加熱する米中貿易戦争 データ覇権で遅れる日本(2)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
アメリカを凌駕する中国の挑戦
ところで、アメリカ農務省は2015年4月の時点で、さらに驚くべき報告をまとめていた。すなわち「アメリカ経済は今後15年間で50%の成長を遂げるだろう。しかし、この間、中国は300%の成長を実現する。2030年までに中国はアメリカと肩を並べるか、追い抜くことは確実である」。
中国の挑戦は宇宙開発や農業分野にとどまらない。特許申請の分野でも中国の躍進はすさまじい。技術革新の分野での特許申請と獲得の状況を見れば、トランプ政権が目の敵にする「メイド・イン・チャイナ2025(中国製造2025)」の基盤となる中国の特許獲得戦略が一目瞭然である。
ちなみに、2008年の時点では、日本は23万2,000件の特許申請を記録。中国は19万5,000件であった。ところが、その後、中国の猛追が始まり、2014年には中国はその数でついに世界一となった。それは80万1,000件を突破し、全世界の特許申請数のほぼ半分を占めるに至っている。同年、アメリカの申請数は28万5,000件に過ぎなかった。
問題は、中国がこうした特許を実際に新製品の開発に応用していることである。たとえば、スーパーコンピューターの世界を見てみよう。2010年、中国のスパコン「天河1A」は世界最速の処理スピードを達成した。アメリカの国防総省の所有するスパコンを中国国防省のスパコンが凌駕したのである。2016年の段階で、スパコンの所有数でも中国は167台で世界一となり、第2位のアメリカの165台を追い抜いた。ちなみに日本は29台という現状に甘んじている。その後も中国のスパコン開発は進み、「神威太湖之光」が世界最速の記録を塗り替えた。
そのため、国防の分野での危機感は深刻な様相を呈している。アメリカの国防総省の分析によれば、「中国は軍隊の抜本的改革に着手している」とのこと。どういうことかといえば、「人民解放軍は全世界を標的にしたパワープロジェクション(戦力投射)を構築中」というのである。アメリカ本土を含む、世界のほとんどすべての地域にある核兵器を保有する基地に対して中国からミサイル攻撃ができる体制を着々と進めている。サイバー攻撃はもとより宇宙空間からの攻撃も可能にしようとの試みにほかならない。そうした先制攻撃を可能にする技術開発に従事する優秀な頭脳が国家を挙げて育てられているというから無視できない。
実際、中国は2020年までには地球の軌道を周回する35基の衛星によって地上のあらゆる目標を24時間、監視下に置く体制を完成させつつあるといわれる。アメリカが2018年に入り、遅まきながら「宇宙軍の創設」に踏み切った理由も、こうした中国の動きを念頭に置いたものであることは論を待たないだろう。
アメリカの有力シンクタンク「ランド・コーポレーション」の最新研究『中国との戦争』によれば「2025年までに、中国はより多くの、より改良された長距離弾道ミサイルと巡航ミサイルを保持するようになる。防空システムも進歩し、最新の戦闘機や音の静かな潜水艦、センサーの向上、情報処理能力やサイバー攻撃の飛躍的進歩によってアメリカにとっては強敵と言わざるを得なくなる。万が一、米中全面戦争になった場合、アメリカ軍は初戦で甚大な損害を被るだろう。アメリカ軍は当然、反撃に出るが、勝利は保証されない。中国の強みはアメリカの弱みである。それはサイバー攻撃と宇宙からのレーザー照射に他ならない」。
要は、もし米中が全面戦争に突入することになれば、「アメリカは中国に潰されかねない」という悪夢のような結論である。もちろん、ランドの狙いは「ゆえに、今こそ中国の脅威を取り除くべきだ。そのためにも、何としても中国の経済的覇権主義を許してはならない」という危機感の喚起に力点が置かれている。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸 (はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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