららぽーと、コストコ、IKEA(イケア)といった個性的な施設が集積しており、こちらは繁盛している。「越谷レイクタウン」は新三郷にすっかり客足がとられてしまっているのである。

 施設の集積という意味では、ちょっと変則的だが、注目に値するのがつくばエクスプレスの沿線だ。1カ所に複数の商業施設がまとまることで相乗的に魅力が増すといったが、つくばエクスプレス沿線には、1駅ごとに施設が点在しており、そういう意味では孤立しているが沿線でつながることでうまい具合に相乗効果を上げている。いい例が、「ららぽーと柏の葉」と、「流山おおたかの森SC」だ。それぞれ、柏の葉キャンパス駅と、流山おおたかの森駅という、一駅となりにできた大型商業施設であるが、「流山おおたかの森SC」は、ファミリーを対象としながら、単に子ども狙いの演出をするのではなく、深夜営業によるナイトマーケットを創出するなど、子育て中の大人にも配慮した営業スタイルで注目される。一方の「ららぽーと柏の葉」は、シニア、プレシニアを主要ターゲットにしながら、学園都市であることを考慮して学生世代にも配慮するなど、ターゲットが異なっているため、うまい具合に相乗効果を出している。

日本一集客力のあるSC、ラゾーナ川崎はなぜ強いか

▲ラゾーナ川崎プラザ
▲ラゾーナ川崎プラザ

 最後に、SCを語るなら、押さえておかないといけないのが「ラゾーナ川崎プラザ」だ。今現在、日本で最も集客力のあるSCといわれる。その所以は、スケール感でいえば郊外型だが、テナントの顔ぶれは都心型のファッションビルに劣らない、ショッピングのための施設として充実しているところにある。それだけでなく、やはり秀逸なのが、駅直結のルーファ広場だ。アリーナ型の施設の中心にしつらえた芝生敷きの青空スペースで、晴れた日には寝転がってくつろぐ利用者であふれるほど、なんとも居心地のいい空間だ。イベント会場としても抜群のロケーションを誇り、ここでライブするのが新進アーティストのステータスにもなっているほど。施設そのものにライブ感、非日常感があり、そこにいるだけで体験型の演出ができているという、いまどきのSCに求められる要素をすべて兼ね備えた施設となっている。昭和世代にとって、川崎といえば、風俗街があったり、場外馬券場もあったりして、あまりイメージのよくない場所だったが、「ラゾーナ川崎プラザ」がイメージをガラリと変えてしまった。それだけインパクトのある施設といえる。

(了)

ラゾーナ川崎プラザ

 開業は2006年9月、敷地面積約7万2,000m2、店舗数約330店舗。三井不動産が開発を手がけた。正式名称は、「三井ショッピングパーク ラゾーナ川崎プラザ」。12年以来、2度目となる大規模リニューアルで100店舗以上のショップが新規出店・改装オープンした。同施設の象徴でもあるJR川崎駅直結の「ルーファ広場」には人口芝が敷設され、よりくつろぎやすい空間に進化した。この円形のルーファ広場をぐるっと取り囲むように施設が建設されており、中央ステージを360度どこからでも見渡せるアリーナのようなつくりになっている。
 駅を利用する乗降客など周辺の人が利用しているようで、訪れる客層はファミリーやカップル、学生グループといったところ。みな普段着、荷物もほとんど持っていない。ルーファ広場では、寝転がってくつろぐ人も多い。

<プロフィール>
濱田 浩昭

(株)花形商売研究所代表取締役。1960年広島市生まれ。関西学院大学社会学部卒業。広島の地元紙系列広告代理店、東京のSP/PRエージェンシー勤務を経て1994年、(株)花形商品研究所を大阪で設立。商品・サービスや各種プロジェクトの開発から広告・販促などマーケティング&コミュニケーション活動について、トータルなプランづくりをサポート。提案先は多彩な業種におよぶが、とくに、流通小売業や不動産業といった“商圏”をもつ業種での実績が豊富。2014年秋に拠点を東京に移転するとともに現社名に変更。日本人による海外起業を啓発・支援する(一社)海外起業情報センターを設立し、100名を超える日本人起業家を訪ねて、世界30都市をめぐる取材を敢行した。アジア経営学会所属。

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