日本経済の飛躍のカギ“水力(ウォーター・パワー)”(3)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
日本の水事業の今後とは
しかし、欧米の水メジャーが仕掛ける大規模な水ビジネスのなかで、日本は単なるパーツの提供、納入業者の地位に甘んじてきた。言い換えれば、最も儲かる水道事業の管理、運営の部分はことごとく世界の三大水メジャーに押さえられてきたわけだ。
実は、水をめぐる世界的なビジネスの流れを受け、日本でもようやく欧米の水メジャーに対抗すべく、官民が力を合わせ、水事業ファンドを立ち上げる準備が始まった。具体的には、経済産業省が、国際協力銀行(JBIC)や野村ホールディングスに呼びかけ、この分野でノウハウをもつオーストラリアの投資ファンドとともに、水事業に特化したファンドを進行中である。最大1,000億円規模の資金を調達し、日本の水企業の海外事業展開を支援する段取りだ。
このファンドにより、技術の蓄積がありながら海外市場でのビジネス展開に後れをとってきた日本の水企業群の受注件数を倍増しようとするもので、水ビジネス市場の新機軸として注目を集めている。東京都もベトナムに対して、水道事業面での技術協力を進めるなかで、日本の水管理システムの売り込みに余念がない。ほかにも、微生物の力を生かした汚水の浄化技術など、日本独自のアプローチが世界から注目を集めている。すでに、ベトナムやカンボジアでの実証実験が進んでいる。
次に、第二のバーチャル・ウォーターを大量輸入していることについてだが、バーチャル・ウォーターとは、食糧生産に欠かせない水のことである。海外から食糧を輸入する際、日本は間接的に水も輸入している。従って、この水問題は食糧問題に他ならない。食糧生産に水が欠かせないことを考えれば、食糧安全保障の観点からも、水問題を疎かにするわけにはいかないだろう。
大事なことは水田の劣化と水の確保はコインの表裏の関係となっていること。日本の稲作は縄文時代からの長い歴史に裏付けられており、水田の連作障害を避けるため、一定の期間、田んぼへ水を張り、酸素がないと生きられない病原菌の活動を抑える営農技術が伝承されてきた。水こそ稲作の命のもと。土地を生かすも殺すも水次第といえる。
農地は貴重な生産資源である。1960年のデータによれば、世界では1haの耕地が2.5人の胃袋を満たしていた。それが2005年には4.5人に増え、2050年には6人強を支えなければならなくなると予測されている。ちなみに、日本では1haの耕地から収穫される食糧が29.2人分の胃袋を支えている。その見えざる最大の貢献者こそ水に他ならない。だからこそ、自然と共存できる、日本の農業を守らなければならない。
最後に、第三の中国の水不足と汚染の問題に触れておきたい。世界最大の人口を抱える中国では、年々砂漠化の進行が加速している。このままでは近い将来、人口の60%が砂漠に飲み込まれかねないと危惧されるほど。この問題を克服しなければ、中国の農業生産は改善されないし、黄砂による健康被害も広がる一方である。我が国にも深刻な環境被害がおよんでいる。
日本は1998年に国連砂漠化対策条約への参加を批准し、資金協力と技術協力を約束し、中国を始め、各国にさまざまな支援活動を続けている。この分野でも、日本は中国に対して環境技術移転という外交上の切り札をもっているわけで、水問題で悩んでいる中国の一般国民を味方につける広報宣伝戦を強化する必要があろう。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸 (はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。【未来トレンド分析シリーズ】の記事一覧
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