藤井聡教授に聞く~国民に集団自殺を促す「消費増税」を凍結せよ!(前)
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昨年11月に刊行された1冊の本『「10%消費税」が日本経済を破壊する』(晶文社)が今にわかに話題になっている。著者は、時の人、前内閣官房参与で、京都大学大学院工学研究科教授の藤井聡氏である。この本で藤井氏は、さまざまな実証データを駆使して、10%消費増税が日本経済を破壊することを明らかにし、増税凍結のための具体的対応策を明解に論じている。丸の内の京都大学東京オフィスに藤井氏を訪ねた。
今、多くの国民は今年10月の「増税」をあたかも既定事実のように受けとめている。しかし、藤井氏は「消費税は、政治の判断で「増税延期」も、「増税凍結」も、さらには逆に「減税」すら、何も難しいことではない」と断言する。1997年の「消費増税」(3%➡5%)でもたらされた不況は日本経済を根底から衰弱させ、そのしわ寄せは国民におよび、10年で10万人以上もの人々が、消費増税によって、自殺に追い込まれた。国民に集団自殺を促す、デフレ下の「消費増税」は何としても凍結させなければならない。
(聞き手:弊社取締役 緒方克美)
京都大学大学院工学研究科 教授 藤井聡氏
6年間デフレ状況から脱却できていないという現実がある
緒方克美(以下、緒方) 先生の著書『「10%消費税」が日本経済を破壊する』(晶文社)は極めて明快で共感できました。かなり強めの文体で書かれていましたが、読者の感想はいかがですか。
藤井聡氏(以下、藤井) おかげさまで、購読者のほとんどの方が「消費増税は論外」と納得いただいております。私は現時点で、一部のセンスのない方を除くと、ほとんどの政治家は「今、消費増税を実施するのは良くない」ということは理解できていると認識しています。しかし、実際の政治は「政策」だけで動くものではなく、そこに「力学」が働きます。今後政治の力学をどのように駆動させて、「増税凍結」の方向にもち込むことができるのかを私たちは問われています。このまま行くと、2019年の日本経済は、「働き方改革による残業代の縮減」「オリンピック投資の終焉」「消費増税」というトリプルパンチで激しく縮小します。
緒方 安倍首相の経済政策・アベノミクスに対する先生の率直な評価はいかがですか。
藤井 アベノミクスは論理的には正しい政策で、財政と金融でしっかり需要を創出し、高圧経済(需要が供給を上回り、それがまた投資を誘発してさらに需要圧力を高める傾向にある経済)状況をつくり、その後、より効率的に成長を促すために、構造政策(より容易に成長していくことが可能な仕組みをつくる対策)を計っていくというのが建前上の論理になっています。しかし、私はアベノミクスの成果はまだ十分に出ていないと認識しています。なぜならば、6年間やってもデフレ状況から脱却できていないという現実があるからです。それはひとえに、財政出動が不足しているからと認識しています。
緒方 アクセルとブレーキを同時に踏んでいるから先に進まないという意味ではなく、単にアクセルの踏み込みが足りないという意味ですか。
藤井 確かに、アクセル(「大胆な異次元の金融政策」や「機動的な財政政策」)とブレーキ(「消費増税」)を一緒に踏んでしまいました。もし、ブレーキがなく、アクセルをもっと踏み込んで入れば、デフレを脱却、今頃は空前の好景気を迎えていると思います。
日本人大半の暮らし向きは、一貫して悪くなり続けている
緒方 とくに中小企業に関していえば、新聞・テレビなどで報道されているような「景気が良くなっている」という感覚はありませんでした。改めて今回本書の数字・データを見て大変に驚きました。
藤井 中小企業DI(中小企業の「景況感」を意味しているもので、「景気が良い」と判断している企業の割合から、「悪い」と判断している企業の割合を差し引いた尺度)にはっきり出ています。この10年間、中小企業DIは一貫してずっと「マイナス」です。それは、2008年のリーマン・ショック以来、中小企業の景気は10年間悪化し続けている、すなわち、日本人大半の暮らし向きが一貫して悪くなり続けていることを意味しています。
そもそも、政府が公表している「景気判断」は、多分に輸出企業や株式上場の「大企業」の経営状態を色濃く反映しています。しかし、大企業に勤めている国民はごく一部に限られています。国内企業の99%を占める「中小企業」の景況は政府が公表する日本全体のマクロな景気判断の際には大して考慮されていません。
さらにいえば、「悪化の速度」それ自身は、リーマン・ショック時が「どん底」の状況で、その後一貫して“マシ”になり続けていました。しかし、2014年4月の「消費増税」(5%➡8%)でその改善の歩みが“ピタリ”と止まり、それから現在まで4年間、中小企業の景況感は一切改善されていません。
(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
藤井 聡(ふじい・さとし)
1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授。京都大学工学部、同大学院修了。京都大学助教授、東京工業大学助教授・教授、イエテボリ大学心理学研究員を経て2009年より現職。11年より京都大学レジリエンス実践ユニット長。12~18年まで安倍内閣・内閣官房参与(防災減災ニューディール担当)、18年よりカールスタッド大学客員教授ならびに『表現者クライテリオン』編集長。文部科学大臣表彰、日本学術振興会賞など、受賞多数。専門は、公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書に、『プラグマティズムの作法』(技術評論社)、『国民所得を80万円増やす経済政策』(晶文社)、『プライマリー・バランス亡国論』(扶桑社)、『「10%消費税」が日本経済を破壊する』(晶文社)など多数。
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