「原発再稼働」に垣間見る『日本病』とは!(後)
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元駐スイス大使・東海学園大学名誉教授 村田 光平 氏
日本病を責任感、正義感および倫理観の「三カン欠如」と分析
――では、先生のお考えになる「日本病」とはどのようなものでしょうか。
村田 世界の多くの国々が、再生可能エネルギー・自然エネルギーに大きく舵を切る中、日本はほぼ例外的に、経済先進国の異端者と思われるほど、原子力を推進しています。福島3.11の教訓に学ぼうとしない地震大国日本という現状は、憂慮されるべきことだと考えています。そして、「日本病」(まず隠蔽し、次に先送りにして、そして責任を負わない)こそが原子力をはじめ数多くの世界的問題を招来させている原因だと考えています。
私は日本病を責任感、正義感および倫理観の「三カン欠如」と分析しています。
(1)「責任感の欠如」:責任の所在の欠如ともいい表すことできます。何か問題が起きた時に、どこに、誰にその責任があるのか。何かことを起こす時に、どこが責任をもって行うのか、それが曖昧なことが多いのです。結果、物事に対して責任をもった行動をしなくなるのです。とくに、エネルギー問題に対する、責任感のなさには、あ然とするほかありません。このことは昨今経済界で頻繁にみられる「責任逃れ・隠蔽工作」につながっていきます。
(2)「正義感の欠如」:これが端的に見られるのは経済の分野です。経済至上主義の基となるGDP経済学は計量化されるもののみに立脚する経済学で、計量化されない大切な価値などを一切無視します。手段であるはずの経済成長が目的になってしまっています。そこには「倫理」や「哲学」が入る余地はありません。インドの偉人ガンジーは「知足経済学」(「地球はすべての人の必要を満たすことはできるが、すべての人の貪欲を満たすことはできない」)を提唱しています。
「富は海水のようなものだ。飲めばのむほどに渇きを覚える」(ショーペンハウエル)
「富を追うものも、心が足りるとしなければ貧しくなる」(ミケランジェロ)
「幸福とは分母が欲望で富が分子である」(仏教の基本原理)
➡足るを知るアプローチは欲望を減少させ、幸福の度合いを増大させる。(3)「倫理観の欠如」:「三カン欠如」のなかでは最も大きな概念です。倫理とは「人として踏み行うべき道」のことを言います。原発を推進することは「人として避けるべき道」であるということです。刹那主義で、今がよければいいと未来にリスクをすべて負わせることは、倫理を欠いた考え方になります。「経済学という学問はまさに『倫理』否定することから出発したのです」(岩井克人・現東京大学名誉教授)という、的確かつ勇気ある発言もあります。
今こそ、「力の父性文化」から「和の母性文化」に戻る時
――未来の世代の代表として、「日本病」の治療方法を教えていただけますか。
村田 私はその治療法の1つとして、日本が父性文化から母性文化に戻ることを提唱しています。日本は古来、母性文化の国です。しかし、明治維新に父性文化に転換して「軍国主義」に走り敗戦を経験しました。
その後、再び父性文化に立脚して「経済至上主義」に走り、「福島3.11」という悲劇を迎えました。今こそ「力の父性文化」から「和の母性文化」に戻る時なのです。
父性文化 母性文化
目標との関係
進歩 ――― 進化
直進 ――― 循環他者との関係
自己中心 ――― 連帯
競争 ――― 調和
対立 ――― 協調
弱者切捨て ――― 弱者への配慮
排他性 ――― 開放性
厳格 ――― 寛容
ヒエラルキー ――― 対等自己実現との関係
知性重視 ――― 感性とのバランス
強欲 ――― 少欲知足
権力 ――― 哲学環境との関係
自然征服 ――― 共生〈トモイキ〉母性文化の実現には「地球倫理の確立」「グローバルブレイン(理性・知性のみならず、感性と思いやりを備えた真の指導者)の養成」および「経済至上主義に対する文化の逆襲」という3つの重要な課題があります。
機械よりも人間愛、利口さよりも思いやりと優しさである
――時間になりました。最後に読者に、メッセージ、エールをいただけますか。
村田 今日、「日本病」は世界的規模で見られるようになっています。私は世の中を悪くしたのは「感性不足」であると考えています。私が好きな言葉の1つに、チャップリンの「我々は考え過ぎて、感ずることがあまりにも少ない。我々が必要としているのは機械よりも人間愛であり、利口さよりも思いやりと優しさである」という名言があります。また、サン・テグジュペリの『星の王子さま』にも、星の王子さまとキツネの会話のなかで、「肝心なものは目に見えない。心だけがこれを見ることができる」という言葉が出てきます。私は教育においては、もっと感性を重んじるべきだと思っています。
不祥事をはじめ、危険があまりにも多い現代社会の現状に、未来の世代の代表として、私は責任を感じています。しかし一方で、読者の皆さまが「感性」を磨くことによって、必ずや世のため人のために貢献される立派な市民になっていただけることも強く信じています。
今人類は、確かに危機を迎えておりますが、私は悲観しておりません。「天地の摂理」(「天の摂理」を昇華させた村田氏の造語)を信じているからです。「天網(てんもう)恢恢(かいかい)疎(そ)にして漏(も)らさず」という老子の言葉があります。(『老子』73章)これは「天の張る網は、広くて一見目が粗いようであるが、悪人を網の目から漏らすことはない。悪事を行えば必ず捕らえられ、天罰をこうむる」という意味です。
そして、この英訳は“Heaven's vengeance is slow but sure.”となっています。すなわち、時間はかかるかも知れませんが、必ず天罰は下るということです。
(了)
【金木 亮憲】<プロフィール>
村田光平(むらた・みつへい)
1938年東京生まれ。1961年東京大学法学部を卒業後、2年間外務省研修生としてフランスに留学。その後、分析課長、中近東第一課長、宮内庁御用掛、在アルジェリア公使、在仏公使、国連局審議官、公正取引委員会官房審議官、在セネガル大使、衆議院渉外部長などを歴任。96年より99年まで駐スイス大使。99年より2011年まで東海学園大学教授、現在、東海学園大学名誉教授、アルベール・シュバイツアー国際大学名誉教授。
著書として、『新しい文明の提唱‐未来の世代へ捧げる‐』(文芸社)『原子力と日本病』(朝日新聞社)『現代文明を問う』(中国語冊子)など多数。関連キーワード
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