2024年11月30日( 土 )

【ロシア現地紙を読む】ツァーリ(皇帝)の道化と化したアベ首相~北方領土問題「日本の2島返還論は無理筋だ」

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 「日本は長年、『クリル諸島』の二島の返還を求めてきた。これはほとんど不可能な話だ」。――ロシアの大手メディア「プラウダ」紙が22日の日ロ首脳会談を前に掲載した「南クリルにまつわる嘘」と題した記事の冒頭だ。クリルとは千島列島のロシアでの呼称になる。

プラウダ

 ロシアメディアが「北方領土問題」をどう伝えているのか? ロシアの2大新聞「プラウダ」と「イズベスチヤ」から検証した。

 プラウダでは歴史家で外交官のプラトーシキン氏にインタビューするかたちで、露日交渉の欺瞞について報じている。同氏は、「日ソ共同宣言を前提とした協議など、病人の妄想のようだ」と述べ、その理由として、「ソ連が1960年1月27日で日ソ共同宣言を破棄している」ことを挙げた。そもそもこの宣言はソ連が日本に対してアメリカとの安全保障条約を見直したとき、平和条約締結に向けて努力をすることを明記したものだった。日本の「横紙破り」に対する当然の反応だった。

 氏はさらに、「まだ南クリルという呼称を続けるのか?」と日本側の要求にまで疑問を呈している。

 もう1つ紹介しよう。イズベスチヤ紙に掲載された記事『25回目の試み。露日のリーダーは再び平和条約について協議する』では、安倍首相がすでに「歯舞群島と色丹島は返還される」ことが決定しているかのような言動を繰り返して、ロシア指導部に不快感を与えたことを紹介。安倍首相が日露平和条約締結に向けて前のめりで臨んでいるが、プーチンは急がず着実に進めるべきだと論じている。専門家の言葉を引用して、「日本はロシアが望むように4島の主権がロシアにあることを認めないだろう」という達観している。
「もちろん、平和条約にもメリットがある」という慰めでこの記事は終わっている。

イズベスチヤ

 そもそもロシアと日本での認識は大きく2つの点で食い違っている。
1つは、1952年に日本が領有権を放棄した千島列島の範囲だ。ロシアにとっては歯舞諸島から択捉島までの4島もクリル=千島列島に入るという認識だが、日本はこれを千島列島に入らない、「北方領土」だと主張してきた。

 もう1点はロシアが実効支配するようになった過程にある。ロシアにとって「クリル」は第二次世界大戦の戦果だ。いっぽう、日本ではソ連が日ソ中立条約を一方的に破棄して侵略、占領したものであり違法だとして領有権を認めていない。

 この食い違いから、ロシア国民にとって日本の要求は歴史の流れをまったく無視したものだという認識が根強い。本来は交渉の余地など一切ないはずだが、プーチン大統領は何度も交渉の余地があると明言している。

 2000年に「日ソ共同宣言は有効」だと表明し、翌年には日本とその認識をイルクーツク声明というかたちで共有した。さらに昨年末からの安倍首相の言動が、「プーチン大統領は我々の領土を他国に売る売国奴」という批判を生んだ。

 もともとプーチン大統領の長期政権に対しての批判は根強く、政権反対派が行う大規模なデモとその弾圧は毎年のように行われている。プーチンを「愛国者」と信じてやまない国民がいなければ無理な話だが、いま、その前提が揺さぶられているのだ。 

 しかし、同時に安倍首相との北方領土交渉は「強い指導者」像を取り戻すチャンスともいえる。22日の日ロ首脳会談はロシア国内からの「日本にロシアの主権を認めさせろ」「島を渡すな」との批判通り、領土交渉に関する進展は一切発表されなかった。安倍首相が平和条約のために譲歩したかたちだが、これが再度プーチンを「民衆のための強い指導者」に押し上げることにつながるかもしれない。

注記:ロシアには古いジョークがある。
「クレムリンの三大名物といえば、ツァーリの鐘楼、ツァーリの大砲、ツァーリの道化」というもの。

【小栁 耕】

関連記事