2024年11月05日( 火 )

【西日本新聞】大濠花火大会終了の背景~相次ぐリストラ策(後)

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(株)西日本新聞社

新規事業で暗中模索、ベンチャーにも挑戦

 深刻なのは、難局を打破する“次の一手”をいまだ模索中であるということ。同社では、今年初めから各局の若手社員を中心に、外部識者も招くかたちでメディア戦略を討議しているというが、現時点で、明確な“答え”は打ち出せていない。

 その一方で近年では、さまざまな試行錯誤を行っている。12年6月、読者や消費者のニーズを調査・分析し、読者・顧客サービス強化に取り組む「お客さまセンター」を発足。同年10月、西日本新聞経済電子版「qBiz」創刊。13年3月、西日本スポーツの主要紙面を電子化し、九州域内にも販売する「西スポプラス」を創刊。同年4月、リクルートホールディングスと業務提携し、フリーペーパー「西日本新聞 X HOT PEPPER久留米」を創刊。16年10月には、西日本新聞の電子版を創刊した。電子版は、新聞紙面をスマホやタブレット上で閲覧できるサービス。料金(税別)は、新聞購読者の場合だと月額926円だが、新聞未購読者は2,778円と、新聞の月額3,280円(福岡都市圏版の朝刊のみ)に準じた金額となっている。

▲福岡本社が入る西日本新聞会館

 さらに創刊140周年を迎えた17年7月、新規事業の開発、M&Aや異業種との業務提携などを担う「ビジネス開発局」が発足。異分野の事業に着手し、事業多角化に取り組み始めた。同月4日、豆腐など食品の移動販売を手がける(株)豆吉郎(福岡市)の株式を取得し、食品販売事業に乗り出した。豆吉郎は、05年7月創業。直営店2店舗、九州・中国・近畿エリアに24の移動販売拠点を置き、16年度の売上高は7億円。
 また、同月11日、位置情報データを用いたモバイル広告配信プラットフォームを開発したアメリカのベンチャー企業Chalk Digital社に資本参加。子会社(株)西日本新聞メディアラボが業務提携を行い、位置情報を基にスマートフォンに広告配信できるジオターゲティングといったモバイル広告配信事業に参入した。
 同年9月からは、老後の生活資金や住まい、相続、保険、資産などの分野で生活者と専門家をつなげる相談窓口「西日本新聞ライフコンシェルジュ」がエルガーラ1階にオープン。加えて同年11月、初心者向けに金融関連情報を伝える「西日本新聞 Oh!Yen!」を創刊した。
 さらに今年に入ってからは、4月27日付で、空き駐車場の共有事業「アキッパ」を手がけるakippa(株)(大阪市)とパートナー提携を締結。「アキッパ」は企業や個人が所有する駐車場や空きスペースをネット上に登録し、時間貸しの駐車場として提供するサービス。全国で累計約1万9,000カ所が登録されているという。福岡県内で事業拡大を狙うakippa社の代理店として、西日本新聞社が駐車場の登録やサービスの営業を行う。

「あな特」で実証実験、ネットに活路は?

 豆腐屋、コンサル、駐車場ネットサービスの代理店など、畑違いといえる新事業を始めた「西日本新聞」。本業における新たな取り組みとしては、ブロックチェーンを用いた報酬型SNS「Steemit」(スティーミット)にアカウント登録し、今年2月27日から記事の配信を始めた。「Steemit」は、アメリカのSteemit社が16年3月に運用を開始したブログサービス。利用者が文章を投稿したり、投稿への評価やコメントを行ったりすることなどで「トークン」(代用貨幣)を獲得。「トークン」の一部は、仮想通貨と交換が可能という。同社では、今年初めからスタートした、読者の依頼に応じて取材活動を行う「あなたの特命取材班」(通称「あな特」)の記事などを「Steemit」に掲載。記事は、日本語のほか英語や韓国語でも発信し、「分散型ジャーナリズム」の研究を目的とした実証実験と位置付けている。

 ネットにおける情報発信の2017年の状況は、同社公表データでニュースサイト「西日本新聞ウェブ」(無料)が、年間総PV(ページビュー)1億以上。一方、同年における有料サイトの「qBiz」(新聞購読者:月額200円、未購読者:月額400円)は、年間総PV約800万。ネットでの収益化は道半ばであり、従来にない新しい試みといえる「Steemit」で活路を見出せるかが注目される。

 紙メディアの衰退という業況の悪化に対し、エリア縮小で分散していた経営資源の集中を図り、事業存続を図ってきた「西日本新聞」。しかしながら、発行エリアが九州全域ではなくなった今、「西日本」を冠する名に体がともなわず、九州のブロック紙としての存在感は弱まっている。今後も、同様に部数減に苦しむ各地方紙との競争が一段と激しくなることが予想され、発行部数が少ない熊本版や大分版の廃止も考えられる。さらなる撤退で福岡県の地方紙となる道を選ぶか、ブロック紙としての体面を保つためにネット配信や異分野の新事業に活路を見出すか。重大な岐路に立たされている。

(了)

【山下 康太】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:柴田 建哉
所在地:福岡市中央区天神1-4-1
設 立:1943年4月
資本金:3億6,000万円
売上高:(18/3連結)535億2,600万円

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